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日もすっかり落ちたところで、
ソニアは他の生徒達と共に基礎魔術塔から本部棟への道を談笑しつつ歩いていた。
基礎魔術塔の教諭の中でサリバン教授がもっとも分かりやすいことに間違いはないが、丁寧に質問した甲斐があり丁寧な返答が返ってきことはいい収穫だっただろう。
「分からない、分からない」と不満を口にしていた生徒も今は笑顔でソニアに話かけている。
私も分からないところを理解できたし、
ワンダにもちゃんとしているところを見せられた気がする。
ソニアは学園に従者を連れて行かないのは貴族たるもの自らが規則を守らねばならいないということもあったが、それよりもワンダが見ている前では失敗したくないという気持ちがあったのだ。
ソニアは厳しく正しいワンダが時折みせる笑みがとても好きで、要するに子どもっぽいと思いながらもワンダに褒めてもらいたいのだ。
気分よく歩いていたソニアは足を止める。
何故なら前を歩いていた生徒が足を止めたからだ。
生徒達の目線の先に立っていたのは、マリーとメイナードだった。
何か用事があったかしら?
ソニアは小首を傾げる。
お茶会以降はワンダの動きのお陰かマリーも大人しくなり、取り巻きの男子生徒の数も減りメイナードやカーティスと勉強に励んでいる様子だった。
それにどうしたのかしら?
なんだか、メイナードらしくないわ。
他の生徒たちも現れたメイナードの姿に言葉を失っている。
場慣れした笑みと完璧に整えられた服装を崩さないメイナードは明らかに乱れている。
それに、隣に立つマリーの形相も平生にはみえない。
「ソニアさん!!!」
「殿下、マリーさん、皆が驚きます。」
「……すっ、すみません!!!
ソニアさん!!あの、でも!!
お願いです!えっと、じゃない…お、お願いいたします!
一緒に来てくれませんか!?」
マリーはしどろもどろになりながらもソニアの手をぐいぐいと引く。
何処かに連れ去ろうとする様子にソニア以外の他の生徒が止めに入る。
「ちょっと、貴女失礼よ!!」
「そうよ、いきなり…。」
「でも、そのお願いします、ソニアさん。
本当に緊急事態なんです!!ウェンディさんが…。」
名前を聞き、ソニアはメイナードを無表情で見つめる。
メイナードが真剣な表情で頷いたことを確認するとソニアは生徒達に微笑んだ。
「皆さん、お先に戻られて下さい。」
「でも…。」
口々に心配するような声が上がる。
ソニアは落ち着いた声でメイナードに問いかけた。
「……メイナード殿下、急用なのですね?」
「ああ、そうだ。
すまないが共に来てはくれないか?」
ソニアは公式の礼を行いにっこりとほほ笑む。
「承知致しました。
皆さん、大変申し訳ございません。失礼いたしますね。」
ソニアはにこりと笑うと背筋を伸ばしてメイナードとマリーの背を追った。
残された生徒たちはソニアの姿がいなくなると、
様々な憶測を口々に話し出した。
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