第一章 早起きは三文の徳!
はじめまして。
本作は日常と内面描写を中心にした物語です。
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
誰かの朝は、窓から差し込む最初の陽光とともに始まる。
その光が部屋を満たし、心と身体に活力を与える。
また別の誰かにとっては、愛するペット――犬や猫、ハムスター、あるいはインコの生き生きとした鳴き声が、耳を刺激し、眠気を追い払ってくれる。
雲のように柔らかな夢の抱擁から自ら抜け出し、甘い余韻を振り払って、新しい一日を新しい始まりとして迎える者もいる。
――だが、俺は違う。
俺は予測不能な感覚のほうが好きだ。
朝、耳を切り裂くように鳴り響く、けたたましい音。
それが俺を、思考からも現実からも遠く離れた、甘くて嘘くさい安らぎの世界から無理やり引きずり戻す。
今日は、無理やりまぶたをこじ開け、昨日という一日の重みを身体から引き剥がすようにして起き上がった。
意識がはっきりしてくると、すでに五分は鳴り続けていたスマホのアラームを止めるため、手に取る。
静寂。
沈黙。
そして、部屋を染め上げる灰色の色調。
――それこそが、俺が朝に見たかった風景だった。
軽く体操をして身支度を整え、ベッドを片付ける。
「お前、もう何年選手だ?」
そう呟きながら、かつては白かった寝具を見つめる。
今となっては、その名残しか残っていない。
埃か、汚れか――いや、きっと何度も洗われるうちに変わってしまったのだろう。
軽く首を振り、思考を振り払う。
マットレスと一緒に寝具をクローゼットへ戻そうとしたとき、ふと気づいた。
この部屋には、光が足りない。
もっと鮮やかで、部屋を丸ごと染め上げるような何かが。
カーテンを開け、光を招き入れる。
だが、向かいに立つ巨大な高層マンションが、それを遮った。
それでも、わずかに届く光の束だけで十分だった。
今日という新しい一日を迎える力をくれ、部屋をあらゆる色合いで染めるには。
電子レンジで昨夜の夕食を温めながら、歯を磨き、髪を整え、着替えを進める。
口には歯ブラシ、髪にはジェル。
ズボンを履きながらテーブルへ向かった瞬間――
滑った。
大きな音を立てて床に倒れ込み、ズボンはしわだらけ、歯ブラシは口から飛び出した。
両手をつくことはできたが、それでも痛いものは痛い。
まあ、悪くない。
急げば人を笑わせる、というしな。
何事も順序よく、ただし無駄な時間は使わずに。
冷蔵庫の横に常備してある雑巾で床を拭き、歯磨き粉と唾液の跡を消す。
歯ブラシを拾って洗面所へ持って行き、当然のように洗った。
そして、鏡の前に立つ。
そこにいたのは――
二十七歳前後の、くたびれた男。
最悪な髪型、サイズの合っていないタンクトップ、留めていないズボン、細身の体。
一七八センチ近い身長は、普段着るクラシックな服装にそれなりの美学を与えてくれるが、
茶色い髪、丸い鼻、大きな目は、服装とどうにも噛み合わない。
……いっそ、短髪をやめて長髪にしてみるべきか?
「――いや、飯だ」
そう思い直し、髪を整え終えると、
ズボンを濃い色のスラックスに、
クリーム色のシャツ、
濃紺のジャケットにネクタイを合わせる。
「そういえば、ネクタイは一本しか持ってなかったな」
量ではなく、センスで勝負するクローゼットの前で、そんな考えがよぎる。
「じゃあ、これでいいか」
そう言って、黒と白の斑点が入った灰色の蝶ネクタイを身につけた。
食事が温まると、手早く平らげ、
出かける前にもう一度髪を整え、忘れ物がないか確認して、ワンルームを後にする。
鍵をかけて。
新鮮な空気を一息吸い込み、名札を胸につけ、仕事へ向かって地下鉄の方向へ歩き出した。
――今日は、どんな些細なものに気づくだろうか。
今日という日は、日向ケイトに何を用意しているのだろうか。




