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とある侍女は死んだ  作者: 山田そばがき
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「なっ、なんだ!?魔術が!?」

「大丈夫ですか?ルイス教授!?」

「取り押さえろ!!」


追ってきた人たちは次々と声を上げ、こちらに向かってくる。

ワンダは状況も分かっていなかったが、魔術が打ち消されたということだけはわかった。


「わぁ、追い詰められちゃった。」


張り詰めた声に対して場違いなほどのんびりとした声がワンダの後ろから答える。

振り向くと、ワンダが壁だと思っていたものは人だった。


「まぁ、静かにしててよ」


頭一つ高い顔がワンダを除き込んだ。

目は暗い室内と長い前髪で見えないが口元は笑みを浮かべているのだろうことはささやく小声が軽やかなため何となく分かる。


ワンダも驚いていたが、追い詰めていた人たちもその人物の存在に驚いていた。


「サリバン先生!?何故ここに?」


そう言ったのはパジャマ姿の近代魔術塔のルイス教授だった。

ここに急いで駆け付けたのか、パジャマを着ているルイスは警備員が持っていたランタンでぼんやりと表情が読み取れる。

目を真ん丸にして、サリバンをみるその様子は驚愕という言葉が相応しい。


「やぁ、どうしたの?魔術で拘束してくるなんて驚いたじゃないかぁ。

こんな魔導書のある狭いところで磔にされたら危ないよ。」

「すみません!私としたことが…サリバン先生だとは思わなくて!!

禁書棚に私のかけた魔術のみが作動している様子だったので、先生の探している人が現れたのかと。

ああああの!私、お手伝いがしたくて…。」


ルイスはそう言いながら、小さくなっていく。

酷い失敗をしてしまったことを親に告白する子供のようだ。

そして、サリバンの前にいるワンダを見て「お前のせいで叱られたんだぞ」とでも言うように恨めしげに睨みつけてくる。

その様子に一緒にワンダを追い詰めていた警備担当の職員数名も顔を見合わせて、

どうしたものかと思案している様子だ。

ルイスはワンダがサリバンの掃除係になった時にサリバンに話しかけてきたときもそうだったが、どうやらワンダの事が気に喰わないらしい。

ルイスはサリバンを見るたびに話しかけてくるため、

ワンダも立ち会うことが多くあるがそのたびに睨みつけるような嫉妬のような視線を向けてくる。

サリバンにはそんなことは関係ないらしく、いつもの通りのんびりとした様子でルイスに対応している。


「あー、もしかして手伝ってくれていたの?有難うね。」

「はい!!実はずっとやっておりました…少しでもサリバン先生のお役に立てればと!!

禁書棚ならたとえ盗人でも貴方の役に立つかと思いまして!」


ルイスはサリバンに礼を言われて嬉しそうに頬を染めている。

さっきまで警備員に命令していた姿ともワンダを威嚇していた姿とも違うその様子はまるで心酔しているようだ。


ころころと表情を変える様子は五十代の紳士のはずが、本当に子どもみたいに見える。


「でも…どういうことですか?

何故、先生とその女がここに?」

「掃除係くんに本を取ってきて欲しいって頼んだんだ。

でも、遅かったからアタシも来ちゃった。」

「こんな時間にですか?紛らわしいですよ、禁書なら明日にでも申請を…。」


ルイスと共にいた警備担当の職員が訝しげに会話に入ってくる。

当たり前の疑問であり、彼は彼の仕事をしているだけだったが、ルイスは警備職員をキッと睨みつけた。


「うるさいぞ、君!先生と私の会話を邪魔しないでくれたまえ!

そもそもここの本は先生の本なのだから、いつ何時取り出そうが先生の必要な時に使えばいいのだ!!」

「えっ…そうなんですか??ここは、図書室の禁書棚ですよ?」

「先生が生徒たちのために学園に貸し出すことを許した品なのだ。

図書館要綱にもきちんと書かれている!それくらい把握したまえ!!」

「はっ、はあ…申し訳ございません!」


警備職員はペコペコとルイスに頭を下げるとルイスは謝罪に気を悪くしたようで更に怒る。


「私ではなくサリバン先生に謝れ、馬鹿者!

サリバン先生、失礼を致しました。…私の早とちりだったようで。」

「いいよ、別に。あー本、必要だから何冊か持っていくね。明日許可証は提出しておくからさ。」


サリバンは何でもなさそうにそう言うと、何冊か本を取り出していく。


「はい、キミも持ってね。」

「あっ、はい。」


サリバンから差し出された本をワンダは受け取ると、ルイスはギョっとした顔でワンダを見つめる。まるで本を持つワンダを信じられないとでも言うようだ。


「君は…まさか」


何か変なことをしているだろうか?


そこまで驚くようなことをしているつもりはないため、ワンダは居心地が悪くて仕方がない。

サリバンは一連の様子を眺めながらふっと声をだして笑う。


「そうなんだよ、賢い君なら分かるだろ?ルイス、そういうことなんだ。」

「なるほど、流石はサリバン先生です。

ずっと庶務をつけなかった貴方が何故と不思議に思っておりましたが、只今、貴方の考えを察しました。

騒ぎ立ててしまい、本当に申し訳ございません!」


ルイスはそう言ってサリバンに謝罪すると、「撤収する」と短く警備の職員に声をかけ、図書室の外に出すと、ワンダの方に向かって歩いてくる。


「これは君のかね?ウェンディ・コナーくん!」


差し出されたそれはワンダが持ってきていたランタンとコーネリアスからもらった布袋だ。

ワンダは大事なものを放置してしまっていたことにヒヤリとしながらも、偽名であろうとも自分のような身分の低い人間がフルネームで名前を憶えられていたことに心底驚いていた。


「そうです、有難うございます。」

「その能力、サリバン先生のために大いに使い給えよ。」

「えっと…?」

「どうせ、何にも使えない能力なのだから、先生の為に有効に使えと言っているんだ。

むしろ、サリバン先生の役に立つために使うのは義務だ!!!!」

「はぁ…?」


ワンダは『はい』ともとれない答えを返し、曖昧に頷いた。


能力とは一体何のことを言っているのだろう?


ルイスはふんと鼻を鳴らし、そっぽを向く。

そして、再びサリバンに一礼して謝罪の言葉を口にすると、今度こそ図書室から去っていった。



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