あく
「マレウス。僕は君を疑っている。」
開口一番。
私の鳩尾にキツイ一撃を見舞ってセイレンはそう言った。
「とりあえず、疑わしきは罰するの法則で殴らせてもらった。理由を説明する。」
息が苦しい私は一言も発せずただセイレンの言葉に耳を傾けるしかできない。
「昨晩、僕が部屋にかけていた鍵の呪文が解除されていた。鍵の解除方法は2通り。1つは内側から開ける。もう1つは解錠を使う。そして部屋には僕以外誰もいなかった。よってこの屋敷にいる僕以外に専属魔導師である君を疑った。」
「理由は分かった。でも普通は疑わしきは罰せず、じゃないのかい?」
「僕は寝顔を見られるのがこの世で一番嫌なんだ。」
反論を許さない強い口調で、それもどこか自慢気に言われたがさすがに釈然としない。
そこにバザラが通りかかった。
「おや?どうされましたか?」
腹を抑えて顔をしかめている私を気遣うように話しかけてくる。
「腹を下しましたか?」
「いえ、なんでもありません」
曖昧に笑って誤魔化し、私とセイレンは食堂へと向かった。
朝食が終わると、すぐに移動だ。
昨日カルメード氏が書いたリストの人物に会いに行くのだと言う。
「さすがに全員は無理だ。3人だけ会う。」
「じゃあなんでこんなに書かせたんだ?」
「今回の事件、一番悪いのは誰だと思う?」
「え?」
普通に考えれば誘拐犯という事になるがこういう聞き方をするという事は、一般的な解答を求められてはいない。
となると悪いのは…
「誰だ?お嬢様をきちんと見て無かったメイドさん?」
私の答えにセイレンは驚いた表情になった。
「自覚の有る無しは兎も角、随分と本質に近い答えだ。間違っているけどね。」
「本質に近いって、どういう事だ?」
「根が深いのさ」
そう言ってセイレンは押し黙る。
20分ほど歩いた私達は、カルメード氏の屋敷に勝るとも劣らない豪邸の前に立っていた。