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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第五章三節:それでも憂う『御大地守』
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それでも、守〈僕〉は

 ――卒業式が、終わった。


 一年生の教室は、とても静かだった。

 卒業生に会いに行く者や、真っ直ぐ帰った者がほとんどで、誰も教室に残ってなどいなかったからだ。


 僕はそんな静かな教室を横目に、約束の場所へと向かう。


 階段を上がるたび、じわじわと終わりへの実感が強くなっていく。


 たった一年。


 その一年が、重く僕の腹の奥に深く沈みこんでくる。


 最後の段差を上がり切る。


 屋上の扉を開けると、風がふわりと吹き込んできた。


 その先を見つめると――金色(こんじき)の髪を靡かせる、一人の少女が目に映った。


「……円樹(つぶらき)先輩」


 声を掛けると、円樹先輩はゆっくりとこちらに振り返った。


「……(まもる)


 僕は、円樹先輩の隣に立つ。フェンス越しには、見慣れた街並みが広がっていた。


「守とここに来るのって、ほぼ一年ぶりくらいかな?」

「そうですね。……あの日以来ですから」


 僕らは目を合わせ、懐かしんだ。


「なんだか、遠い昔のことみたい」

「……ですね」

「いろいろあったよね。これまで」

「ええ。本当に」


 僕ら以外、誰もいない屋上はとても静かで、時間は流れは、とてもゆっくりとしたものに思えた。


「アタシ、自分に弟がいたーなんて知ったときは、本当に驚いたよ」

「僕もです。姉がいると知ったときは衝撃を受けましたし、まさか高校生になって再会を果たすなんて、どんな偶然なんだって思いました」


「……それは偶然なのか、必然なのか……って、勘繰っちゃうよね。アタシはやっぱり、運命なのかなって思うんだけれど」

「運命ですか。円樹先輩って、ロマンチックなこと言いますね」

「時に、人はロマンチストになるんだよ」


 えへへ、と笑う円樹先輩。


「どこまでも、アタシたちって姉弟なんだよね」

「……そうですね。こればっかりは、覆りようがありません」

「…………」


 円樹先輩はフェンスから一歩離れて、改めて僕と向かい合った。


「……守」


 何度目だろう。

 円樹先輩に名前を呼ばれ、僕は彼女へ視線を向けた。


 円樹先輩は一度深呼吸をしてから、真剣な顔で想いを紡ぐ。


「――アタシ、あなたのことが好きです」


 静かに、その想いを噛み締める。


「血の繋がっている姉弟だろうと関係ない。アタシはあなたのことが好き。この気持ちは――『恋』は、本物なの」


 僕もかつて、彼女に『恋』をした。そして、姉弟という事実を知って、絶望した。

 しかし揺らぎなく、僕の気持ちは昔から変わらない。


「……守」


 ――だけれど。だからこそ。


「アタシと……()()として、付き合ってくれませんか?」


 円樹先輩は、右手を差し出した。

 真っ直ぐと、その瞳をこちらに向けて。


「……」


 僕の心は、もう決めてある。

 あとはこの気持ちを……伝えるだけだ。


「……円樹先輩」


 ――今度こそ、揺らぎない本当の決意(オモイ)を。


「――ごめんなさい。僕はあなたと、付き合えない」


 円樹先輩は、ゆっくりと目を細めた。


「あなたのことは、これまでも、きっとこれからも好きなままです。だからこそ、僕はあなたに幸せになってほしいと願います」


「……」


「血の繋がった僕らが交じり合うことは、許されない罪です。だからここで、すべて終わりにしましょう」


 そう言い切ると、円樹先輩は、僕をまるで惑わすような瞳をこちらに向けた。


「……アタシが、いっしょに罪を背負うと言っても?」


 ……その言葉は。

 僕にとって、縋りたくてたまらない言葉だったけれど、もう……心は揺らがない。



「――それでも。僕はもう決めました。この『恋』に終わりを告げると」



「……」


 円樹先輩はしばらく僕の顔を見つめていたが……やがて、柔らかな笑みを浮かべた。


「……うん。もう、迷いはないみたいだね」

「ええ。おかげさまで」

「……そっか」


 円樹先輩は背を向け、空を見上げた。

 ……いや、もう円樹先輩ではない。今からは、完全に僕の姉だ。


「……()()()()()。よければ、卒業祝いしたいって、父さんが言ってるんだ。もしよかったら、今度どうかな」


 円樹先輩は制服の袖で目を擦ってから、こちらを向いて笑顔で言う。


「もちろん! 家族で集まって、祝ってもらうんだから!」


 円樹先輩は背伸びをしてから、床に置いていた鞄を肩に掛けると、僕に手を振り、その場を去っていった。


 ――こうして。紆余曲折を経て、僕らの『恋』に終止符は今、打たれたのであった。

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