『アリス』との出会い
2話連続投稿です。
「…今、仕留めるべきか?」
アーロンさん!?止めて!!!!死亡フラグはいらない!!!!
なぜ突然の死亡フラグが立つのか?
それは私の考えなしの発言のせいだ。流されるままに答えるのは止めよう。この世界は私に優しくない。日和ってたら、本当に仕留められそうだ。
ー1時間前に遡る。
・・・・・・・・・・・・・・・
がっつり叱られた後、簡単に片付けてダイニングのテーブルに座る。
「で、言い訳は?」
いや、つい、風と言えば思い浮かべていたらビル風を思い出しまして…いやー、あんなに強くなるなんてビックリだよ!でも、ビル風なんて言っても通じないだろうなぁ…。
「カイ、あんたもだよ。何で止めなかったの?魔法は初めてだし、どうなるか分かんないでしょ!もし、火魔法だったらどうなってたと思うの⁉︎黙ってないで言うことあるでしょ‼︎」
「ごめん。」
「本当に申し訳ありませんでした。」
頭を抱え、溜め息を吐くエルサ姉。溜め息は幸せが逃げていきますよ!なんて軽口は言えない。
「ボス…。本当にスラムに置いて大丈夫なんでしょうか?あんな風魔法、ある程度の魔力量が無いと無理ですよ。」
「確かに、あれは平民の魔力量では無理だな…。しかも、疲れも見えない。」
おっと、お約束の4度目の胡乱な目がきた!止めてくれ!
「いや、つい、風魔法を使うときにしたイメージが悪かったんです!そよ風、って思いながらやれば良かったけど、つい、強い風をイメージしちゃって…悪気は無かったんです!」
これはヤバい!お願いだから平民街に捨てないで!怖くて涙目だよ!!
「お願いします!もう、二度と感覚で魔法は使いません!しっかり周りを確認して、安心安全に使います!お願いだから捨てないで下さい‼︎‼︎」
ヤバい、言いながら気が高ぶってきた。泣きそう。
「…確かに、ガキが魔法を甘く見て怪我することは良くある。強い魔法を使って倒れることもないこたねぇ…。だがお前の魔力量はおかしい。あんだけの強風を吹かせて倒れなかった。どっかの貴族とかじゃねぇだろうな?」
「だから私の国に貴族は居ません!平民です。一般人です!」
ちきしょう!なんで聖女フラグかと思ったら、ボコボコにされるルートに進むんだよ!『魔力量が多くてチート無双』とか、やっぱり妄想でしかないのだ!
「お願いします!何ならもう魔法は使いませんから!でしたら安心ですよね?何も出来ないわけですから!」
「魔法、使わなかったらどうやって生きていくんだよ。お前、水を飲まなくても生きてけんのか?スゲーな。」
カイ‼︎揚げ足取りは止めて!確かにお荷物になること決定だけど、そうでもしなきゃ私はスラムからポイされて、平民にボコボコにされる未来しかないのだよ!おら、そんな未来、嫌だ‼︎
「まぁカイの言う通りだな。魔法を全く使わずに生きていくなんて無理だろう。しかし、その魔法量を制御しなきゃ、下手したらスラムに被害が出る。しかし…」
アーロンさんが『想定外だ』って顔をしながら押し黙る。そうだ‼︎
「だったら、建物で被害が出たら土魔法で直せると思います!もし、怪我人が出ても何とか光魔法で治しますから!」
そうだ!土魔法はネット小説では建物造りに使ったり、補強したりにも使ってた。ファンタジーでは地面がグラグラしてヤバい魔法だったけど、ここでは土ボコくらいの魔法扱いだ!最悪、怪我人は光魔法で治せばいい!何とか怪我の治る過程をイメージしながらやれば、きっとどうにか出来る!
「いや、だから何でハナっから被害を出すことを想定すんだよ。ってか、土も光もそんな便利に使えねぇだろ…」
アーロンさん!お願いだからアホの子見るような目は止めて!
「いや、出来るはずです!私の国のお伽話では土魔法をそんな感じで使っている話しがありましたし、光魔法も今から練習すればきっと出来ます!さっき捻挫も治せました‼︎」
「「は?」」
「え?」
シーーーーン。
え?なんで沈黙?なぜに?なんで『は?』なの?
「あー。ボス、エルサ姉。土魔法は分かんねぇが、光魔法は本当だ。こいつ、さっき自分の足、光魔法で治してた。」
カイ!フォロー、ありがとう!
