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がめついパイロット

がめついパイロット 爪の垢

作者: てふ

思いついたので適当に書いてみました

 ワーミ国王子ピーノはなんとかジャンとの面会にこぎつけていた。

 ジャンが右手を振って追い払おうとした。「無償で案内をするのはごめんです」

「いや、無償ではない。我が国の爵位を与えると申しておるではないか」

食い下がるピーノをじろりとにらんで、「爵位には興味はありません。用件は終わりました」

 ジャンが手を叩くと商人ギルドの屈強な職員がピーノを部屋からつまみ出した。

 ギルドマスタが揉み手でジャンにすり寄り、「申し訳ございません。あの者は出入り禁止にいたしますので」

 諦めるわけにはいかなかった。商人ギルドの線は使えなくなったが、王族としてまだ手は残されていた。

 兄で国王のジュゼッペ経由でジャンに会おうとしたが断られた。

 メンツをつぶされたジュゼッペはジャンの逮捕を命じたが、商人ギルドの猛反発を受けて撤回した。

 恥の上塗りで頭に血が上ったジュゼッペは暗殺を指示した。

 暗殺者のアマンダは商人ギルドから出てくるジャンを待ち構えた。

 事前情報でギルド内にいることは確かめられていた。

 ただ疑問だったのは誰も建物に入ったところを見ていないことだった。

 変装をしていたのではと無理に自分を納得させ玄関前でずっと粘っていた。

 面会相手はとっくにいなくなったし、ギルドの職員も帰宅した。

 ギルド内の照明も消えている。にもかかわらずターゲットの姿だけがなかった。

 焦れたアマンダはギルドに忍び込んだ。布で手や足を包んで、音を立てないように忍び足で歩む。

 一部屋ずつ人がいないか確かめる。鍵がかかっていれば解錠した。

 鼠一匹もいなかった。本業であれば金目のものをあさるのだが、今回は目的が違う。

 それにギルド内のお宝はアマンダの手に余るものばかり。撤退しようと1階に戻るとジャンがいた。

「お疲れ様。探し物はあったかい?」アマンダは素早く短剣を握った。

「美人が夜這いしてきたと思ったのだけど違ったのか」

 ジャンが握った右手を突き出した。親指から立てていく。手が開いたときアマンダは意識を失った。

 夜の間にワーミ国の闇に巣くっていた暗殺組織『地獄の天使』はほぼ壊滅した。

 人目に触れることはなかった。国王ジュゼッペの側近の1人も急死した。

 彼が『地獄の天使』に暗殺を依頼していた。

 なぜかアマンダだけが生かされたのだった。

 組織がつぶれたことで自由を得たアマンダは本業に戻った。

 父親から継いだもので人に誇れるものではない。

 父親と違ったのは得た金を湯水のように使わなかった。

 身体と知恵を磨くために費やした。だからこそ暗殺組織にスカウトもされた。

 組織で得た情報をもとにジュゼッペに目通りがかなった。

 アマンダとジュゼッペは一夜を共にした。ベッドではなく語り明かした。

 暗殺するためには標的のことをよく知らなければならない。

 どのように思考しどう行動するか。それで暗殺場所や方法が決まる。

 『地獄の天使』は総力を挙げてジャンのことを調べたが、依頼料がとてつもなく高い以外はさっぱりだった。

 その他は成功率がほぼ100%というものくらいだった。

 どうしてほぼなのかも理由がはっきりしない。

 何よりもどんな案内をするのかもつかめなかった。

 当然のことだが住んでいる場所や出身地も不明だった。

 アマンダの記憶にはジャンのセリフが残っていた。

 もしかしたら色仕掛けなら有効かもしれない。それに殺されなかったという事実もある。

 ジュゼッペも悪だくみにかけては人後に落ちない。

 金貨を鋳直しワーミ金貨発行することを思いついたのはジュゼッペだった。

 金の含有量が3から5%というとてつもない悪貨で、他国からは交換を拒否されている。

 巨大な事業を打ち出し実行することで仕事が増え、下々も金貨を使うようになった。

 流通量が増したことで金回りはよくなった。国民の所得は上がったが、生活は楽にならなかった。

