スキルポイントは振り終わりましたか?
俺は運がいい。
なんせ買った宝くじが当選したのだから。どうせ千円ぐらいなもんだろって? 売り場の人に「高額当選おめでとうございます。」って言われたときは「ヤッバ! 億かよ!?」って震えたよ。
十万だよ、十万円。そりゃそうだよな「一等賞です! おめでとうございます~!」なんて大声言ったりするわけないか。がっかりはしたが、それでも遊べるお金が入ったってんだから間違いなく今の俺はツイてる。
ニヤニヤしながら歩いてると後ろから、しゃがれた声が聞こえた。
「オイッ!! 危ない!!」
振り向くと、おっさんなのかおばさんなのか分かりづらい人が必死の形相で俺を見ていた。「なんですか?」と、尋ねる前に頭に強い衝撃が走り、いつの間にか横になって倒れて・・・。
「なんだ・・・これ・・・」
動かない体と激痛にサヨナラをして、俺は死んだ。
「新條アラタさん、貴方はお亡くなりになりました。」
目を開けるとそこには美女。いや、天使がいた。
「貴方は私の天使です。」
「ちがいます、私は天界に住む女神ですよ?」
即答だった。
「えっと、新條アラタさんは死んで間もないため混乱されてるかと思います。なのでご説明させてください。」
「アラタでいいです。いえ、アラタと呼んでください!」
彼女は、「ちょっと待ってくださいね。」と言うと。背中を向け、何やら本をパラパラとめくり始めた。
「えーとぉ、名前についてだから・・・『な行』・・・あっ! これかな!? んー・・・違った、あぁこれだ。なになに? 確認の為、一度は必ずフルネームで呼ばなければならない? 確認したあとはどうしたらいいんだろ?? あっ、あった! 昔は毎回フルネームで呼んでたんだ、へぇー! すごく長い名前が流行った時期があったから、本人確認が済んだら省略してもいいようになったんだ、なるほどなるほど。あっでも、まだ本人確認できてないよね?」
本をパタンと閉じた彼女は、一つずつ確かめるよう聞いてきた。
「貴方は新條アラタさんで間違いありませんね?」
「はい、間違いありません。」
「貴方は死ぬ直前なにをしていましたか?」
「宝くじが当たってニヤニヤしてました。」
「確認ができましたので、これからはアラタさんとお呼びしますね!」
「こんな酷いマニュアル対応は初めてだ。」
この時の俺は、相当ひどい顔になってたと思う。
「お亡くなりになられた、天界太郎さんには申し訳ありませんが・・・」
「すみません、ちょっとマニュアル読むのやめてもらっていいっすかね?」
少しキレ気味に言った。
「これがないとムリなのでムリです!」
無理らしい。
「俺は不慮の事故で死んで、火葬が済んでいて肉体がもう無いから蘇生は不可能で、また地球に生まれ変わるのはそちらの事情で出来ないと・・・その代わり特典をつけて異世界に転生させてもらえるってことで合ってます?」
「はい! 生まれ変わっていただくのは剣と魔法のファンタジーの世界です。特典ボーナスとしてスキルポイント100ポイントと『異世界言語』、『アイテムボックス』をお渡しします。スキルポイントを振り終わりましたらすぐに転生の準備に入ります。ですからスキルポイントは慎重に振ってくださいね。」
「それってポイント振らなきゃ、ずっとここに居ていいってことですよね?」
「えっ?」
「あれ、違いましたか」
「ちょっと待ってくださいね。えぇっと、強制的に転生させれるのは危険と判断した場合のみ。アラタさんは怒りん坊なだけで危険な人じゃないから・・・」
怒りたくて怒ってんじゃねえよ。
「そうですね! アラタさんの言う通り、スキルポイントが振り終わるまでは転生できませんね!」
どうやら俺はウォシュレットがない世界へ行かなくてもいいみたいだ。