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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第五章二節:どこまでもあなたを求む『北千種瑠璃』
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変わらなければならないから

 御大地(みおおじ)くんと口を利かなくなってから、どれくらい経ったでしょうか。


 ずいぶんと、長い間のことのように思います。


 わたしはなんとなく、図書室のカウンター上にある、卓上カレンダーに目をやりました。御大地くんとケンカした日と、今日の日付をそれぞれ目で追ってから、肩を落とすわたし。


(実際、一週間も経ってないわけですか……)


 日付を見て、わたしは自分の気の短さにため息をつきました。


 ようやく手にした想いの人だったのに。わたしがほんの一瞬、覚悟を揺らがせてしまったせいで、こんなことになってしまうなんて。


 ……わかっていたはずなのに。

 御大地くんの想う人は、彼女――円樹(つぶらき)先輩だってことくらい。


 わかった上で、わたしは彼と付き合おうと決めたはずなのに、彼女の声を電話越しで聞いてしまっただけで、その覚悟は崩れてしまった。


(……もう、御大地くんもわたしに愛想尽かして、彼女の元へ行ってしまったかしら)


 そう考えると、胸がギュッと締め付けられます。


 少し前までは、この図書委員の仕事も御大地くんに手伝ってもらったりもしたけど、今はそんなこともありません。


 わたしから、手伝ってほしいと願うことはなくなりましたから。

 御大地くんはきっと、そのまま先に帰っているはずです。


 わたしはただ、図書委員の仕事を済まして、兄さんの迎えを待つだけ。


(あーあ。これじゃ、完全に振り出しに戻ってしまったのと、ほとんど同じです)


 そして、またため息を洩らし。


(そろそろ時間です。図書室を締めましょうか……)


 そう思い立ち上がったときです。ガラガラと、扉の開く音が聞こえました。


 こんなギリギリの時間に返却ですか、と少しめんどうに思いながら顔を上げれば、そこには御大地くんがいました。


「みっ……御大地くん……っ!」


 驚き、胸が弾む。


 そんな気持ちを隠すように、わたしは眼鏡に手を当てながら、俯きました。


「……な、なんですか。返却なら早くお願いします。……もう、利用時間は終了しますから」


 なるべく素っ気なくそう言うと、御大地くんの気配はどんどんこちらに近づいてきました。


 肌で感じる距離まで、彼が近づいて来たのがわかりました。


「いっしょに帰ろうと思って、迎えに来た」


 御大地の言葉を聞いて、彼を見つめ返しました。


「……もう一度、ちゃんと話したいと思って」


 真っ直ぐと見つめて話す彼に、嘘やごまかしは感じられません。


「……」


 ――はい。


 そう素直に答えればいいのに、わたしの口は言うことを聞いてくれません。


 いらない意地が――わたしの本心の邪魔をする。


 また、少しずつ視線が落ちていく。

 このままではダメなのに、わたしったら、どうして……。


「……やっぱり、まだ……そうだよな」


 離れかけていく彼の言葉に、わたしはすぐに否定しようとしましたが、できなくて。


 ――ダメです。このままじゃ、また彼は……。


 瞬間、また扉の開く音がしました。


 わたしたちは同時にそちらへ視線を向けます。今度この場へ現れたのは――兄さんでした。


「……いたのか、御大地」


 兄さんは嫌そうに御大地くんを睨みつけました。


 兄さんはわたしと御大地くんを交互に見てから、渋々といった具合に、背を向けました。


 珍しく身を引こうとする兄さんに、わたしは反射的に「待って、兄さん!」と声を掛けていました。


 言ってから、口を押えるわたし。


 兄さんはこちらを振り向いて、わたしを見ました。


「……瑠璃(るり)?」


 兄さんの優しい呼びかけに、わたしはたまらなく、その優しさに寄りかかりたくなりました。


(……でも、ここで甘えたら、いけない)


 わたしも、変わらないと。……でも。


「……」


 兄さんは少し黙ってから、やがてこう言いました。


「……瑠璃。俺は家で待ってるからな」


 続けて、兄さんは、


「御大地。今度また瑠璃を悲しませるようなことはするなよ。次は許さないからな」


 そう最後に言い残して、扉の向こうに消えていきました。


 兄さん、また首を突っ込んでくるかと思ったけど、そんなことしなかった。


(……わたしも、変わらないと)


 わたしは意を決して、口を開きました。


「御大地くん」

「瑠璃」


 ちょうど、わたしたちの声は重なってしまい、わたしたちは戸惑いましたが、それがどうにもおかしくて、二人で小さく笑いました。


「……久しぶりに、帰りましょうか」


 やっとそう伝えることができたわたしは、深い安心感で満たされていました。

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