「コイツは確かにおかしいと思う。けど、なんて言うか、…ここの常識がないだけなんだ。」
カイ!貶しを含むフォローは止めて。
「さっき使ってた光魔法は本当にスゴイと思った。あっという間に治してたし、他のケガ人にも使えるかもしれない。だったらスラムに置いても問題はないんじゃないか?…いや、俺が決めることじゃないけど。」
カイ!ありがとう!貶しなしのが特に素晴らしいよ!
「「…。」」
「確かにコイツはおかしいと思う。けど、嘘は言ってない。魔法も知らなかったのに、これだけ出来るんなら何かの役に、立つんじゃないか?」
カイ…。ありがとう…。
「…カイ。本心は?」
エルサ姉?
「うっ…。コイツが言った土魔法が気になる。俺も使ってみたい。」
カイーーーーー!!!!!!私を庇ったわけじゃなかったのか!!!!!
「…確かに、土でそれが出来れば役に立つ。他にもあんのか?」
唸れ!!私の記憶力!!!思い出すんだ、ファンタジー!!!!!
「えーっと、先ずは火は、いらない物を一気に焼いたり(焼却炉的な)、水は滝みたいに降らせたり(シャワー的な)、風で切り落としたり(木を切り倒す的な)も出来ると思います!」
「「「やりすぎだ!!!!!!」」」
「へ?」
「一気に焼くってなんだ⁉︎お前はここを、どうするつもりだ‼︎」
カイ?
「滝を降らせるって、全て無かったことにするつもりか⁉︎」
エルサ姉?
「切り落すって、何を切り落とすんだ‼︎」
アーロンさん?
三者三様にお怒りだ。私は出来ることをと思い、拙い記憶から何とか出来そうな事を引っ張り出してきたなのに!
「エルサ‼︎コイツを見張れ‼︎何があってもスラムから出さねぇようにしろ‼︎平民街で何か起こしたらヤバいぞ‼︎」
アーロンさん?どうしました?
「分かりました、ボス!絶対に出しません‼︎」
エルサ姉?
「お前、マジで魔法使うとき、周り見て使えよ!」
カイ?
・・・・・・・・・・・・・・
そうして冒頭に戻るのだ。
「アーロンさん、止めて下さい!そんな事、考えないで下さい!!私は安心安全にしか魔法は使いません!!!!!」
だいたい、何が出来るか聞かれたから、拙い記憶力を唸らせて答えたのに!ファンタジーの答えはお気に召さないのか⁉︎唸らせたせいで、私はすでに思考回路はショート寸前なのに!!
「はぁ…ここの人間は学園で習ってねぇし独自で使ってるヤツがほとんどだ。制御方法に関してはエルサ、お前が一番説明できるだろう。さっきも話したが、お前の家に置け。それで魔法の制御を見につけさせろ。」
「ボス!私に犠牲になれって言うんですか?あんな恐ろしい魔法を使おうと考えるヤツですよ!」
「カイ、光魔法は普通に使ってたんだな?他の属性魔法は教えたのか?」
「うん。何もおかしい所はなかった。他の魔法も詠唱は教えたよ。」
「まぁエルサの懸念は分かる。おい、外で他の魔法を使ってみるぞ。それでお前の魔法に危険を感じたら処分する。いいな。」
良くない!処分するって言われて『良いですよ』なんて言う人間が居るか!!
…けど、確かに危険かどうかの判断をされて当たり前だよね。仕方ない。変に強い効果にならないようイメージしよう。ファンタジーは忘れよう。
「分かりました。」
ーーーーーーーーー
外に出て魔法を実践する。派手にならないように、最小限に止めるようにイメージしなきゃ!そして、信頼回復だ!!
「じゃあ先ずは、火魔法からだ。そこの薪に火を着けてみろ。間違っても焼き払うなよ。」
そんな事を少し離れた場所からアーロンさんが言う。そんなに警戒しなくても良いじゃないか!
気を取り直して、火魔法だ。よし、安心安全ならライターだろ。そして、魔力を出しながらイメージ。さっきアーロンさんが出したみたいに、指先から火が出てくるようにイメージして…ライターあ、カチッて鳴るよね。
パッチン
「『ブロォッサ』。」
よし、完璧だ!間違っても火炎放射器じゃ無いぞ!
