好きも嫌いも噛み分けて
酸いも甘いも噛み分けて、人は大人になると言う。なら、私は今、大人になってるのかな。
「俺たち、別れよう」
もう2年も付き合っていて、まさかこんなにも突然別れを切り出されるとは思っていなかった。
最初は信じられなくて、いつもの彼の悪ふざけだと、そう思っていた。
「好きな人、できたんだよね」
続く言葉が私を現実に引きずりこむ。でもでも、そんな気もしてたんだよね。音楽の趣味変わったでしょ。急に韓国ドラマとか見ちゃったりして。
私、結構気づいてるんだよ。授業中目が合う回数が減ったのも、君から手を握ってくることがなくなったのも。
「だから、ごめん。別れたい」
ごめんって……なに? 謝るなら別れようなんて言わないでよ。そんな謝罪、ほしくない。
もうこの言葉を聞いたのは2時間以上前なのに、ずっと頭の中でグルグルしてる。
私さ、「最近何かあったの?」って聞いたよね。「何にもない」って、そう言ったじゃん。嘘ばかりなのはいつものことだけど、笑って言われたら信じちゃう。
「悪いのは彼氏だよ」なんて、みんな言うんだろうな。私は、苦い顔で笑って受け流すんだ。「彼のことを悪く言わないで」そう、心の中で呟きながら。
ほんと、バカな女。
沼ってたつもりじゃない。重いのも隠して耐えてた。でも、2年。簡単に決別できるほど、軽いわけないじゃん。
私たちの2年、大きいと思ってたの、私だけ?
あー、嫌だ。こんな自分が嫌だ。自己嫌悪に沈んでく。
濡れた枕にももう慣れて、せっかく早起きしてメイクしたアイシャドウも崩れてる。
「俺とヒナはさ……合わなかったんだよ」
そんなの……そんなの分かってたじゃん。好き嫌いも全然違って、見てるテレビも、好みのファッションも髪型もバラバラで。だから歩み寄ってたんじゃん。
アキは知ってるでしょ?
アキのためにジーパン履いてるの。
アキのせいで黒い上着ばっかりなの。
アキのおかげで苺が好きになったの。
合わないとかさ……そんなの、ずるいよ。否定できないもん。なにも言えないこと理由にされたら、なにも言えないじゃん。
縋るみたいにメッセージを見返す。笑ってないときは『(笑)』ってつけるんだよね。本当に笑ってるときはいつもカエルのスタンプ。
私、知ってるよ。アキが好きな人より、アキを知ってる。
口を開けば嘘が出てくるのも、お腹が空いたとき声が低くなるのも、興味ないフリしてすれ違う猫を見てるのも。
「ヒナ可愛いし、俺よりいい男いるだろうから」
ほら、また嘘。可愛いなんて思ってないくせに。都合のいいときばっかり嘘ついちゃって。
だから、言ってやったんだ。いつも酸っぱい嘘ばっかり言われてるから、
「女ウケ悪いから、好きな子の前では嘘つかない方がいいよ」
って。
あれが嘘ってこと、アキは気づいてないんだろうな。
本当は、私だけが好きなアキを、1つでも残したかっただけなんだって……