「私」との出会い
「お邪魔します。」
エルサ姉とカイの家に着きました。うん。俵担ぎをされてですけどね。あの後、本当に大変だったのだ。
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「はぁ…とりあえずウチに来てくれ。ここで話す内容でもないだろう。」
うん。その通り。異世界から来た人間なんて、ここの人全員に知られなくて良い。正直な話し、知られたくない。だいたい人に多く知られると、大変なことに巻き込まれる率が高いのだ。今まで読んだことのあるネット小説はほとんどそうだった。それに、今、私の持ってる荷物も注目を集め始めている。止めてくれ。セールで買った安いリュックなのだ‼︎
「…エルサ。知らない人間を家に上げるのは無用心じゃないか?」
君は誰だ?私は君を知らないし、当事者でもないのに何で?
「オーケ。それ、本気で言っているのか?さっきのマヌケ姿、見てなかったのか?」
忘れてくれ!あれは3回の呪いのせいだ‼︎
しかし、君がオーケか。君がエルサ姉を呼んだせいだぞ、こんな事になったのは。それに私は非力な保育士だ。重いものは…うん。子どもって結構重いよね。けど持ち上げるだけで(時々、クネクネされてバランスが大変だけど)、エルサ姉みたいに体術が得意な人間ではない。安心してくれ。
「いや、もしかしたらがあるかもしれないだろ?コイツが魔法を使わないとも限らないんだ。」
おっと、話したこともないのにコイツ呼ばわりですか。凄いな。こんな奴、絶対モテナイだろうな。それに魔法は今まで一度も使ったことがありません。てか、使い方も知りません。
「だったら、さっきのタイミングで使ってないとおかしいだろ。それに魔法を使おうとしても問題ないさ。詠唱前に喉を切ればいい。」
……。イマ、ナンテオッシャイマシタカ?
「でも、」
「あー、カイのことを知らせてくれたのには感謝する。しかしコイツにカイのことを聞かなきゃいけない。無理言って帰ってきたから、さっさと済ませてボスにも報告しなきゃいけないんだよ。」
わぉ。オーケさん、めっちゃ睨んでくる。なんで?
「はぁ…お前が昔、元平民の女に騙されて警戒しているのは分かる。だがこいつじゃ無いだろ。」
ナルホド。昔、自分が騙されたのか。でもエルサ姉の言う通りだ。私は私であって、その元平民ではない。
「…っち、エルサに何かして見ろ。生きてることを後悔させてやる。」
おいおい…。マジで勘弁してよ。何で異世界召喚されて早々に命の危機を感じなきゃならないのだ!私は無害な保育士だ‼︎
「ほら立てよ。いい加減、足の痺れも引いただろ?カイが先に帰ってんだから急ぐぞ。」
カイ!いつの間に逃げたのだ⁉︎一緒に連れていって欲しかった‼︎切実に‼︎
「はい。」
と、立とうとしたら再度倒れた。
「…まだ痺れてんのか?」
違う。そうではない。
「実は、足をひねったみたいで。…痛くて立ち上がれません。」
さっきの怪我連鎖、3回だけと思ったのに、実は4回発動していた‼︎…何だ、これ。何か私、こっちに来て呪いでも受けたのか?数字もあんまり響きが良くないし…。もう嫌だ。
「…もう一度聞こう、オーケ。コイツが本当に危ないと思うか?」
何かオーケさん、めっちゃ呆れた目になってる!絶対『うわぁ…無いわー…。』て目してる‼︎
「いや、俺が悪かった。…すまん。」
他に集まってきた人たちも呆れた目をした後、爆笑された。
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こうやって、私だけが心に多大な傷を負った。ヒドい。そして歩けないので運びやすい俵担ぎをされたせいで、微妙にお腹が食い込んで肉体的にも辛かった。
担がれて移動した2人の家は、入り口にあったようなバラック小屋ではなく、ちゃんとした石造りだ。所々ボロボロだけど。担いで500メートル近く歩くエルサ姉にビックリだけど。
簡単に土埃を払い、家に入る。
何から話せば良いんだろう?とりあえずキッチン&ダイニングのテーブルに案内された。あ、このお茶美味しい。
「…とりあえずだ。カイとお前は一体何を話していたんだ?長い時間、話していたんだ。込み入った話をしていたんだろう?」
うーん、込み入った話しじゃなくこの場所の事を聞いていたのだ。
「何ってなぁ?」
「うん。世間話って言うか常識の話っていうか…何て言えば良いかなぁ…。」
「だからその話をしろって言ってんだ。だいたいお前はどっから来たんだ?名前は?」
ですよね。職質としてはまず本人確認からですよね。
「有栖 江理名、20歳です。ここに来た流れをうまく話せるか分かりませんが…」
とりあえず今日、私がここに来てからの3、4時間を話した。
歩いていたら突然ここに居たこと。状況を確認する為にカイに話しかけたこと。そして、聞けば聞くほど私の知らない土地で、逆にカイも私の国の名前を知らないこと。とりあえずどうにかする為、カイに色々教えてもらったこと。その途中でエルサ姉が来たこと。
