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とある侍女は死んだ  作者: 山田そばがき
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「アタシと組むかい?」

「敵が誰かも分からない状況では

『はい』も『いいえ』もお答えしかねます。」

「今説明していると時間がなくなっちゃうからなぁ…

キミがそう言うなら、この話はなしだ。」


サリバンはそう言って、ごろんと床に寝そべり空中に指で何かを描く。

それは魔術陣だったようでふわりふわりと周囲が冷たく静かな明かりで包まれた。


承諾しなければ動く気はないというわけね。


余裕なサリバンと余裕のない自身を顧みてワンダは奥歯をぐっと噛み締め、何とか冷静さを取り戻して悪魔を動かす方法を捻り出したかった。


「貴方もここから出たいのではないのですか?」

「まあ、出たいよ?

でもアタシは絶対じゃない。

キミはもって三日で死ぬだろうけど、アタシはそうじゃないからね。」

「半刻って言ったり三日と言ったり色々なのですね。」


のんびりとした様子サリバンを煽ろうと厭味ったらしい口調で言ってはみるものの、

サリバンの声は子どもに話して聞かせるようなものだった。


「半刻以内はキミが此処から出る場合の話だ。

出るなら後手に回れば回るだけ不味い。

なんたって、敵にキミの存在が認識されたら、敵はキミを殺せば恙なく事が済むんだ。

まあ、キミを殺すだけならそんなに手間はかからないだろうからね。」


つまり、悪魔が言っていることが本当なら、

遅くなれば遅くなるほど分が悪い。


「アタシは百年待ったら恐らくここから出られるからね、

キミが出たくないなら待ったっていいんだ。

キミが弱って死んで干からびるのを見届けた後は少し退屈だけどさ。

まあ、こうなったら仕方ないよね?」


サリバンは小さな欠伸をしてから、ワンダの方を残念そうに見つめた後、

まるでとびっきりいいことを思いついたとでもいうように目を光り輝かせる。


「んー……あっ、そうだ!!

ねえ!ねえ!?キミ、不老不死には興味ない?

キミが不老不死になれば、アタシと一緒に百年ここで過ごせる!

ねぇ、掃除係くん、それも悪くないよ。」


「そんなの、いいわけが…」

「ねぇ、

ほら…考えてみてよ、

『ソニアもキミじゃない誰かが守ってくれるんじゃないかな?』」


突拍子もない話だったが、ワンダへの効果は絶大なものだった。

その証拠にワンダは思いっきり奥歯を噛み締め、サリバンを睨みつける。


他人から見ればお嬢さまを守ることに執着すること自体、

意味が分からないことなのかもしれない。


でも、他人を羨むだけだった私に

魔力が使えない私の人生に

意味があると思わせたのは幼い少女の泣き顔だった。


煽られていることを理解していた。


けれども、ワンダは動かないということが出来なかった。

心の中はあれていたがワンダの動きは品性のある優雅なものだった。


寝そべるサリバンをまるでお嬢様するように優雅な仕草で手を差し伸べる。



「私と貴方は共闘関係です。

ここから出ましょう、サリバン教授。」


「もちろんだよ、掃除係くん。」


握られた掌は昇っていた頭の血を一気に下げてしまうほど、

血の通っていない冷たさだった。


やはり、この人は人ではない。

ワンダはサリバンを引き起こしながら何度もしている再確認を三度行う。



「…分かってはいるけど妬けちゃうね。」


サリバンはぽつりと呟いたが再三確認作業を行うワンダの耳には届かなかった。



それからのサリバンは先ほどの悠長な長話やのんびりした様子が全て嘘のような動きだった。

床、空中、ありとあらゆるところにワンダが読むことすら出来ない文字のような絵のようなものを描いていく。


多分、魔術円陣じゃない。


詳しいことなど分かるはずもないワンダだったが、それでもこれが普通の魔術じゃないことは良く分かった。

光り輝くそれらがかき上げられ、後は円陣を描くのみになった時だ。


「掃除係くん、ナイフ貸してくれないかな?

持っているんだろう?」


ワンダは小さく首を傾げたが、それが必要ならばとスカートのベルトに手を伸ばし、毒を仕込んである折り畳み式のナイフをサリバンに手渡した。


「気をつけてくださいね、仕込んであるので。」

「ん、知っているよ。」


サリバンはナイフを器用にくるくると回したかと思えば、

自らの開いている胸の穴に差し込み何事もないかのように自らの身体を傷つけ、穴を抉った。


「なっ!!なんてことを!!」


声を上げるワンダを気にも止めず、サリバンはナイフに滴る液体で自分を中心に円を描く。

人間だったら赤い血が滴るだけなのかもしれないがその液体は赤いのに青く光った。


「ナイフ有難う。」


液体が滴ったナイフをサリバンはワンダに手渡す。

ワンダは恐る恐るそれを受け取り、滴った液体を拭こうとしてハンカチをとりだした。


「待って、拭かないで。」

「え?」


そう言うとサリバンは指揮を執るように手をふわりと動かした。


「これでよし。おいで。」


液体は滴っていない。

ただ、ナイフは青く静かに輝いていた。

ワンダは一度考えることを放棄してナイフをベルトに戻すと手招きをするサリバンの元に向かった。


「これから魔法でキミが元いた部屋にキミを送り届ける。

部屋についたらキミが落ちた扉を開けてくれ。」

「小さな扉ですね?」

「大きいか小さいかは分からないけど、ここに落ちて来た時に入った扉を開ければいい。

そこが開くとアタシも部屋に入れるからね。

その後はそのナイフで部屋に入った扉を封じる魔術円陣に傷をつければいい。

それで、扉は開く。」

「それだけで?」


あの魔術円陣はメイナード殿下が封印魔術円陣だと言っていた。

封印魔術円陣が傷をつけただけで開くなんてことがあり得るだろうか?


「ふふ、それだけか…。

まあ、やらなきゃいけないことはそれだけだね。

でもね、掃除係くん。

部屋に入ったら絶対に音を出してはいけないよ。


部屋の中にいるものに気付かれてしまうからね。」




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