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とある侍女は死んだ  作者: 山田そばがき
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「アタシは人の慣習的なやりとりにはあまり興味がないんだ。

でも、キミには興味がある。

だから、『普通』に話してよ。」


『普通』とは難しいことを言う。


「先程の話し方も『普通』ですよ。

貴方の『普通』というのが親しい人間に話すようなというのであれば、それは無理です。

それに、親しみを持ってもらいたければ多少は相手の気に入るような話し方をするべきでしょう?」

「ふーん、そうなんだ。

でも、アタシは今の愛想のない話し方でいいよ。」

「…まさか、その方がキミらしいとか言いませんよね?」

「まさかぁ。

だって、キミとアタシは親しい間柄じゃないし、キミはアタシと親しくなろうとしてないだろう?」


魔術師は何でもないことのようにすらすらと話す。

まるで誰にどう思われようと構わないと思っているかのようだ。

ここまで徹底していると清々しく、あるいは羨ましいとさえ思い、憎らしくもある。


ワンダは否定も肯定もしなかった。

ワンダは魔術師に気に入られることで魔術師を知ろうとした。

しかし、この知るということは一方的な行為である。

親しみを覚えられたいが親しいと自分は思ってはいないという状況と言えばいいだろうか。つまり、この魔術師には全てバレていたということになる。


「ねえ、キミのことを教えてよ。

キミに物凄く興味があるんだ。」

「人に興味がないなら、私は貴方にとってはつまらない人間ですよ。」

「つまらないか面白いかはキミが判断するんじゃない。判断するのはアタシ自身だ。」


「貴方一体何なんですか?」

「いいね、対価が必要だということだよね、アタシそういうの大好きだよ。

うん、その質問に答えてもいいけど、それに答えるならキミが何者か教えてもらわないといけなくなるね。

いいよ、交換条件で話をしよう。

何にでも対価は必要だ!」


魔術師は話せば話すほど楽しくて仕方ないという風だ。

ちらりと横を伺えばやはり、こちらをしかと見つめている。

恐らく錯覚だが、ワンダには分厚い眼鏡が輝いているようにも見えた。


対価か…。まるで悪魔ね。


ワンダは魔術師の眼鏡の隙間から見えたやたらと綺麗な容姿を思い出す。

悪魔は魅惑的で誘惑的、人間を誘って狂わせるため綺麗な容姿をしているという話がある。そして、狂った人間の願い事を叶えるために対価を支払わせるのだ。

また、この国で悪魔といえばその昔、王都の聖なる泉を独り占めする悪魔をイギシュラ王国の初代国王と神様の愛し子と一緒にグリモワールに封じたというお伽話が残っている。

他国では悪魔を精霊や妖精のように使う魔術師もいるようだが、イギシュラ王国ではそれは禁忌とされている。


でもまあ、何もしていないのに愛してきて自分勝手に力を与えてくる妖精や精霊、神様みたいな存在よりも相応の対価を要求する悪魔の方が分かりやすく信頼できる。

もしも、悪魔がいるなら自分の寿命と引き換えにこの魔術師の記憶を消して貰うことはできないだろうか。


非現実的なことを考えながらも、ワンダは出来る限り冷静でいるように深呼吸していた。


「本当に、私なんてつまらないものですよ。

それより貴方はどんな魔術を使えるのですか?」

「まあ、けっこうそれなりに色々できるよ。今は制限があるけど。」

「さっき使っていた目くらましは魔道具ですよね?」

「あー、そうそうよく分かったね。目くらましは魔道具。

ほらこれ。アルテの市場で買ったんだ。」


魔術師はズボンのポケットを探り、小瓶に入ったきらきらと光る砂金よりも黄色みがかったものを見せる。


「綺麗じゃない?アルテの街で買ったんだ。ヒカリゴケの魔力を凝縮して水晶の粉末に定着させてるんだ。空気に触れると発光する。」


確かに美しいものだ。

しかし、魔道具というからには道具である。

美しいよりも使えるかどうかがワンダには重要だった。


「これは誰でも使えますか?それともある程度魔力がいりますかね?」

「フフ、学園の入学基準以下で大丈夫だけど、魔力はある程度必要だね。

瓶を開けた時点で発光しちゃうからそうならないようにしないといけない。」


魔力がいるなら使えないか…便利そうなのに残念だ。


「……残念ながら、キミには使えないよ」


自分が考えていた残念だという落胆を付け加えられるように述べられる。


「魔術師は他人の魔力量まで分かるのですか?」

「分かっているくせに。

キミの戦い方、勝算は多少あったにしろ魔術に頼る気が全くないじゃない?

たまにいるんだよね、そういう子。

少しでも使えたら神やら精霊やら妖精やら自分を助けてくれそうなものに祈るもんだよ、ああいう場合。」

「なるほど、今後は何かに祈ってみることにします。」


ワンダは心にもないことを嫌味をありったけ込めて言う。


そうすれば魔力が付与されるならそうしてやってもいい。

でも、何度願おうが祈ろうが愛してくれといって愛してもらえないように、もらえないものはもらえない。

努力でどうにもならないものは嫌いだ。


「ああ、次は祈ってみなよ。何かに。」

「…馬鹿にしていますか?」

「いや、違うよ。馬鹿になんてしてない。」


すぐに否定されたが、コンプレックスを抉るような言葉についに言ってしまった。

不味い、感情的になってしまっている。

ワンダは馬に鞭を打ち、馬車の速度を速め、口を噤んだ。


「んー…そういうつもりはなかったんだけどなぁ。」


魔術師はワンダを少しの間見つめているようだったが、ワンダに話すつもりがなくなったことに気が付いたのか、再び大きな本に目を戻した。


出来れば二度とこの魔術師には関わりたくない。

ワンダが今祈ることがあるとすればそのことだけだ。

しかし、何かに祈ることではない。意図的にそうすればいいだけの話だ。




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