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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第五章二節:どこまでもあなたを求む『北千種瑠璃』
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あなたと寄り道して(1)

「帰り、どっか寄ってく?」


 御大地(みおおじ)くんからの誘いに、わたしはうれしい気持ちよりも先に、驚きを感じていました。


 今まで、御大地くんから言ってくれることなんてありませんでしたから。


 でも、いざ聞かれると思いつきません。


 これまで帰り道に寄り道する機会なんて、ほとんどありませんでしたから。


 せいぜい、兄さんと買い物をして帰るくらい。


「……」


 悩んだわたしは、ふと目に止まったファストフード店を指差しました。


「なら、ここで軽食はいかがでしょうか。なんだか、()()()じゃないですか」


 御大地くんは嫌がることなく、頷いてくれました。



 適当に注文も終え、席についたわたしたち。


 テーブルの上には、ポテトフライとナゲット。そして、わたしの手にはソフトクリーム。


「御大地くん。本当にいいんですか、全部買ってもらっちゃって……。それに、わざわざわたしのために、ソフトクリームまで……」

「別に構わない。それに瑠璃(るり)、食べたそうにそれ見てたし」

「……見てません」

「本当?」

「……。……ありがとうございます、御大地くん」


 わたしは素直にソフトクリームにありつくことにしました。


「……」

「……」


 話はそこで止まり、店内のBGMだけがわたしたちの間を支える中、御大地くんが先に口を開きました。


「……前、電話掛けてくれたときさ」

「……」


 ――わたしが、御大地くんに電話を掛けた日。ただ御大地くんの声が聞きたくて、勇気を出したのに……。


「……確かに、あの日円樹(つぶらき)先輩は僕の(ウチ)に泊まっていったよ。でも本当に、当日まで僕は聞かされてなかった」


 わたしは、黙って御大地くんの話に耳を傾けます。


「円樹先輩が泊まりに来た理由っていうのも、お父さんの顔が見てみたいから……だって。それは僕ら互いの両親も、了承済みだったらしくてさ」


「……」


「――本当に、顔合わせみたいな感じだった。僕らは姉弟なんだって、改めて認識させられた日だった。僕らはあの日最後まで――『姉』と『弟』だった」


 ……。

 ……嘘は、たぶんついてない……彼の話からは、そんな感じがしました。


 でも、やっぱりもどかしい。


 姉弟の関係だったからいいのではありません。二人の間にある想いを知っているからこそ……二人が同じ屋根の下にいた事実が、わたしは悔しくてたまらないのだと思う。


 ……今は、その悔しさも受け入れられるようになってきましたけど。


「……それにあの日、僕は……」


 御大地くんは言いかけて、口を閉じてしまいました。


「『僕は』……なんですか?」


 わたしは聞き返すと、御大地くんは窓の外へ視線を向けました。


「……ふとしたとき、瑠璃の顔が頭に浮かんだんだ」


 平然な顔して話す御大地くんとは対照的に、わたしの耳は、みるみる熱くなっていくのを感じました。


「……なんでだろうな」


 そう呟く御大地くんは、本当に不思議に思っているようでした。

 わたしは……やっぱりどこか、期待を抱かずにはいられませんが。


(ハッキリしない人ですね、御大地くんって)


 ――口には出しませんけど。


 それでも、選んだのはわたしですから。


「御大地くん。ソフトクリーム、ひと口いかがてすか?」


 わたしはソフトクリームを差し出すと、御大地くんは「いいよ、瑠璃のだろ――」と言いかけましたが、わたしの顔を見てか、優しく微笑むと、「……いただきます」と言って、ソフトクリームに口をつけました。


「……御大地くん」

「……うん?」

「わたしも……話さないといけませんね。わたしと、兄さんのこと」


 ――前に話そうとしたまま、そのままになっていましたから。


 御大地くんはわたしに正直に話してくれている。わたしもいい加減、わたしのことを伝えないと。


「……あの日。わたしね、御大地くんと円樹先輩がいっしょにいたことを知ってしまって……やっぱり、悔しかったんです。許せない気持ちになってしまったんです。わたしは、御大地くんの『(キモチ)』を知った上で、振り向かせてみせるって覚悟で、付き合ったはずなのに……」


 ――本来なら、わたしはそれも受け入れなければならなかった。わたしはどんなことも受け入れるって、決めていたはずだったんですから。


「……わたし、覚悟が甘かったみたいです。でも、今は違う。わたしはどんなあなたも受け入れます。尊重します。……絶対に、必ず」


「……瑠璃」


「――それに、わたしだって御大地くんにずっと黙っていること、あるんです。御大地くんとは違っていて、わたし、ずっと前から……」


 伝えなきゃ。


 じゃなきゃ、せっかく自分の気持ちを押し殺してまで、円樹先輩を想う御大地くんを裏切ることになってしまう。


 こんな不誠実極まりないこと、押し通してはいけない。


「――兄さんと……」


 ……伝えたら、どうなるでしょうか。


 この発言をきっかけに、御大地くんはわたしを軽蔑するでしょうか。


「わたし……は……」


 ……。

 …………。


「……御大地く――」

「瑠璃。そんなに気負ってまで、話さなくていい」


 御大地くんはわたしの言葉を遮りました。


「いつか話せるときでもいいし、一生話さなくてもいい」


 御大地くんは改まった様子で、わたしを見つめました。


「――ただ、僕といっしょにいてくれたら、それだけですごく……十分だから」


 ……それって。


「……御大地くん」

「……はい」

「改めて、聞いてもいいですか」

「……ああ」


 わたしはひと呼吸挟んでから、言う。


「円樹先輩――お姉さんへの『(キモチ)』は、今も残ってますか?」


 御大地くんは目を閉じて、再びその目を開いてから答えます。


「しばらく……もしかしたらずっと、消え去りはしないと思う。それでも、僕は決めたよ」


 わたしはそれを聞いて、やっぱり御大地くんだと思って、安心しました。


「食べたら、このあとはまっすぐ帰りますか」

「そうだな。……あ、もうひと口、ソフトクリームもらってもいい?」

「えー。わたしに買ってくれたんじゃないんですか?」

「さっきもらったら、もう一度欲しくなっちゃって」


 ――ようやく初めて、わたしたちは純粋に、今を楽しめているような気がしました。

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