『恋』の終着点に向かって
放課後。アタシは一人、昇降口に立って待っていた。
アタシの前を通り過ぎていくみんなは、必ず一度アタシの姿を見ては、笑顔を浮かべ去っていく。
それは、いつもの見慣れた光景。
だけれど唯一、アタシの前をただ通り過ぎていく人がいた。
アタシはその人を見逃すはずもなく、その後ろ姿を呼び止めた。
「――守」
守は、ゆっくりと振り返り、その瞳を一瞬輝かせはしたけれど、すぐにその光は失われてしまった。
「今日は瑠璃ちゃんといっしょじゃないの?」
そう聞くと、守は目を逸らしつつ、こう答える。
「……瑠璃は、図書委員の仕事があるので」
「前はお手伝いしてたじゃない」
「……今は、あんまり話してもらえませんから」
アタシは守の横を横切りながら、「今日は、いっしょに帰ろうか」と誘った。
守はアタシの思ったとおり、無言でついてきてくれた。
「守さ、瑠璃ちゃんとまだ仲直りできなさそう?」
帰り道。アタシはそう聞いてみた。
「……」
途端に、黙ってしまう守。
「あんまりアタシが言うことじゃないかもしれないけれど、守から何か話しかけたほうがいいんじゃないかな」
「……」
そう言うと、なんだか不機嫌な顔を浮かべる守。
(やっぱり、アタシに言われるのは嫌だったかな……)
そう思っていると、守はアタシを見つめ、こう話す。
「円樹先輩、僕のことよく心配してくれますよね」
アタシは「そんなの当たり前じゃない」と答えたけれど、守はどこか寂しげだった。
「お父さんと会ったときも、あんなに姉らしく振舞ってくれて、今も……僕と瑠璃の関係まで気にしてくれますよね」
「……え?」
「もう、円樹先輩にとって僕はただの弟ですか?」
「……っ!」
瞬間、アタシの胸がギュッと高鳴る。
まるで、突然心臓を掴まれたみたいに。
甘えた表情を見せる守は初めてで、まだ知らなかった守の部分に、ドキドキが止まらなかった。
「……そんな……ただの弟なわけ、ない」
アタシは緊張の中、絞り出すようにそう伝えると、守は途端に顔を赤くして口元を抑えた。
「……すみません。何言ってるんだろう、僕……」
そう呟いた守。
「……姉弟じゃなければよかった」
守のそれは、心の底から吐き出しているように思えた。
「姉弟じゃなければ、今、こんなふうになっていなかったはずだ」
姉弟じゃなければ……か。
そうなのかもしれない。
でも、もし姉弟じゃなかったら。アタシたちの間に、血の繋がりがなかったとしたら。
――アタシたちは、今のように惹かれあっていたのかな。
「……アタシは、守と姉弟でよかったと思うよ」
そう言うと、守は目を丸くしてアタシを見つめた。
「姉弟だったから、きっとこうして出会えたんだよ。運命が、アタシたちを引き寄せてくれた」
アタシは、笑顔を彼に向ける。
「だからこそ、アタシは『恋』を知れた。アタシはこの気持ちを知れて、後悔なんてひとつもない。むしろ、よかったって本当に思ってるよ」
守は、ようやく頬を綻ばせ、小さな笑い声を立てた。
「……お姉ちゃん、意外とロマンチックなこと言うんだね」
「えー、そうかなぁ?」
クスクスと笑い合うアタシたち。
周りの人は、アタシたちのことをどう見えているんだろう。
仲睦まじい姉弟の姿だろうか。
それとも、高校生のカップルに見えているのだろうか。
それか、ただの友達同士か。
……どう見られているところで、アタシはどうでもいいのだけれど。
「……そうそう。話を最初に戻すけれど――ちゃんと、瑠璃ちゃんと仲直りするんだよ。春休みに入る前までに、必ず、ね」
そう最後に念押しすると、守は「わかった」と頷いた。
そのとき、もう駅が見えてきた。
いっしょに帰るのも、ここまでみたい。
「じゃあね、守。アタシはこっちだから」
「はい。……じゃあ、また明日」
守は背を向け、去っていく。アタシも歩こうとして、だけれど、すぐに振り返り、「守!」と彼を引き止めた。
再びこちらを向く守に、アタシは言う。
「卒業式の日さ、終わったら屋上まで来てほしいの」
守は、アタシのその目的に気づいたのだろう、真剣な眼差しで頷いて、
「わかりました。約束です」
と、返してくれた。
アタシは手を振って、守と別れ、家へと向かう。
――アタシの『恋』も、そろそろ終わりが見えてきた。




