お人好しな二人
最近、守の元気がないみたい。
たまに一年生の教室を覗きに行くんだけれど、守の横顔はどこか活気がなくて――まあ、基本的に無表情なことが多い守なんだけれど――落ち込んでいるってことが感じ取れるの。
やっぱり、瑠璃ちゃんのことで……かな。
アタシがあの日、守の家にお泊まりした日、不用意に守に声を掛けてしまったから。
電話越しにアタシの声を聞いた瑠璃ちゃんはきっと、要らぬ誤解をして守とケンカしてしまったに決まってる。
……二人とも、最近あんまり話してないみたいだし。
「……か。円!」
不意に名前を呼ばれ、アタシはハッと我に返った。
目の前には、机に頬杖をつきアタシを睨みつけていた優子が。
「……アハハ。ごめん、優子、なんの話してたっけ?」
「別に、特にこれといった話なんてしてないわよ。……円ったらどうしたの、そんなボーッとしちゃって」
……優子は相変わらず、なんでもおみとおしだなぁ。
隠したって意味はない。アタシは正直に、今悩んでいることを話すことにした。
「……最近ね、守、元気ないみたいなの。まあ、アタシのせい、なんだけれどね」
「……円のせい?」と首を傾げる優子に、アタシは続ける。
「うん。アタシが守に近づきすぎたせいでね、瑠璃ちゃんと守が、たぶん……ケンカしちゃってて。それで、守ね、元気がないの」
優子は眉を寄せて難しい顔をしていたけれど、やがてこう返す。
「それで……何を円が悩む必要があるの?」
優子の返事に、アタシは思わず「……へっ?」と間の抜けた声を出してしまった。
「円は、あの転校生のことが好きなんでしょ? 転校生と瑠璃との距離が開いてるなんて、まさに絶好のチャンスじゃない」
「絶好の……チャンス……?」
「そうよ。今の隙に転校生を奪っちゃえば、転校生はもう、円のモノじゃない!」
――う、奪う!?
「そっ、そんなのダメだよ!」
「……なんで?」
「なんでって……だってほら、守と瑠璃ちゃんは付き合ってて……」
「でも、その関係は今、危機的な状況なのよ。このチャンスを逃す手はないと思うわ。今、再び円が転校生を手にする時なのよ!」
そう言って、ガッツポーズを掲げる優子。
「それに、円、前に言ってたじゃない。『守もまだアタシのこと好きだと思うんだよね』……って。だったら、なおさらよ! さっさと告白して、転校生を自分のモノにするのよ!」
鬼気迫る表情で迫る優子に、アタシは思わず後ずさる。
優子の言ってることは、わからなくもない。……というか、ひとつの正しい行動なのかもしれない。
少女マンガでも、こういう隙を狙って略奪するお話とかあったし……。
でも、それとアタシとでは事情がまた違う。
それに、そういうのって無理矢理相手を丸め込んでいるような気がして、あんまりよくない気がする……。
何よりも、アタシの気持ちは――守自身に、選んでもらうことだから。
「優子ってさ……いわゆる『肉食』って感じだよね」
アタシがひと言返すと、優子はムッとした顔をした。
「……本当に肉食だったら、わたしはねぇ……」
優子は小さく何かを言いかけていたけれど、そのあとすぐにこう話す。
「逆に円はお人好しすぎるのよ。もっと自分本位に行動したらいいのに」
アタシは内心、優子だってお人好しな気がするけれどなって思ったけれど、口に出すのはやめておいた。




