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とある侍女は死んだ  作者: 山田そばがき
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囁くような、慄くような騒めきでワンダの意識は浮上した。

随分と深く眠っていたようでなんだが頭がぼんやりとするが、

それでも辺りが騒がしい。


「ん…ん?」


柔らかい布団は香木の香りがして再び寝たいような誘惑に抗い目だけをゆっくりと開いた。

もう日は昇っている時間のようで、室内は明るい。


ごちゃごちゃと物のあるこの部屋を私は、知っている。

サリバン教授の私室だわ。


掃除をまめに行っていたせいで見慣れてしまった調度品を眺める。

ぼんやりとしている間に意識を失ったことを思い出し、跳び起きようとするが、背中に痛みが走ったため、片腕をついて痛む背を庇いながらよぼよぼと上半身を起こした。

腕を見ると、包帯で所々保護されている箇所があるようだが、見たところ大きな傷ではなくガラス片で切った傷を大げさに保護しているようだった。


「出られたのね。あそこから。」


仰々しい包帯を解きながらワンダは呟く。

ほっとしたのと同時に様々なことが頭をよぎって頭痛がする上に騒がしい。


若人が集う学園であるため賑やかなことは多かったが、これは賑やかというのとは形質が異なっている。


常日頃であるなら、静かな基礎魔術塔でさえ騒ぎの音が聞こえるとは一体何の用件だろうか?


仰々しい包帯を全てはずし終えると、誰が着せてくれたのかは考えたくない寝間着を脱ぎ、枕元に置いてあった誰が用意したのかは分からない新しいけれど元着ていたもの同じスカートとシャツを着てなんとか身だしなみを整えた。


色々問いただしてからお礼も言わないといけないわね。


サリバン教授の飄々とした表情を浮かべながら、ワンダは塔の小窓から本部棟のほうを覗き込んだ。


本部棟に来客?それに教会のエンブレム?

行事なんてないはずよね?


本部棟の裏口にあたる場所に白い翼種の魔獣がひく馬車とめられている。

それも、一台や二台じゃない。

如何にも神聖な彫刻が施され、この距離だと正確には確認できないものの教会の装飾が施されているようにも見える。


ここからじゃ流石によく見えないわ。


ワンダは自分以外いないサリバン教授の研究室から出ることにした。

階段を降りるのは痛い身体に鞭を打つようだったが、学園の変化に粘つくような嫌な予感がしたのだ。


外に出ると日は真上にあり、現在は正午前後だということが分かる。


本部棟の方に近づけば近づくほど、ざわめきは大きくなっていく。

騒めきの根源は見つけずともすぐに見つかった。本部棟の裏口には多くの生徒が集まって野次馬と化していたのだ。


野次馬の中央にいるのはお嬢さま?

お嬢さまの周りを神官と兵士が取り囲んでいる。


まるで罪人のような扱いにワンダは自分の目で見たことが幻のように感じられるが、直ぐに否応なし現実に引き戻された。



「ソニア様が魔女だなんて…そんな。」

「絶対に嘘よ!

だってソニア様がマリーに連れられていなくなったっていう話じゃない!?」

「おい!声が大きいぞ!!」

「でも、メイナード殿下がマリーさんに熱を上げていたから…。」


野次馬の話は口々に「魔女」や「ソニア」、「マリー」という言葉を発している。


「でも、マリー・リントンは悪魔解放に関わってないっていう結果が出たんだろ?」

「マリーさんもソニア様より先に連れて行かれたわ。」

「マリーはもう連れて行かれたの!?」

「魔力が強い人達は軒並みだって…。」

「えええ!!じゃあ、みんな魔女の疑いがかけられるってこと?」

「神官様は他の生徒や先生からも魔女を探すって話本当かな?」

「魔女だなんて…恐ろしい。」

「怖いわ。」


神官が生徒や教員から魔女を探している?

イギシュラ王国では悪魔と契約を交わした魔術師を男女関係なく魔女と言う。

そして、魔女がソニアお嬢さまかマリーってそんな話はあるかしら?


ワンダの心臓は痛いくらいに音を立てている。


マリーは悪魔と契約していると妖精に言われたからそういう意味では「魔女」になってしまうかもしれない。

でも…お嬢さまが「魔女」だなんて噂は何処から出ているの?

それになんで教会と兵士が?


冷静になれ、冷静に。


頭の中でそう呟くものの、ソニアはそうしているうちに白い翼種の魔獣の馬車の近くまで来てしまう。


何がどうなったのか分からないけど、とにかくお嬢さまを助けないといけない。


ワンダは何か手立てはないかと周囲を窺うが神官と兵士に囲まれたソニアがもう馬車に乗り込んでしまう。


どう頑張っても、神官二名に兵士三名には敵いっこない。

どう頭を振り絞っても手立てが思いつかない。



魔獣はゆっくりと動き出し助走をつけると真っ白な翼を広げた。

大ぶりの翼ははためき、馬車は飛び立つ。

ワンダはその様子をただじっと見つめることしか出来なかった。


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