ぶつかる
私-マレウス・ルードは深く後悔していた。
正座をし、まるまる30分ほど彼-セイレン・イルク・ドミナスの説教を聞いていた。
「聴いているのかいマレウス!」
「はい!もちろん!」
事の発端は2時間程前に遡る。
レトール王立魔導学院は長期の休暇に入っていた。
とは言っても、喜ぶべきものではない。
この休暇は「試験休暇」。
休暇明けに控えた進級試験に備えるべき準備期間なのだ。
だが、さすがに1ヶ月近い休暇をすべて勉強に費やす学生はほとんどいない。
私も例外ではなく、街に出かけてタマの羽休みをしていた。
「さて、どうしよっかな」
膨れた紙袋の重さを確認しつつ、私は満足気に呟いていた。
必要な物は買った。
食べたかった物も食べた。
セイレンに頼まれた買い物も終わった。
行きたかった店も回った。
このまま帰ってもいいのだが、もう少し遊びたいというのが本音だ。
どうしようか?
浮ついた私はその人物の接近に気づかなかった。
とん。
軽い衝撃は、思ったよりも大きな被害をもたらした。
石畳で滑った私は紙袋の中をぶちまけながら盛大に転倒した。
「あぁ!すいません!大丈夫ですか?」
そう言って私に手を差し伸べたのは眼鏡をかけた可愛らしいメイドさんだった。
どうも自分は、この人にぶつかってしまったらしい。
「いえ、ご心配なく。あなたは大丈夫ですか?」
「えぇ。私は大丈夫です」
「それは良かった。」
荷物を拾い集めながら立ち上がると、メイドさんは何かを探すように辺りを見回していた。
「ん?何か落し物ですか?」
「いえ…人を探しているんです…」
言いにくそうなメイドさんの様子から只事ではないと察する。
「マディエラ!見つかったか?」
後ろから年配の女性が走ってくる。
「いえ。こちらにもいらっしゃいません」
「そうか…。そちらの方は?」
「私がその、ぶつかってしまって…」
メイドさん-マディエラは恥ずかしげに言うと顔を伏せた。
「まったく、何をしてるんだいあんたは。うちの者が大変な失礼を働いたようで…」
「いや、自分も考え事をしていたもので」
年配の女性が頭を下げるのを慌てて止めると私は軽率な発言をしてしまった。
「もしよかったら自分にも手伝わせてくれませんか?どうも普通ではないご様子。一応これでも魔導学院の生徒でして。人探しの術も多少なら心得ています。」
「まぁ!本当ですか!」
年配の女性とマディエラが驚いた表情になった。
そして私は、後日街一番の富豪であるエルドーナ氏の館を訪ねる事になっていた。
「それで、なんで僕を頼るんだい?僕だって忙しんだよ?」
私の話を聴いて苛立った様子のセイレンに、私は頭を下げて頼んでいた。
「頼む!私一人だと心細いんだよ。この通り!」
「自分で解決出来ないなら、安請け合いなんかするな!」
本格的に怒り出したセイレンの気迫に押され、私は正座していた。