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国王になりたかった男

作者: ヨーヨー
掲載日:2026/08/10

「一国の王様になりたい」


そんなことを本気で考えたことはありませんか?


もちろん、現代の普通の会社員が王様になるなんて、どう考えても無理な話。


だったら——自分で国を作ればいい。


これは、四十二歳の平社員が、たった一人で「建国」を始めた物語です。


果たして彼は、本当に王様になれるのでしょうか。


ぜひ最後までお楽しみください。

「王様になりたい」


四十二歳の会社員、山田洋一がそう言ったとき、妻は味噌汁を飲む手を止めた。


「……何の?」

「国の」

「疲れてるなら寝たほうがいいよ」

正論だった。


洋一はメーカーに勤めて二十年になる。

役職なし。

部下なし。

住宅ローンあり。

健康診断では腹囲を注意され、最近では階段を三階まで上がるだけで息が切れる。


そんな男が、

「一国の王になりたい」

と言ったのである。


どう考えても疲れていた。



◆



翌日。

昼休みの社員食堂で、洋一はスマートフォンに打ち込んだ。

『王様になる方法』

検索結果にはゲームと漫画と怪しげな広告が並んだ。

「だよなあ……」

現代に王様になる方法などない。

どこかの国を乗っ取るわけにはいかないし、無人島に旗を立てたところで国にはならない。

ところが調べているうちに、洋一は妙な言葉を見つけた。


『ミクロネーション』


国家を自称する団体。

独自の国旗を持ち、爵位を作り、国民を募集する。

もちろん国際的な主権国家として認められるわけではない。


だが——。

「これなら……作れるのか?」

洋一の箸が止まった。


王様になるために、国を奪う必要はない。

国がないのなら。

作ればいい。



◆



その日の夜。

洋一はノートを一冊買った。

表紙に油性ペンで書く。

『建国計画』

最初のページ。


【国名】


三十分悩んだ。

格好いい名前。

歴史を感じる名前。

千年続いても恥ずかしくない名前。

そして洋一が決めた国名は——。


『アルカディア王国』


「……いい」

かなりいい。

少なくとも本人はそう思った。

二ページ目。


【建国理念】


ここで洋一は止まった。

王様になりたい。

それだけだったからだ。


「国って……何のためにあるんだ?」

考えた。


会社では毎日、効率を求められる。

数字。

納期。

成果。

家に帰れば住宅ローン。

税金。

子どもの教育費。

いつからだろう。

子どものころは秘密基地を作るだけで一日中ワクワクできたのに。

大人になると、

『それ、何の役に立つの?』

と聞かれることばかりになった。

洋一はペンを持った。


【建国理念】

『大人が、本気でくだらないことをする国。』

洋一は笑った。

「よし」

国が生まれた。



◆



翌週。

無料サービスを使ってホームページを作った。

デザインはひどかった。

中央には自作の国旗。

青い背景。

中央に金色の星。

その下に大きく、

『アルカディア王国』

そして——。


【国民募集中】

国籍、年齢、性別不問。

必要なのは一つ。

『何か面白いことをしたい人』

洋一はSNSに投稿した。


フォロワーは三十七人。

ほとんど会社関係者だった。

『本日、アルカディア王国を建国しました。

私が初代国王です。

国民募集中です。』

投稿ボタンを押した。


「……」

五分。

反応なし。

十分。

反応なし。

一時間。

いいね、一件。

妻だった。


コメントがついた。

『早く寝てください。』

洋一はスマホを伏せた。

「建国初日から反政府勢力が強いな……」

その日は寝た。



◆



翌朝。

通知が来ていた。

知らないアカウントだった。

『国民になりたいです』

洋一はベッドから飛び起きた。

「えっ」

プロフィールを見る。

北海道在住。

二十二歳。

大学生。

洋一は慌てて返信した。

『ありがとうございます!』

送信。


違う。

国王だぞ。

もう少し威厳が必要だ。


削除しようとしたが遅かった。

既読がついた。

続けてメッセージが来る。

『国民番号とかありますか?』

「国民番号……?」

考えていなかった。

洋一はExcelを開いた。

000001 山田洋一 国王

000002 ??? 国民

そして画像を作った。

『アルカディア王国 国民証

国民番号000002』

送る。

数分後。

相手がSNSに投稿した。

『謎の国の国民になったwww 俺、国民2号らしい』

その投稿が少し拡散された。



◆



三日後。

国民十二人。

一週間後。

三十八人。

一か月後。

国民——百三人。

「百人……」

洋一はパソコンの画面を見つめた。

北海道。

東京。

大阪。

福岡。

台湾。

なぜかブラジルにも一人いた。

