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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第五章一節:なりきれない『円樹円』
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淡い期待を抱いて、願いを込めて

「お母さん。アタシ、お父さんに会ってみたい」


 リビングのソファでくつろぎながらスマホを見ていたお母さんの背中に、そう願ったアタシ。


 お母さんはスマホをいじる手を止めて、数秒してから、ゆっくりとこちらに振り向いた。


「……どんな人か、気になるの。少しの間とはいっても、アタシ育ててくれた人……なんだよね。どうしても、一度は会ってみたいなって。だからね、一回でいいの。アタシ、お父さんの住む家に行ってみたい」


 ――そう話しつつも、本音のところは違っていた。


 ただ、(まもる)が暮らす家に行ってみたかった。

 どんな家に住んでるのか、どんな部屋で過ごしているのか、どんなふうに過ごしているのか……そんな日常の一片に、触れてみたかった。


 ……もしかしたら、これでアタシの気持ちも変わるかもしれないし。


 そんな淡い希望を抱きながら、守の家にお泊まりに来たわけだけれど、お泊まり自体は、それはそれで楽しかった。


 お父さんの顔も見れて、よかった。


 自分で言うのもなんだけれど、アタシとお父さんって、なんとなく雰囲気が似てるかもって思ったかな。守とお父さんはね……うん、やっぱり親子だし、顔が似ていたな。


 そして、改めて思った――アタシたち、どこまでいっても姉弟なんだって。


(でも、アタシは姉弟(こんな関係)のままいたくない)


 お父さんの顔を見たら、この気持ちも変わると思ったけれど、そう簡単にはいかないみたい。


 あの日の夜。お互い、自分の部屋の前まで来たとき、アタシはどうしても、自分の気持ちを抑えることはしたくないと、強く思った。


 振り返ると、守が扉に手を掛けていた。だからアタシは、ほとんど反射的に、その手を掴んでいた。


「守」


 守は目を丸くして、アタシを見つめた。


「……」


 アタシはそこから先、どうも上手く言葉が出なくて、ただ守を見つめ返していた。


 ただ二人、しばらくその場で見つめあった。


 ……。

 この熱を、離したくない。

 それよりも、もっと近くで、あなたを感じたい。


 このままアタシが一歩踏み出せば、きっと――。


 そう思った刹那、廊下の先から気配を感じた。次に、上がってくる足音が耳に届いた――お父さんだ。


 ……。

 ……きっとこれは、神様がダメだよって止めてるんだよね。


 アタシは「おやすみ」とだけ言い残して、自分の部屋へと消えた。


 扉越しに、守とお父さんの話し声が聞こえて、しばらくして、扉の閉まる音がした。お父さんも守も、各々の部屋へ戻ったんだと思う。


「……」


 アタシは真っ暗な天井を見上げて、それから目を閉じたけれど、どうにも寝付けなくて。


 どうしても、彼のそばにいたいという欲求ばかりが大きくなってしまって。


 アタシはこっそり部屋を出て、向かいの守の部屋の扉に手を掛けた。


 音を立てないように、慎重に扉を開ける。

 神経を尖らせながら中へと忍び込み、静かに扉を閉めた。


 真っ暗で足元もよく見えない中、アタシは目を凝らし、ゆっくりとベッドへ近づいていく。


 守の顔の辺りだけは明るかったから、目指すのは簡単だった。


 近くへきて、アタシは守の顔を覗き込んだ。

 守は、スヤスヤと寝息を立てて眠っていた。


 かわいらしいなと微笑んで、少し視線をずらした。守はスマホを見ながら寝落ちしてしまったようで、画面はつきっぱなしだった。だから守の顔元だけ明るかったのだ。


 あんまり人のスマホを見るものじゃないけれど……アタシは、好奇心が抑えきれずに画面を覗き込んだ。


 画面は、メッセージアプリのトークルームが表示されていた。


 相手は――瑠璃(るり)ちゃん。


「……」


 何か伝えようとメッセージを打っていたみたいだったけど、送信前に眠ってしまったみたい。


 アタシそっとスマホをスリープモードにして、守の毛布の中に入り、隣で寝転がった。


(アタシのやってること……よく考えたら変態かも……)


 そう思ったけれど……ううん、大丈夫。


 だってアタシ、守のお姉ちゃんなんだから!


「……そう、お姉ちゃんなんだよね」


 アタシは呟いて、守の背中におでこを付けた。


 温かくて、いい匂いがして、すっごく安心できて。同時に、胸がドキドキしてくるの。


 この気持ちを守と共有できたら、どんなにうれしいだろうな。


 ……まあ、それは叶わない……叶えられないかもしれないけれど。


「……守。次はちゃんと答えてよね」


 守は眠っていて聞こえてないだろうけれど、わたしはその背中に向かって囁いた。


「……じゃあね。おやすみ、守」


 そしてわたしは目を閉じた。


 あんなに寝付けなかったのに、そのまますぐに眠りへと落ちてしまったのだった。

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