「うーん…。アリスでもあり、エリナでもある20歳ねぇ…。」
そこ?まあカイもこの国には苗字はないって言ってたもんね。それに何でここに私が居るのか、私が聞きたいくらいです。
「分かった。とりあえずお前の話、私なりにまとめるぞ。違う所があったら言ってくれ。」
「はい。」
「お前は『ニホン』って国から突然ここに飛ばされてきた。理由は不明。とりあえずここは何処なのか確認する為にカイに話しかけた。そこで初めて『ゾイシスナイト』の『王都』だと知る。しかしお前は聞いたことがない国だった。カイに情報料を渡す為に金を出すが、この見たことない金だった。」
エルサ姉が100円玉2枚と50円玉を並べる。
「この大陸で使われている『ジェム』ではない。カイは価値があると思い、お前にこの国の事を教えた。身なりからしても平民だが、お前は突然ここに飛ばされたから他国の証明書もない。当たり前だがこの国の戸籍票も持ってない。しかし、お前はこの金しか持っていないから、カイに頼み換金に行こうとしていた。…合ってるか?」
凄い!あんな長い話をメモも取らず、メッチャ綺麗にまとめてる‼︎さすが首席‼︎
「あの、私、これからどうなるんでしょうか?」
とりあえず安全を確保したい。このゾイシスナイトは、たぶん私のようなワケのわからない人間は、駆逐されそうな気がする。カイから聞く限り、この国は何か怖い。王族・貴族・平民の区別は分かる。日本にも昔、あった制度だ。しかし、この『居るはずのない人間』ってなんだ。しかも、国が認めているというのが分からない。後ろ暗いことしても『居ない』から犯罪のしたい放題じゃないか。いや、逆に『居ない』から関係ないのか?しかも税を払わなければ戸籍を処分するって…どんだけ命が軽いのだ。いやお金重視なんだ。
「お前のこれからに関しては、とりあえずボスに報告してからになる。とりあえず報告してくるからここに居ろ。」
そう言うとエルサ姉は、家から出て行った。
「「…。」」
う、沈黙が気まずい。そうだ!
「カイ。ひどいよ。何で置いて行ったの?あの後、大変だったんだけど。」
とりあえずカイにブーたれる。
「いや、エルサ姉に先に帰って準備してろって言われたんだ。たぶん、口裏合わせしないように分けたんじゃないか?」
「なるほどね〜。って、エルサ『姉』ってお姉さんなの?カイから聞いたのは叔母さんだけだったけど…」
「あぁ、そうだよ。エルサ姉は母さんの妹。オバさんって言うと怒るんだ。『お姉ちゃんって言いなさい』って…。」
確かに年頃の女の子は気にするだろうな。
「じゃあ、エルサさんって若いんだ。私より下かな?何歳なの?」
「いや。お前より上だ、22だ。」
え〜〜‼︎⁇なんなら高校生くらいかと思ったぞ‼︎
「それよりお前が20なことの方がおかしいけどな。もっと下に見えた。」
いやいや、確かに日本人は若く見られがちだが。ここは異世界と言ってもそんなに目鼻立ちは日本人と変わらないし、髪色も普通だし。
「だからエルサ姉も気になったんだろ。名前もおかしいしな。」
あぁ、だから『アリスでもあり、エリナでもある20歳』って困惑してのか。
「まぁ知らない文化だと不思議に思うよね。そう言えばさ、何でスラムの入り口付近はあんな簡単な家の作りなのに、この辺の家は石造りなの?」
ちょっと不思議なんだよね。奥に行くほどある程度しっかりした建物になる。なのに入り口は付近は簡素な作り。あんなの直ぐに壊れそうなんだけど。
「あれは『元平民用』だからさ。」
「『元平民用』?」
カイが言うには、税が払えない人間や、街から逃げてきた人間が駆け込む用の家とのこと。本当に逃げてきたのかは直ぐには分からない。もしかしたら良からぬ考えを持って逃げたフリをしているのかもしれない。実際あったことだと、犯罪の身代わり・奴隷として・ただ暴力を振るいたいが為などetc…悪いことを考える人間はどこにだっている。その為、直ぐに奥に行けず、本当に逃げてきたのか、それとも税が払えなかったのか、確認も含めて、最初はそこにしか居れないそうだ。
大丈夫そうだとボスが判断したら移動が可能。それまではスラムの住人も警戒して、絡んだりする。逆に絡まれたりもする。それを反対側の平民が見ているから、平民はスラムには行きたくないので税を納める。国にとっては平民が税を納める効果もあるので見て見ぬ振り。払えない人間は必要ないのでスラムに行けと。
「だから俺たちみたいに本当に逃げてスラムに行くなんて、ほとんど無いとさ。」
「何か他人事のように言うね。」
「ここしか知らないからな。俺が3歳の頃に逃げてきたって聞いたけど、そんなチビの時なんて覚えてないし。腹が減ってることしか覚えてねーよ。」
そりゃそうだ。私だって覚えてない。ってか3歳からって大変だな。
「じゃあカイはあそこで何してたの?危ないからエルサさんに怒られるって知ってたんでしょ?」
「うっさい。」
「いや、私としては助かったから良いんだけど。何かあったの?」
「別に。」
どこの女優さんですか?
