卒業式
卒業式が、いよいよ始まる。
卒業式の開始を、僕は壇上から離れた席から見守っていた。
一方で、隣に座っている瑠璃は、なぜだかすごく緊張していた。
「……どうしたんだ、そんな緊張して?」
小声で聞くと、瑠璃は緊張した面持ちのまま僕を見た。
「兄さん、送辞の役をやるんです。上手くいくかどうかと考えてしまったら、なんだかわたしまで緊張してしまって……」
「大丈夫だろう、あのお兄さんなら」
「……で、ですかね。そうですよね、兄さんなら、大丈夫ですよね」
瑠璃は少し落ち着いたのか、身体の緊張が緩んだかのように見えた。
「……そういえば瑠璃、またコンタクトに戻したんだな。それに今日は、一段ときれいになってる」
瑠璃は眼鏡を外していて、髪にはかわいらしい髪飾りまでつけており、いつもよりも華やかさがあった。
瑠璃は顔を赤くして、僕を睨みつけてきた。
「そ……そんな気軽にきれいだなんてやめてください。卒業式ですから、ちょっと気分を変えてみただけです」
瑠璃は言って、少し間を空けてからこう言う。
「まあでも……似合ってると言うのでしたら、二年生からはこれでいきましょうかね……」
「ああ、似合ってる」と返すと、瑠璃はうれしそうにはにかんだ。
「ありがとうございます、守さん」
そのとき、バタンと重い扉の開く音が。
どうやら、三年生の入場らしい。
僕らは拍手で卒業生を迎え入れた。
ぞろぞろと行進する卒業生の列から、円樹先輩を見つけるのは簡単だった。
やはり、彼女には目を惹かれる。
僕にとって、彼女だけは誰よりも輝いて見えた。
……まあ、学園一の美少女と言われるくらいだ。もしかすると、ほかの人にとってもそうかもれしないけれど。
でも、僕にとってはそれだけじゃない。
僕と彼女の間には、誰とも違う、特別な繋がりがあるのだから。
円樹先輩は姿勢良く、真っ直ぐと前を向いて、歩いていた。
円樹先輩のほうは、僕に気づく様子もない。それもしかたないだろう。あの列と僕のいる席は、あまりにも遠すぎるのだから。
卒業式は順調に進み、瑠璃のお兄さんの送辞も何事もなく無事に終わった。
瑠璃のお兄さんが登壇したとき、一瞬女子たちの沸き立つ声が聞こえたような気がしたが……顔もスタイルもいいし、きっと人気なんだろうな。
一方瑠璃は、ただ送辞が無事に終わったことに、胸を撫で下ろしていた。
次は答辞……か。
そう思っていると、僕はまた目が釘付けになった。
僕だけじゃない。その場の空気でわかる――答辞のために登壇した彼女――円樹先輩は、一斉にみなの視線を集めていた。
「例年よりも早く春の蕾は開き、桜咲き誇る今日、わたしたちは卒業の日を迎えました――」
あの、輝く瞳を見れるのも……きっと、今日で最後だ。
僕は一言一句洩らすことなく、じっと彼女の言葉に耳を傾けていた。
「――……最後の文化祭も、どの催し物を素晴らしく、思い出に残るものとなりました。最後のキャンプファイヤーは、特に印象的で――」
キャンプファイヤー……か。
僕は横目で瑠璃を見た。瑠璃も同じタイミングでこちらを見たのか、ちょうど目が合ってしまい、僕らは慌てて目を逸らす。
「――……高校生活は、在校生のみなさまにとても支えられ、かけがえのない経験をさせていただきました。この経験を胸に、わたしたちはそれぞれ、新たな道を歩んでいきたいと思います――」
円樹先輩は堂々と胸を張り、こうして、答辞をやり切ったのだった。
「――以上をもちまして、答辞といたします。……本当に、みなさま……ありがとうございました!」
答辞をする円樹先輩は一度だって、最後まで誰とも目を合わせることは、なかった。




