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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第五章一節:なりきれない『円樹円』
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『恋』の終着点に向かって

 放課後。アタシは一人、昇降口に立って待っていた。


 アタシの前を通り過ぎていくみんなは、必ず一度アタシの姿を見ては、笑顔を浮かべ去っていく。


 それは、いつもの見慣れた光景。


 だけれど唯一、アタシの前をただ通り過ぎていく人がいた。


 アタシはその人を見逃すはずもなく、その後ろ姿を呼び止めた。


「――(まもる)


 守は、ゆっくりと振り返り、その瞳を一瞬輝かせはしたけれど、すぐにその光は失われてしまった。


「今日は瑠璃(るり)ちゃんといっしょじゃないの?」


 そう聞くと、守は目を逸らしつつ、こう答える。


「……瑠璃は、図書委員の仕事があるので」

「前はお手伝いしてたじゃない」

「……今は、あんまり話してもらえませんから」


 アタシは守の横を横切りながら、「今日は、いっしょに帰ろうか」と誘った。


 守はアタシの思ったとおり、無言でついてきてくれた。



「守さ、瑠璃ちゃんとまだ仲直りできなさそう?」


 帰り道。アタシはそう聞いてみた。


「……」


 途端に、黙ってしまう守。


「あんまりアタシが言うことじゃないかもしれないけれど、守から何か話しかけたほうがいいんじゃないかな」

「……」


 そう言うと、なんだか不機嫌な顔を浮かべる守。


(やっぱり、アタシに言われるのは嫌だったかな……)


 そう思っていると、守はアタシを見つめ、こう話す。


円樹(つぶらき)先輩、僕のことよく心配してくれますよね」


 アタシは「そんなの当たり前じゃない」と答えたけれど、守はどこか寂しげだった。


「お父さんと会ったときも、あんなに姉らしく振舞ってくれて、今も……僕と瑠璃の関係まで気にしてくれますよね」

「……え?」

「もう、円樹先輩にとって僕はただの弟ですか?」

「……っ!」


 瞬間、アタシの胸がギュッと高鳴る。

 まるで、突然心臓を掴まれたみたいに。


 甘えた表情を見せる守は初めてで、まだ知らなかった守の部分に、ドキドキが止まらなかった。


「……そんな……ただの弟なわけ、ない」


 アタシは緊張の中、絞り出すようにそう伝えると、守は途端に顔を赤くして口元を抑えた。


「……すみません。何言ってるんだろう、僕……」


 そう呟いた守。


「……姉弟じゃなければよかった」


 守のそれは、心の底から吐き出しているように思えた。


「姉弟じゃなければ、今、こんなふうになっていなかったはずだ」


 姉弟じゃなければ……か。


 そうなのかもしれない。

 でも、もし姉弟じゃなかったら。アタシたちの間に、血の繋がりがなかったとしたら。


 ――アタシたちは、今のように惹かれあっていたのかな。


「……アタシは、守と姉弟でよかったと思うよ」


 そう言うと、守は目を丸くしてアタシを見つめた。


「姉弟だったから、きっとこうして出会えたんだよ。運命が、アタシたちを引き寄せてくれた」


 アタシは、笑顔を彼に向ける。


「だからこそ、アタシは『恋』を知れた。アタシはこの気持ちを知れて、後悔なんてひとつもない。むしろ、よかったって本当に思ってるよ」


 守は、ようやく頬を綻ばせ、小さな笑い声を立てた。


「……お姉ちゃん、意外とロマンチックなこと言うんだね」

「えー、そうかなぁ?」


 クスクスと笑い合うアタシたち。


 周りの人は、アタシたちのことをどう見えているんだろう。


 仲睦まじい姉弟の姿だろうか。

 それとも、高校生のカップルに見えているのだろうか。

 それか、ただの友達同士か。


 ……どう見られているところで、アタシはどうでもいいのだけれど。


「……そうそう。話を最初に戻すけれど――ちゃんと、瑠璃ちゃんと仲直りするんだよ。春休みに入る前までに、必ず、ね」


 そう最後に念押しすると、守は「わかった」と頷いた。


 そのとき、もう駅が見えてきた。

 いっしょに帰るのも、ここまでみたい。


「じゃあね、守。アタシはこっちだから」

「はい。……じゃあ、また明日」


 守は背を向け、去っていく。アタシも歩こうとして、だけれど、すぐに振り返り、「守!」と彼を引き止めた。


 再びこちらを向く守に、アタシは言う。


「卒業式の日さ、終わったら屋上まで来てほしいの」


 守は、アタシのその目的に気づいたのだろう、真剣な眼差しで頷いて、


「わかりました。約束です」


 と、返してくれた。


 アタシは手を振って、守と別れ、家へと向かう。


 ――アタシの『恋』も、そろそろ終わりが見えてきた。

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