「ってかお前は自分のこと考えろよ。あそこに住むんだろ?」
え?何で?何で暴力が飛び交いそうで、何かに巻き込まれる率の高いあそこに⁉︎
「何で⁉︎」
「お前、来たばっかじゃん。しかも怪しいし。」
「怪しくない‼︎だいたい私は好きで来たわけではない‼︎‼︎」
「いや、怪しいだろ。急に出てきたからビックリしたぞ。」
「違う!いや、客観的に見て突然出てきたかもしれないけど、私だってなんであそこに居たか分からないんだから‼︎私は被害者だよ‼︎‼︎」
「知らねーよ。あ、」
「もう!何⁉︎何なの⁉︎私が何したって言うの⁉︎帰りたい‼︎家に帰りたいーーーー‼︎‼︎」
ギャン泣きだ。
ってか何!何なん⁉︎私が何したって言うと‼︎何か悪いことでもしたってか?無い!絶対に無い‼︎おかしい‼︎絶対におかしい‼︎‼︎
「…大丈夫か?」
大丈夫なわけないだろう‼︎
ー切れた。この世界は絶対におかしい‼︎
「大丈夫なワケないじゃん‼︎私が何したって言うの⁉︎ただ歩いて帰ってただけじゃん!普通に歩いてたら『ドコここ』だよ‼︎ネット小説か⁉︎異世界召喚か⁉︎なのに誰も居ないし迎えもない‼︎何が起きてんの⁉︎」
「「「…」」」
クッソ、無言かよ‼︎
「だいたい何もかもがおかしい!歩いて突然ここに居て⁉︎事故にも遭ってないし、何か光ったりもしてない‼︎『は?』だよ‼︎何⁉︎フツーはここでさ、『よくぞいらしゃいました、聖女よ』とか、あんでしょ⁉︎なのに‼︎なのにあるのは知らない場所ってだけ‼︎自力で頑張れってか⁉︎何を⁉︎どうやって⁉︎」
「おい、」
「なに⁉︎私がおかしいってか⁉︎いつから日本はこうなった⁉︎バス停に歩いて『いい時間のバスあるかな?』って思った一瞬の間に何が起きた⁉︎」
「おい、」
「何とか頑張ったさ!何かチートが起きるかもしれない!そう思ったら目が覚めて『いつもの夢か』って思ったさ‼︎なのに変わらない‼︎こんなに話しても目が覚めない‼︎なんだここは‼︎だいたい」
「落ち着け!」
「痛った‼︎」
背後から頭を叩かれた。
「良いから落ち着け。」
誰だ⁉︎
後ろを振り向きながら睨む。
「っ、大丈夫だから、な?」
エルサ姉だ。後ろに知らないおっさんが居るけど。
「分かった。お前が未だに混乱していることは良く分かった。だから、な?」
うぅーーーーーーー
「急にここに居たんだ。怖かったんだろ?」
そうだ。安全な場所がないなんて、日本にはない。
「お前が落ち着いて話していたから、何がしか事情がある人間だと思っていた。でも違ったんだろ?」
うん。私は突然、異世界に放り込まれたのだ。
「お前は本当にここを知らない。さっきも何を言ってるのか分からなかった。」
そりゃそうだ。ここは私から言うとネット小説だ。お伽話だ。非現実社会だ。ファンタジーだ。
「お前が話すことは嘘ではないだろう。だが私も、その、聞いたことも見たこともない。」
私は嘘を吐いてない。
「だからもう一度聞く。お前はどこから来たんだ?」
私は…
「私は、有栖 江理名。日本から来た日本人だ。」
ー認めなくちゃ。ここは『現実』の世界なんだと。
サブタイトルは、最後に【向き合った「私」と世界=この世界と「私」との出会い】と考えて付けました。