想い
「あんたが、好きだよ」
緊張も飾り気も初々しさも照れくささもないように、そんなのが微塵も表に出な
いように。自分との戦いを制してあっさりとその言葉を口にできたから、私はほ
んの少しだけ安心した。
髪を耳にかけながらあいつを振り返る。
あんまり予想通りの顔してるから、何だか切なくなってしまって空を見上げた。
満開を少し過ぎたばかりの桜が、早くも役目交代とばかりに数枚宙を舞っている
。
ああ、桜は散る時、たった一枚きりの花びらだとこんなにもたよりないんだと、
ぼんやり思う。
肩に引っ掛かった薄桃色のそれをつまんで、そっと手のひらの上にのせた。
私もあんたと同じよ。
私も、タイミングを間違えた。
私の想いを告げるチャンスは、一生来ないはずだったのに。
来てはいけなかったのに。
何を血迷ったか、熱病にかかったもう一人の私は、別れが怖くて封印したはずの
気持ちを口にしちゃったんだ。
「な、なあ……」
私は再びあいつを振り返った。そういえば、私の決定的な一言の後、何にもしゃ
べってなかったんだ、と、意外に思う。
私は勝手に時間がだいぶ経過してたと思い込んでたみたいだ。
さて、私も言わなくちゃ。
後には、これしか残されてないから。
「お前、今確かに………」
「あははっ。何か勢いで言っちゃったよ!」
私はあいつに一言もしゃべってほしくなくて、言おうと思ってたことや頭に思い
浮かんだことを片っ端から口にしていった。
「こうなったら言っちゃうけど、実はさあ、あんたが私の初恋なのよ。初恋を小
学校から高校卒業までずっと守り続けてきたわけ。何か自分でもありえないと思
うんだけど、まあおこったものはしょうがないよね!参ったなあ。今までずっと
我慢してきたのに、私…………私、最後の最後で我慢できなかったよ。大学、遠
くへ行っちゃうもんね。しばらく会えなくなるって考えたら、いてもたってもい
られなくなって、つい………」
桜に花粉はあるのは当たり前だ。ということは、私が今泣いてるのは桜の花粉の
せいなんだ。きっとそうだ。それ以外に何の理由があるんだろう。
私は桜のせいで泣いたんだ。
別れの季節が切なくて泣いたんだ。
絶対、まかり間違っても、失恋した痛みだとか、こいつに嫌われたって痛感して
るからとか、そんなちゃちなことじゃないんだ。
ああ、もう言うことは言ったし、とっとと逃げないと。
「待てよ」
突然、後ろから抱きすくめられて、身動きがとれなくなる。
背中と耳元に、それぞれ体温と息遣いを感じた。
そうだ。こいつは昔からこうやって変に気を使う癖があったから、今だっていつ
ものように接してくれてるんだ。
なんて、ムカつくくらい憎たらしいんだろ。
今、私の胸の中で、正反対の二つの色がせめぎあってる。
これ以上くっついているのが怖くなったとき。
「俺だって、長い間初恋を大事にしてきたから、そこはお前と同じだよ」
よく聞き慣れた声なのに、夢の中の幻かと思った。
でも、この声は紛れもないあいつの声だった。
私の耳元で、確実に発される音。
嫌いだけど完全には嫌いになれないあいつの声。
幼馴染みの声。
この瞬間、もう何もいらないって思った。
それは、たったひとつのものを手に入れることができたから。
とっても短いお話を(いきおいで)書いてみました。
オチがほとんどないようなもの、というよりか弱すぎますが、こういうベタな終わり方にはこれでいいのかなあと思います。これからも精進したいです。
読んで下さった方、本当にありがとうございました。
私の作品は未熟すぎますが、それでも読んでいただけたのなら嬉しいです。