義母の1周忌
義母が亡くなった時の事や葬儀の話です。苦手な方はご遠慮ください。。。
先日は、義母の命日だった。
1年前のこの日、義母は突然外出先で倒れ救急車で病院へ運ばれ、帰らぬ人となった。
知らせを受けたのは、旦那が帰宅した直後、19時頃だった。旦那の携帯に、滅多に電話をかけてこない義父からの着信……
「なんや、気味悪いな」
その予感は的中してしまった。
その時は危篤や、という事だけで詳しい話が分からないまま、旦那だけ先に電車に飛び乗った。
九州から大阪……その新幹線の中で、旦那は義母が息を引き取ったと知らせを受けた。近くに住む義姉が駆け付けた直後だったというから、せめてそこまでは、と義母も頑張ったのだろう。
私が泣きながら子供達にその事実を告げると、二人とも泣き崩れ、その日夕食を食べることはできなかった。
私も含め、皆義母が大好きだった。
明るく社交的で、おしゃれで世話好きで破天荒で。そう、いつも何かしら年寄りらしからぬ面白い事をやってのけてくれる人だった。
その割にとても気を遣う人で、嫁の私にも気を遣いすぎるので最初の頃は逆にそれで疲れを感じるほどだった。気を遣わないでください、と何度も言ったが駄目だったので、きっとそういう性分だったのだろう。
話が面白いので、電話では結構長話をしては笑わせてくれていた。そして私がケラケラ笑うのを、喜んでくれているようでもあった。
その瞬間に間に合わなかった旦那の心中を察すると、胸が締め付けられた。マザコンではなかったが、義母を大事にしていた人だ。
到着したであろう時間になっても、しばらく旦那から連絡はなかった。亡骸に縋っているか、医者に文句をいっているか……容易に想像できた。
私が義母にできることはだた一つだった。その準備を従え、旦那の喪服を含め大荷物を抱え、朝一番、娘達と3人で大阪へ向かった。
自宅のベッドに寝かされた義母の顔を見た途端、私はお義母さん、と何度も呼びかけ泣いた。決していい嫁ではなかった、ごめんなさい、と心の中で詫びながら。
旦那は思いのほか、というかこういう状況の家族には往々にしてあるのだが、割と淡々と通夜葬儀の準備を進めていた。しかし、その合間にも義母の顔を見に行き、ドライアイスでできた結露をふき取り、そっと頬を撫でてまたリビングに戻る姿は、平気そうにしているだけに痛々しかった。
時折、悲しみを隠そうとするあまり乱暴な口の利き方をする義父と口論になりながら、葬儀屋との打ち合わせをしたり長男としての役割を一生懸命果たそうとする旦那のそばで、何もできない自分がもどかしかった。
義姉とともに、何を着せるべきか悩み、一旦はお気に入りだった着物を、という話になったがやはり、義母が自分で縫ったズボンとお気に入りだったセーターを着せることにした。
突然亡くなったため、死装束が似合わないほど本当に眠っているような顔だったからだ。
葬儀場に運ばれ、布団に寝かされた義母を親族の皆で覗き込んでは、
「眠ってはるみたいやなあ」
「ほんま、信じられへん」
と口々に言う。
私はその顔を見ながら、頭の中で私がすべきことをもう一度、確認した。そうだ、眠っているように、だ。
納棺師というか、まるでヘルパーさんみたいな女性が2人、義母の身体をぬるい湯で清め、こざっぱりさせてくれた。がちがちに凍っていた身体が少しほぐれ、顔の皮膚も柔らかくなった。
親族には既に、私がこれからする事については了承をもらっていた。
そう、死化粧をするのだ。他人にメイクすることができる技術を持っており、死化粧についての知識も一応ある。過去、親族に施したことも。
私が義母にさせてもらえる最後の事だった。
枕元に道具を揃え、数珠を手にかけ義母に語り掛けるように念仏を唱えた。そして、お義母さん、お化粧させてね、とお願いする。
「まあ、ほんまに? 嬉しいわあ、綺麗にしてや」
勝手に頭の中で義母の声と笑顔を再生し、丁寧にコットンパックから……そう、生前と同じように手順をかける。
頬紅も、生前義母がしていたように入れた。
すると、本当にしっとりと、艶やかにまるで眠っているだけのように仕上がった。皆、遠巻きに見たり覗き込んだりしながら声をかける。
「わあ、綺麗にしてもろて、よかったなあ」
「ほんま、べっぴんさんやったもんなあ」
「今にも起き上がりそうやん」
最後に口紅を、義姉と義妹に入れてもらう。その出来上がった顔を見たら、また、涙があふれて止まらなくなってしまった。旦那や義弟、義父も覗き込み、無言で鼻をすすった。
お洒落な人だった。若い頃、デパートガールをしていた義母に義父が一目惚れをしたというのだから、美しかったのだろうと思う。はっきりした顔立ちの二重瞼を、一重瞼のうちの娘達はいまだに羨ましがる。
通夜は滞りなく進んだ。
私は時折、ドライアイスの結露で化粧が崩れている所を手直ししながら葬儀を迎えた。
最後、棺桶に花を入れた時、旦那が義母のおでこに口づけをしたのには驚いたが、何となく納得する光景でもあった。
葬儀場の隣にある火葬場へ歩いて向かう時、大きな虹が現れた。
派手な事が大好きだった義母らしいね、と皆で泣き笑いした。
小さな骨壺に納められた義母を自宅に連れて帰った夜は、旦那は結構な量のお酒を飲み、少し荒れた。日頃、大人がお酒を飲んで騒ぐのを嫌う娘達も、さすがにその日は何も言わなかった。
あれから一年。相続や色々な事で旦那の実家は大荒れだった。独りになった義父は、一軒家を引き払い府営団地へ引っ越した。
義母がかわいがって飼っていたカナリアはそれから卵を孵し3羽に増えた。義父がちゃんと世話ができるのか心配で、うちで引き取りましょうか、と申し出たが忘れ形見のように感じているのか、ええわ、さみしいから置いとくわ、と言い今も義父が大事に育てている。
この1周忌に、義姉が義母の形見分けをしてくれた。義母が生前
「これは代々長男の嫁に継ぐ指輪やで、珍しい石やねん。GALAさんにあげるからな」
と言っていたものも入っていた。残念ながら私は指が太いのでお直しをしないとはめることはできず、何の石なのかもわからないが、有難く受け取った。
亡くなったあと、2度ほど私の前に現れてくれた。こう書くとギョッとされるかもしれないが……その話は、いつかネタにしようと思っているので、ここでは書かないでおこう。
遠く離れて生活していたので、私とは濃い縁とは言えなかったと思うが、息子(旦那)のことはどうやら心配でならないらしい。
愛すべき人だった。
命日には、お義母さんに習った料理を並べましたよ! 上手にできるようになりました。