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とある侍女は死んだ  作者: 山田そばがき
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ワンダは確実に焦っていた。

読みたいと思っていた禁書は頁を捲れども捲れどもどれもこれも読むことが出来ない。

表紙と目次は読めるのに、中身が全く分からないのだ。

いや、全く分からない訳ではない。

悪魔、生贄、儀式…これらの情報が詰まった本が目の前にあることは確かだ。

しかしながら、それ以上を読もうとページを捲るとそれ以降は真っ白で何も書いてない。

最初は可笑しいと思い、他の本に手を付けたが、どの本も同じなのだ。

終いには手あたり次第本を開き探れども探れども真っ白でどの本も読めないという事実だけが分かった。


「…もしかして。」


ワンダはとても信じたくない嫌なことを思い出す。

そういえば、グリモワールの中には魔力を要求してくるものがあると聞いたことがある。


持っていた中身の真っ白な本を注意深く観察する。

表紙の部分に掌の大きさの魔術陣があった。

ワンダには魔術は分からないが似たような魔法陣が読めない禁書に描かれていることは分かる。

これが魔力を要求する魔法陣なのかもしれないと、駄目だろうと分かりながら、駄目もとで掌をかざす。

もちろん、光ったりはせず、駄目もとは駄目なようで本はうんともすんとも言ってくれない。

ワンダは深いため息を吐く。


聖夜祭が何をするのかということを探らなくてはならない。

でも、私には魔力がないから本を読む資格すらないらしい。

いつも、そうだ…。

魔力は努力では手にいれられない。

魔力の少ない人には魔力がなど分からない感覚だから、手に入れる方法すら分からないと言われている。

努力しても手に入れられないものは、嫌いだ。

何故だか、顔も知らない母の顔や名も知らない父の想像の姿を思い起こす。

この想像の姿は子どもの頃に思い描いたただの想像であり、実際のものでもない。

でも、ワンダは繰り返し夢に見るのだ。

魔力がないから「いらない」と言われて置いていかれてしまう夢を。

そして、その夢を見たあと、とても惨めな気持ちになるのを。


魔力はいつも私を惨めにさせる。

魔術なんて大嫌い。


ワンダは魔力に関する過去の嫌な思い出を繰り返し思い出しながら、本を閉じる他なかった。


何か嫌な予感がしてならないのに、

何の情報も得られないままどこか遠い国から来た少女をお嬢さまの身代わりに贄にするよう動かなくてはならない。

胸糞が悪い。これでいいのだろうかと思い、いい訳がないとも思うのだが、それ以外にどうすることもできない。


『ああ、次は祈ってみなよ。何かに。』


また、頭の中でサリバンの声が響く。

それはサリバンと初めて会った日に、魔術に頼らない戦い方をしたワンダにサリバンが言った言葉だった。


何に祈ればいいって言うの?

神を信じて助けてくれるならみんな幸せなはずだ。

それとも姿も見せてくれない精霊にでも頼れとでもいうのだろうか?

悪魔だって、魔力が強い人や国とか人を動かす力のある人を選ぶという話でしょ?

そもそも対価に出来るものがなければ悪魔だって来てくれないじゃない。


「馬鹿馬鹿しい。」


真っ白なページの本に囲まれながら冷たい床に座り込み、ポツリと呟く。

するとゆらりとランタンの火が震えた。


「…?」


何だと不審に思い、揺れる灯りを除き込んだのとほぼ同時くらいに「ガチャリ」という鍵の開錠音と扉を開く音がする。

どたどたと複数名が図書室の中に入ってくる物音が図書室の一階で響く。


「おい、誰だ!!」

「出てこい!!」


周囲に散乱した禁書をワンダは急いで元に戻す。

戻し終わるまでに一階にたどり着ければ、ナナバ庶務長についた嘘と同じ嘘を言って言い逃れも出来るのではと考えたからだ。


「禁書棚にいることは分かっている!!出てこい!」

「絶対に取り逃がすなよ!!絶対に!生け捕りにしろ!!」


声の一人は激昂しながら、迷いなくこちらへ向かってくる。

一階へ通じる唯一の階段に魔術による眩い明かりが光った。もう、一階に戻ることは難しい。

ワンダは足音を立てないように、後ろに下がっていく。

しかし、既にワンダのいる禁書棚は二階の一番奥の場所である。

禁書棚に人が来れば終わり、隠れる場所などないのだ。


「やっと見つけたんだ…絶対に絶対に!!この手で生け捕りにしてやる!」

「ルイス教授!!ここでそこまで大きな魔術を使うのは危険です!」

「うるさい!分かっている。」


どうやら大きな魔術が展開されようとしているらしい。

ワンダは後ろに下がりながら、挟み撃ちにされるように次第に追い詰められていく。

背中に壁が当たる。恐らく一番後ろの本棚に辿りついてしまったのだろう。

もう逃げ場はない。

腰のナイフに手を伸ばしながら考える…自害も今なら選択肢としてないわけではないがワンダをウェンディとして紹介したアマーキン伯爵に何らかの疑いをかけられる可能性がない訳ではない。

故に盗人として捕まる方がまだ得策のようにも思える。

ワンダは息を吐き、そこら辺の書物を後ろ手に取ろうとしたが、本棚が後ろにあるはずなのに本がとれない。


「追い詰めたぞ!!」

「つっ!!!」


顔に光が当てられ眩しさに目を閉じる。

もう、魔術は展開され、金の光がワンダを拘束するように包み込んだ。

痛みがあるかと身構えたが、何も感じない。ゆっくりと目を開くと眩い光は既に消えていた。


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