 庶民はまだしも他国の優れた製品が買えなくなった貴族からは恨まれた。

 その恨みを逆用し反逆罪に陥れ、財産を国庫に入れ投資に回した。

 景気はよくなっていたが、破綻も目前となっていた。

 回避するためにはさらに金が必要となる。ジャンを金づるにしようともくろんだ。

 かかされた恥を雪ぐためにもアマンダに乗ることにした。

 利用する駒として弟を選び、アマンダをピーノの秘書官に任命した。

 アマンダは考えられる手段をピーノに吹き込んだ。

 だまされたような表情になったジャンをピーノはにこりと出迎えた。

「今日は取引にためにお伺いしました」椅子をすすめた。

 警戒するかのように、「取引ですか。話だけは聞きましょう。また狙われるのは煩わしいですから」

 交渉できそうになったので後半を無視した。

「金貨500枚を支払います。それで人魚の島に案内していただきたい」

 右手人差し指を顎に当てた。「人魚の島ですか。寡聞にして遺跡があるというのは聞いてことがありませんが」

 遺跡の発見や発掘が趣味のピーノはジャンが遺跡のことに触れたことで気分が高まった。

「遺跡ではなく、どうしても欲しいものがありまして」

「そうですか。何かとは聞きません。それで金貨500枚は大陸通貨でお願いします」

「ワーミ金貨ではダメですか?」「あれを金貨というのなら金鉱石も金貨です。くずは不要です」

 ひどい言われようだが、ワーミ国以外のどこも同じようなものだ。

 ピーノも怒る気はなく、薄笑いを浮かべただけだった。

 交渉はここからが本番とばかりに身を乗り出した。

「となると500枚を用意するのは難しくなります」

 立ち上がろうとしたジャンをまぁまぁと両手を振ってなだめた。

「追加で金貨50枚を払いますのでバイアの遺跡の場所をお聞きしたい。あの遺跡にはロム帝国の秘宝や

金貨が眠っているでしょう。その金貨で払いたいと考えています」

 ジャンの左中指がテーブルを叩いた。視線が天井をさまよう。

 音がやんだ。「遺跡の場所の金額は大陸金貨またはロム帝国金貨100枚とします。

ただ、金貨が発見されなかった場合の担保としてあなたが収集、研究した資料の一切合切を渡してもらいます。

この条件が飲めなければ契約は不成立です」

 ピーノが下唇を噛んだ。遺跡に関する資料は多額の費用と時間が費やされている。

 失えば二度と集めることはできない。手放したくはないが帝国の金貨があれば戻ってくる。

「要求を受け入れます」悔しさがにじみ出ていた。

 国王が珍しく大型船3隻と乗務員300名に1か月分の食料を用意した。

 ピーノは旗艦チェザーレに乗り、ニボレの港を出港した。見送りの中にアマンダの姿もあった。

 アマンダは同行しようとしたが船乗りの猛反発で断念していた。

 ジャンが描いた地図を広げた。海流まで描かれている優れものだ。

 ニボレから西南西にバイアを示す印がある。

 ピーノの研究ではニボレから西に向かってとしか判明していない。

 ジャンはどこからこの位置を割り出したのか。

 航海は順調で魔物に出くわすこともなかった。

 船長のフェルディナンドは神の恩寵だと顔をほころばせた。

 5日目の昼頃に目的地の近くに到着した。

 波がいくつもの岩礁を洗っていた。危なくて船が寄せられない。

 ピーノは5名の船員と岩の近くまで上陸用の小舟で寄った。

 海中に目をやると倒れている柱の残骸があった。

 よく観察すると岩礁は崩れた柱の一部だった。

 一夜にした沈んだという伝説を思い出し興奮した。

 海底の調査は翌日から始まった。船員たちが潜って様子を伝えるだけだがピーノは書きとっていた。

 3日かかって状況が判明した。ピーノは一番大きな岩礁の下に空洞があると断定した。

 船員たちが交代で岩礁に取り付き調べる。海面下3mに入れそうな割れ目が見つかった。

 割れ目の中に入っていくとして息が続かない。どの船員もしり込みした。

 ピーノはこの事態を予想し秘密兵器を用意していた。

 人が立ったまま入れる布製の筒だった。筒の長さは50m。

 ピーノを先頭に3名の船員が筒に入った。後ろから魔法で風が送られる。