会ったこともない百人が、

『アルカディア王国民』

を名乗っていた。



◆



国民が増えると、勝手に国が動き始めた。

「国歌作りました」

音楽をやっている国民が言った。

「国章デザインしました」

美大生が言った。

「憲法ないんですか?」

法学部の学生が言った。

「爵位ほしい」

誰かが言った。

洋一は答えた。

「作ろう」

騎士。

男爵。

子爵。

伯爵。

侯爵。

公爵。

ただし、金では買えない。


王国への貢献で爵位が上がる。

最初の男爵になったのは、国歌を作った青年だった。

そして毎週日曜日。


国王は『勅命』を出した。

第一回勅命。

『空を見上げ、面白い形の雲を報告せよ』

第二回。

『プリンを食べよ』

第三回。

『今日は家族にありがとうと言え』

くだらない。

本当にくだらない。

だが。

何百人もの大人が、本気で参加した。



◆



三年後。

国民一万二千人。

五年後。

洋一は会社を辞めた。

七年後。

王国は長野県の山中に小さな土地を借りた。


入口には看板が立った。

『アルカディア王国 第一領』

法的には、ただの私有地。


もちろん日本だ。

日本の法律が適用される。

だが年に一度の建国祭には、全国から国民が集まった。

テントが並ぶ。

国旗が揺れる。

子どもたちが木の剣を持って走る。

大人たちは爵位を書いた名札を首から下げている。


「陛下!」

呼ばれて洋一が振り返る。

昔なら笑っていた。

今は普通に返事をする。

「どうした、男爵」

「焼きそば足りません!」

「国家存亡の危機だな」

「はい!」

走っていく男爵。

洋一は笑った。



◆



建国十周年。

国民、六万八千四百二十一人。

世界二十三か国。

その日。

洋一は小さな木造の『王宮』の前に立っていた。

目の前には数千人の国民。

青い旗が風に揺れている。


十年前。

社員食堂で、

『王様になる方法』

と検索した。


あの日の自分に、この景色を見せたら何と言うだろう。

洋一はマイクを持った。

「十年前、私は王様になりたいと思いました」

笑いが起きる。

「でも、調べたら無理でした」

さらに笑い。

「だから国を作りました」

拍手。

洋一は続けた。

「最初の国民は私一人でした」

少し間を置く。


「正確には妻もいたかもしれませんが、当時は反政府勢力でした」

最前列で妻が笑っていた。

「私はずっと、国王とは一番偉い人のことだと思っていました」

風が吹いた。

無数の国旗が揺れる。

「違いました」

洋一は目の前を見る。


大学生だった国民番号000002は、今では三十二歳になっている。

国歌を作った男爵。

国章を描いた美大生。

憲章を作った学生。

王国で出会い、結婚した二人。

そして、この国で生まれた子どもたち。

「国王とは——」

洋一は言った。


「誰よりも、この国を面白がる人のことです」

拍手が起きた。


やがてそれは歓声になった。

「国王陛下、万歳!」

誰かが叫ぶ。

「万歳!」

「万歳!」

数千人の声が山に響いた。

洋一は照れながら手を上げた。

その瞬間。


ポケットのスマートフォンが震えた。

一通のメールだった。

海外から。

件名を見る。

洋一の表情が変わった。

『アルカディア王国政府 御中』

本文は英語だった。

短い文章。

しかし最後には、こう書かれていた。


——貴国との公式な協議を希望します。

洋一は何度も読み返した。


隣にいた妻が聞く。

「どうしたの?」

洋一は顔を上げる。

十年前。

妻は言った。

『疲れてるなら寝たほうがいいよ』

だから洋一は笑って答えた。


「なあ」

「何?」

「もしかしたら俺——」

青い国旗が大きく翻った。

「本当に王様になれるかもしれない」

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


「現代の普通の会社員が、本気で王様を目指したらどうなるんだろう?」


そんな発想から生まれた物語です。


最初は一人。


領土もない。

お金もない。

もちろん国民もいない。


あるのは「王様になりたい」という、いい大人が口にするにはちょっと恥ずかしい夢だけ。


でも、もし国民が100人になったら?


1万人になったら?


土地を持ったら?


独自の経済が生まれたら?


そして——他の国が、その存在を無視できなくなったら?


そんなことを考えているうちに、作者自身も続きを見てみたくなりました。


洋一とアルカディア王国のその後を「もっと見たい!」と思っていただけたら、感想や評価で教えていただけると嬉しいです。


反応がよければ——。


次は、本当に建国を続けてみましょう。


国民一人から始まった小さな王国が、世界を相手にするところまで。

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