表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色は俺に似合う  作者: 無原 カイト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第六話 なぜか主要人物が全員集合している件について

地下鉄のドアが目の前で開いたのに、俺はその場に釘付けになっていた。

この駅で降りる人混みのど真ん中に、さっき電車内で女子高生に絡んでいたあの大男が立っていたのだ。

しかも、まっすぐ俺のほうへ歩いてくる。

あの“声”――いや、聞き覚えのある連中の声も、さっきよりはっきりと耳に届いていた。

まるで今にもここへ合流してくるみたいに。

前からは大男。後ろからは声。

挟まれた俺は、どう動けばいいのかわからなかった。

とにかく人混みに紛れて車内へ滑り込もうとした。

だが、視線を外さないまま、その大男は俺の腕を掴み、何かを必死にまくしたてた。

正直、ほとんど聞こえていない。

頭の中は「ここから逃げる」ことでいっぱいだった。

結局、もたついているうちに電車は発車し、俺は数分前と同じ場所に取り残された。

腕はまだ、あいつに掴まれたままだ。

そこでようやく気づく。

――こいつ、スーツを着ている。

いや、スーツというより、少し古風な仕立てのクラシックな装い。

どこか昔の時代の紳士服みたいな雰囲気だ。

きちんと整えられ、清潔感もある。

目の前にいるのが二メートル級の変態野郎ではなく、オフィス勤めの大きな熊に見えてくるから不思議だ。

日常系青年漫画に出てくる、主人公の頼れる親友ポジションみたいな。

服装を観察しているうちに、大男は俺の手を離した。

だが視線は逸らさない。

どう見ても緊張している。

……だが、だから何だ。

こいつが女子高生に触れていた事実は消えない。

どんな過去があろうが、どんな不幸な幼少期があろうが知ったことか。

変態は変態だ。頭の中がどうなっているかなんて、想像もしたくない。

コンビニに寄るふりをしてその場を離れようとした、その時だった。

「ちょっと待ってください! 金曜日の件、まだ話してませんよね? それに、聞きたいこともあって……!」

「そうそう、なんでいつも避けるんですか。すぐ距離を取って。新しく入ったオサムを見習ったらどうです?」

「日向さん。あなたの仕事ぶり、拝見しました。とても速くて正確でした。もしよろしければ、ご指導いただけませんか」

――来た。

振り向こうとしたが、背中を大男に向けるのが妙に怖い。

結局、俺はその場で固まったままだった。

顔を見なくても誰の声かはわかる。

だからこそ、余計に居心地が悪い。

すると目の前の“大男”が、ようやく口を開いた。

「……申し訳ありません。あなたが日向様ですね。そして、あなたが相沢様……でお間違いないでしょうか」

さっきとは打って変わって、柔らかい声だった。

そして彼は二、三歩後ろに下がると――

きっちり九十度、完璧な角度で頭を下げた。

「これまでの無礼、心よりお詫び申し上げます」

俺は振り向き、慶子の表情を見た。

強く戸惑いながらも、不快さを隠せていない。

「わ、私は……その……」

言いかけた彼女を、工藤が遮る。

「よくもそんな顔で謝れますね。日向さんがいなければ、あなたは止まらなかったでしょう? どうして私たちがあなたを許すと思うんですか。しかも今朝、うちの支社にプログラマーとして応募までしてきたとか――大地村さん」

大男――大地村は、姿勢を崩さない。

続いて水月さんも冷ややかに言う。

「あなたの行為が知られたら、チーム全体がどう思うか想像できますか? それに、まだ何か隠しているのでは?」

オサムは慶子の前に立ちはだかる。

騎士気取りか。悪いが、あの巨体に本気で来られたら全員まとめて吹き飛ぶぞ。

「……おっしゃる通りです。許されないことをしました。それでも、どうか……一度だけ、事情を説明する機会をください」

――まずい。

空気がさらに悪化する前に、俺は靴を脱いだ。

なぜ靴か?

こういう時、予想外の行動は全員の視線を奪う。

俺は靴を思いきり地面へ叩きつけた。

……が、見事に跳ね返り、そのまま線路へ落下。

最悪だ。

周囲の乗客がざわつき始める。

ひそひそ声が耳に刺さる。

……もう後戻りはできない。

袋を掲げ、俺は言った。

「全員、カフェに行きましょう。問題はそこで整理する。ラーメンは魂を落ち着かせる食べ物です。食べながら話せばいい。ここは人目が多すぎる」

周囲を手で示す。

さらに慶子の友人たちへ視線を向ける。

「それに、帰りが遅くなればご両親も心配します。彼らは巻き込まずに、俺たちだけで片付けましょう」

なぜか、全員の表情がわずかに和らいだ。

それが逆に不気味だった。

今日はもう十分だ。

さっさと終わってほしい。

結局、次の電車を待ち、慶子の友人たちを乗せて見送り――

俺たちは近くのカフェへ向かった。

あの、太鼓が働いている店だ。

……少しは助けてくれればいいが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