よく分かんないけどなんかヤンデレストーカーちゃんが頭に浮かびました。だから書きました。五秒で読み終われ
「うふふ、もうダメじゃない。私から二分十六秒も離れるなんて」
後方から届いたのは、いやにゆったりとした足音と、彼女の声。
振り返るな!
何処まで続くかも分からない暗い廊下を、ただただひた走る。
呼吸は乱れ、とうに限界を迎えた足は鉛のように感じる。
必死に進もうと腕を振る。腕を振る。腕を振る。しかし、廊下の景色は、酷くゆっくりとしか前進しない。鉛の足は、酷くゆっくりとしか前進しない。
カツンコツンと足音が愉快に歌っている。
何度も壁に跳ね返り、あとどれ位の距離かも分からない。
逃げなければ、アイツは、俺の彼女は、
「つーかまーえたっ♡・・・・・・もう、逃げられないよ♡」
ヤンデレだ。
──部屋に、電子音が一つこだまする。
一瞬で漫画の世界から現実へと引き戻された。
漫画を閉じる。
表紙には、『ヤンデレと会った時、あなたはどうする?』などと血文字で書かれている。
冬休みに入り自堕落に身を落とす俺にとっては、ベッド下で充電コードの尻尾を生やしているスマホを取ることさえ億劫だった。
ベッドを転がりうつ伏せになって手を伸ばす。
手探りでスマホを手に取り引っ張りあげる。
画面は〝unknown〟という名前──いや、これを名前と呼ぶのは正しいのだろうか──の人物からのメッセージを写していた。
『ずっと見てます。
王子様のこと、いつでもどこでも。だ、だから安心してくださいね!王子様に近寄る害虫は全部私が駆除しますから!あ、で、でもやっぱり私ごときが王子様の御自宅に入るのは神聖なお部屋を汚してしまうので入っていません!あ、あとあの、お、王子様の匂いに包まれたら私、い、意識を保てる自信がないので。そ、それで本題なのですが、今日が始まった00:01から現在までお部屋のカーテンが一度も開いていないようですが大丈夫でしょうか?あ、わ、私ごときがおこがましい心配をしてしまい申し訳ございません!し、心配なだけなので!あの、お姿を拝見できなくて寂しいとかじゃないので!で、でも、日光っていいと思います、よ?あ、あああごめんなさい生意気な口聞いて!ああ、ごめんなさいごめんなさい!許してください!ど、どうかおそばに!(以下謝罪の言葉)』
・・・・・・なんだこの長文。
ふと隣に置かれた漫画に目が止まる。
ふむ、なるほどなるほど。これがヤンデレと言うやつか。
「・・・・・・ブロック☆」
静かに俺は送り主をブロックユーザーにぶち込む。解決だっ!
ヤンデレと会った時、あなたはどうする?
え?ブロックしますけど?
ある男の部屋を一瞬も目を逸らさずみ続けるとある中学生女子。
メッセージ送信一分後
「お、王子様、受け取ってくれたかなぁ」
メッセージ送信五分後
「あ、あれ?返信こないなあ」
メッセージ送信十分後
「お、送れてないのかな?・・・・・・やっぱり送れてる・・・・・・」
メッセージ送信三十分後
「き、嫌われちゃったの?や、やだよぅ王子様ぁ」
シャァァァ。
「あ」
「あ」
突如開いたカーテン。男と中学生ちゃんの視線がばっちりぶつかる。
「あ!あの、これは違うんです!べ、別にストーカーとかじゃなく!いや、違くはないかも、なんですけど!その・・・・・・あぅぅ」