 筒の先を外にいる2人の船員が持って海に潜った。筒の先から泡があふれる。

 筒が伸びていく。割れ目は1人分の幅しかないので1人が先行した。

 1人が筒を伸ばしていく。苦しくなると泡に頭を突っ込んで呼吸した。

 ピーノの顔は緩みっぱなしだった。精緻な黄金の細工や巨大な魔法石などロム帝国の研究が進みそうな

遺物が多数引き上げられた。

 遺物だけでなくロム帝国金貨も千枚を超えていた。

 これで研究資料が取り戻せる。さらに資金に余裕ができる。

 研究施設の拡大も夢ではなくなった。笑いが止まらないとはこのことだ。

 ジャンが目の前に現れた。「金ができたようですね。ではこのまま人魚の島に行きましょうか」

 ピーノはドキッとして心臓が止まりそうになった。

 上陸するとき会おうといい残してジャンが消えた。

 フェルディナンドに進路変更を指示した。反対したが、7日遠回りするだけだと説明されるとしぶしぶ従った。

 食料や水があるからだが、人魚の捕獲を狙っていた。

 船団は3日間北上した。ぽつんと島影が現れた。岩礁がぽつぽつと頭を出している。

 岩礁の上で人魚が日向ぼっこをしていた。

 海中では人魚や半魚人が群れていた。フェルディナンドが網を用意させると人魚たちは散った。

 ばつが悪くなったフェルディナンドはピーノに小舟での上陸を提案した。

 暗礁が潜んでいそうなので即座に了承した。

 島と船の中間地点でジャンが海面でロッキングチェアに揺られていた。

 ピーノは椅子が沈まないのかこめかみが痛くなった。

 ジャンが右手を上げた。「遅かったね。どの人魚を選んでもいいですよ。危害を加えなければ襲うことはありません」

 5人の船員は薄気味悪そうにジャンを眺めた。

 パニックにならないのはピーノの知り合いと思ったからだろう。

 ピーノはかろうじて、「ああ、どれでもいいのだな。泳いでいてもか」

「舟に引き上げられればいいですよ。島に行ったほうが楽だと思いますが」

「爪を切るのは攻撃とみなされないのか?」

 ちょっと間が開いて、「爪を切るしぐさをしてからなら大丈夫です。危なくなったら介入しますよ」

 船団からどーんとラムによる攻撃を受けたような音がした。

「あ〜捕まえようとしましたね。手を出すから死ぬことになる」

「死ぬ。どういうことだ」血相が変わった。3隻とも沈んだら帰れなくなる。

「大丈夫です。最低1隻は残すように約束していますから。人魚というのは話し合いができるんですよ。

言葉は違いますけど。彼らがバイアの場所を教えてくれたんですが」

 ピーノは考えることを放棄した。常識から外れすぎている。

 手が止まっていた船員たちに漕ぐよう命じた。

 上陸して近くにいた長い黒髪が尾びれに届きそうになっていた胸が張り裂けそうになっていた人魚の爪を1枚もらった。

 旗艦1隻だけで帰路についた。ロムのお宝はすべて旗艦に積んでいたので無事だった。

 船長は青い顔をして生きた心地ではなかったろうが、ピーノの説明で愁眉を開いた。

 ロム金貨600枚はいつの間にかなくなっていた。

 バイアから離れるときには千枚を超えていた。船に乗り込んでもいないのに回収していた。

 ピーノの背筋に冷たい汗が流れた。2度とかかわりあうのはごめん被りたかった。

 アマンダがピーノの胸ぐらをつかんでいた。

 ジャンがニボレに来ない原因が報酬を払ったからと知ったからだった。

 包囲して殺すつもりだった。ピーノにすれば肩の荷が下りてせいせいしていたので癇に障った。

 言い訳というかいつの間にか抜かれていたと釈明しても聞き入れない。

 フェルディナンドに命じて捕まえようとした。

 アマンダは幾人もの船員を殺した。船員は仲間を呼びアマンダを囲み袋叩きにした。

 ピーノは王宮で首尾を報告した。ついで人魚の爪の垢を煎じたお茶を薬と称して双子の兄のジュゼッペに勧めた。

 疑われないように自分も同じものを飲んだ。

 垢はお茶と反応して毒になっていた。2人ともすぐに血を吐いて息絶えた。

 彼らの叔父が王位を襲った。


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