ある朝の始まり
最後まで読んでいってくださると、幸いです。
シトシトと、雨の音と匂いで目を覚ましました。瞼が重い。なんだか凄く長い間眠っていたような感覚。
意を決して目を開き重い体を起こすと、吸い込まれて沈んでいってしまいそうな海底を連想させる深い深い青に、白の二本のきりっとしたラインが映える、天井。いつもと変わらない光景。なんだか少し、安心。
カタコトと、私は今日も電車に揺られ、行き先のない旅をする。
しばらくすると車掌さんが、私の元へやってきた。彼はいつも光の届かない森の奥深くみたいな色の服を着ている。
「やぁやぁ、ご機嫌いかが?」
この人はなんだかいつも私のことを気にかけてくれているみたい。私の顔を覗き込むようにして、話しかけてくる。
「ええ、とてもいい目覚めだわ。」
くーっ、とノビをしてみせる。
「そうかい、そりゃあ良かった。顔色もいいね。今日は何かする予定はあるのかい?」
「いえ、特には無いです。景色でも見るか、本でも読もうかと。」
意識を少し窓の外へやる。雨は止む気配を見せない。外はまだ暗い。なんだかここ、暗いものばかりだなと思った。
「ほほぅ。そういうのも良いけれど…そうだ、他のお客さんと話してくるのは如何かな?」
自慢のヒゲを少し弄って考えてから、そう言った。
「それは名案ですね…そうさせてもらおうかな。」
会話が終わると車掌さんは前の車両へ、カラカラとドアを開き、去っていった。
ちなみに車掌さんはヒトではない。車掌さんは二足歩行ネコ。大きな黄色い目がチャーミングで、凛々しいと思ってヒゲを伸ばしている、そんな人型の変なネコ。
この列車は寝床もついている。みんなで共有するものだ。まあ、起きるのは私が一番遅いので、いつも一人の目覚めになってしまうのだが。
二段ベットが4つ程ある。それぞれ隅に寄せられているのだが、私は一番左奥の上段。だから天井も見える。身体を起こせばちょうど良いくらいの高さにある窓が、なんとも不思議。ちょっと近未来感がする。
ペタペタ、と木製の梯子を降りる。心なしかひんやりしている。床の深紅の絨毯は、なんとも暖かく私の足を包んでくれた。この絨毯の肌触りは私のお気に入り。ふわふわで気持ち良いの。
隣の車両は食堂みたいな作りになっていて、両サイドにテーブルが3つずつ並んでいる。右奥は簡単な厨房のようになっていて、料理は全てそこで作られている、と思う。ここの住民は毎日ここで3食を済ませるのだ。
不思議なことにこの列車、一両毎にそれにそれぞれ長さも違って、高さも違う。曲がるときの不安を覚える人もいると思うが、大丈夫。カーブに入った試しがない。延々と続くこの道に、きっと曲がり道などない。
そんなことを少し考えていると料理が出てくる。もちろん私の分。席に着くとコックが
「どうぞ。」
と無愛想に、だけれども丁寧に皿を並べていく。その所作はなんとなく一流を匂わせている。実際のところそういうことには疎くて、全くわからないのだけれど。
全て配膳し終わると、私は短く会釈をする。なんだかセレブになった気分ね。
今朝の朝食はイチゴジャムのトーストとホットミルク。毎日ジャムの味が変わるの。ホットミルクにジャムの色が映えて、なんだか素敵。暖かな食事を目の前にして、お腹がすいてくる。
これが私の朝のルーティーンだ。不思議な列車は今日も、いつもと同じ私を、いつまでも降り止まない霧雨と共に、全く終点の見えない先へと、連れて行くの。
小説の在り方を未だ理解しきっていないので、きっと至らない点が多々あると思います。文章の真髄を見つめつつ、少女と共に私も前進して参りたいと思っております。