「「「…。」」」
うん?なんで3人とも怪訝な目で私を見るんだ?どこかおかしいかったか?アーロンさんと同じように指先に火を着けただけだぞ?
「…何で指を鳴らした?」
「へ?」
「指を鳴らす必要なんてないだろ?」
「えっと、ライターを、火を付けるときに使うの道具をイメージしたので…。」
「しかもまだ火が着いてるし。色々、おかしいだろ…。」
え?ライターの火ってそんな簡単に消えないよね?そういや、アーロンさんの火はちょっとしたら消えてたっけ?
「…それ、消えないのか?」
「あ、そうですね。薪に火をつけて消します。」
火の取り扱いには十気をつけなきゃ。薪に向けて火をつけるが、ライターの火の大きさだと薪に近すぎてちょっと熱い。火、少し伸ばせないかな?っと伸びた⁉︎よしよし。
そして、薪に火が着いたのを確認して、火を縮め、フーッと指先の火に息を吹き掛けて消す。
「…お前って本当におかしいな。」
突然の罵倒。カイもエルサ姉も頷かないで。
「まぁ良いだろう。他の魔法も使ってみろ。」
アーロンさんに言われるがまま、魔法を使い始める。次は水魔法。これは蛇口を捻って出すように指先からチョロチョロと水を出す。その後は土魔法。今度は欠けた壁に指先を向けて、粘土で隙間を埋めるしていく。良かったか!土魔法もこのイメージで使える!
「…言いたいことはあるが、とりあえずお前の魔法に危険はない事は分かった。最後だ。もう一度、風を使ってみろ。」
最終試験だ。さっきみたいな強風にならないよう、先ずは草原をイメージする。そう、ここは高原にある見晴らしの良い場所。優しい風が吹き、草花の薫りを運ぶ。
「『ヴィン』」
優しい風が吹くが、実際のここは土むき出しの場所。草花の薫りではなく、土煙が巻き起こり、みんなで咳き込み出す。
「『ゲホッ』、すみません!優しい風を『ゴホッ』、イメージしたけど、土が『ゲフォッ!』。」
慌てて土魔法でコップイメージして造り、水を入れる。
「『ジュデゥー』、『バッフェン』。」
それぞれに渡すが、怪訝な顔で私と造ったコップを見る。なぜか使おうとしない。しかし、私も自分の事に精一杯なので、作った水で口をゆすぎ、口に入った土を吐き出し、もう一度、水を入れて飲んで落ち着く。
3人もそれを見て、同じようにしていった。そっか、安全か分からなかったから確認する為に、直ぐに使わなかったのか。
落ち着いた所で、アーロンさんが話し出す。
「…お前の魔法は確かに使い方がさえ気をつけりゃあ大丈夫なのかは分かった。しかし、その使い方は今まで無かった使い方もある。エルサ。」
「はい。」
「こいつと一緒に住んで基本を教えろ。どうにもコイツのイメージはおかしい。コイツが言ってた『異世界』か何だか分からんが、ここの常識がない。今はまだ良いが、何かあってかじゃあ遅いしな。おい、お前。名前、何っつったか?」
いよっしゃーー!!家、確保だ!!!!しかも、カイとエルサ姉と一緒だったら安心だ!!!!
「有栖 江理名です。」
「その、名前が2つあんのも紛らわしいな…。よし、今日から『アリス』だけ名乗れ。良いな。」
「江理名じゃダメですか?『名前』は江理名なんです。」
『アリス』は嫌だ。不思議の国のお話のプリンセスで、自分の見た目と離れすぎた可愛いイメージとして恥ずかしいのもあるが、何よりカイが『おい、有栖』って呼ぶと、何だか私はカイの下っ端っぽいじゃないか!下っ端扱いは嫌だ!!
「…『エリナ』はエルサと似て紛らわしいし、聞きなれねぇんだよ。『アリス』にしろ。文句は受け付けん。」
No!!しかし、聞きなれないなら仕方ないか…。
「あとは…。…約束しろ。これから先、勝手に魔法を使わないと。使うのはエルサの許可が出たものだけだ。良いな。」
「分かりました。これからよろしく、エルサ姉、カイ。」
ーこうして『アリス』としての生活が始まった。
エルサ姉とカイ。これから先、思いも寄らない連続に2人を巻き込む事になるのだが、この世界で出来た、初めての家族との生活が始まった1日目だった。