1年2組 ST後
翡翠先生が出て行った後の教室は、
「薫ちゃん...可哀想...」
浅黄を憐れむ者。
「2段降格とか、余程勉強しなかったんだな。なんで最初2組に配属されたんだか。」
浅黄を見下す者。
「...はは、私じゃなくてよかった...」
安堵する者もいた。
しかし...俺は浅黄から目を離せなかった。
「なんで...?なんで私が...?なんでなんで...?ちゃんとやったのに...嫌なことちゃんとやったのになんで??あぁ...どうしよう...」
「お、おい浅黄、落ち着けって「無理だよ!!隼人くんは降格がどんな意味を持ってるのか分かってないの!?」
もちろん理解している...つもりだ。
降格した生徒は、その努力不足で他生徒から蔑まれる。元々上にいたのだから、能力はある。それなのに勤勉に動かなかったことに対して見下され、孤立する。2段階ともなれば尚更だ。
昇格して元のクラスに戻って来れても、それは変わらない......その上、降格した生徒を教師はぞんざいに扱う。だから虐めとかをくらってもどうしようもなくなってしまう...だから浅黄が取り乱すのもわかる。でも今はどうにか窘めないと――!
「...浅黄さん、落ち着きなって。」
「ッ誰!?」
「僕だよ。紫苑だよ。浅黄さん、1回深呼吸して、降格のことは忘れて、ね?」
「!.....う...ん...」
浅黄の頭が冷めてきたのもあり、段々と浅黄は落ち着いてきた。紫苑、声掛けてくれてありがとう。そしてすまない。
「...じゃあ僕が浅黄さんを4組に送ってくるね。」
紫苑は浅黄を連れて、4組へ向かった。
―――
紫苑が帰ってきた。
「あ、あぁ...ありがとう紫苑...すまん...」
「緑川くんが謝るようなことじゃない。僕が彼女をなんとかできたのも偶然だって。」
「あ...そう、か...」
俺もまだ動揺が収まらなかった。それは紫苑も同じだったらしく、
「...怖いね、あんな快活な浅黄さんがあんな風になっちゃうなんて...」
顔を青くして静かに言った。
...席に戻らなきゃ...
「...じゃあ、そろそろ席に「ねぇ隼人、なんでだと思う?」
郭が突然俺に向かって問うた。
俺は返答ができなかった。
そんなのお構いなしに郭は続ける。
「薫ちゃんの成績表、隼人も見たよね?明らかに隼人よりも高成績だった。それなのに隼人は2組に残って、薫ちゃんはなんと2段降格。ねぇ、なんでだと思う?」
郭は再び俺に問うた。
「な、なんで...って...そんなの、分からないよ「薊高校の2組の頭脳はただの飾り?」
明確な、敵意を持った罵倒が発せられた。矢継ぎ早に続けられる郭の言葉に、俺は何も言い返せない。
「考えるのを放棄しないでよ。なんで降格したのか分からないなら、知る努力をしようよ。」
そう言って郭は教室を出ようとした。
「お、おい郭!どこ行く気だよ!?」
「原因究明だよ。0組特権で自由に動けるからね。ほら隼人たちも。知りたいなら来なよ。先、職員室に行ってるよ。」
郭は振り返らず教室を出た。郭が職員室の方へ走っていく音が聞こえる。
「...なぁ紫苑、どうする?」
「どうする...って、どうしようも...」
1限開始のチャイムが鳴った。
俺達は立ち尽くしたまま、動けなかった。