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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章三節:それでも願う『北千種貴志』
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それでも、貴志〈俺〉は

 自宅へ帰ると、瑠璃(るり)はすでに帰宅していた。


「あら。おかえり、兄さん」


 瑠璃の笑顔に心が軽くなる――しかし同時に、それ以上に心配の思いを胸の内に募らせていく。


「ただいま。……今日は早いんだな」

「はい。図書委員の仕事もありませんから」

「……そうか」


 今までだったら、瑠璃が先に帰っていることも不思議じゃなかった。

 俺と二人で帰ることもあったが、今日のように俺だけ生徒会がある日は瑠璃が一人で先に家に帰るというのは普通のことだった。


 でも、今は違う。


 今の瑠璃には、御大地(みおおじ)がいる。教室に残って話しているのか、放課後どこかへ出かけているのかは知らんが、こんなに真っ直ぐに帰ってくるというのは、なくなっていたんだ。


 ……やはりまだ、御大地との仲は拗れたままなのだろうか。


 あまりにも俺が神妙な顔をしてしまっていたのか、瑠璃は苦笑いを浮かべると、こう話す。


「兄さん。わたしのことは、どうか気にしないで。これはわたしの問題だから。兄さんが気負うことじゃない」


 ――俺が気負うことじゃない、か。


 そう言われても、瑠璃に対する不安は消えない。

 俺は瑠璃がただ、あんな奴のために犠牲になっているような気がしてならないのだ。


「瑠璃……瑠璃も、わかってるんだろう? 御大地が本当は誰のことを見ているかを」

「…………」

「なのに、なんで瑠璃は、そんな御大地のこと……」


 否定したくはない。瑠璃の気持ちを。

 それでも。このままじゃ瑠璃の気持ちが報われることなんてないじゃないか。


 ……だったら、瑠璃にはもう、さっさと御大地を諦めてもらったほうが、瑠璃にとっていいことなんじゃないか。


 新しい『恋』にでも目を向ければいい。……いや、『恋』に目を向けなくてもいい。またいつものように、俺ら兄妹二人で、暮らしていけばいい。


「……瑠璃」

「兄さん。気を遣ってくれてありがとう」


 瑠璃は微笑んだ。それは決して、無理をしているとか、そういうのでは一切なかった。


「でもね、兄さん。わたし、それでも御大地くんが諦められないの。最後まで、御大地くんと添い遂げたいって思うの。御大地くんの想う人が、たとえ、わたしじゃなくっても」


 瑠璃はどこか遠くを見つめ、続ける。


「御大地くんの『恋』は叶わない……ううん、叶えられない。だからこそ、わたしはそれに漬け込んで、いっしょにいるの。……兄さんの思っているような、御大地くんだけが悪いわけじゃないの。わたしだって、御大地くんの気持ちを利用している、悪い子なんだから」


 ――兄さんとしてきたことも、黙っているし。


 瑠璃は小さな声でそう呟いてから、何かに気づいたように、少しだけ目を見開いた。


「……。そっか、わたしも騙してるんだ、御大地くんのこと……なのに、わたしだけ一方的に怒って」


 独り言を洩らした瑠璃に、「……瑠璃?」と俺は声を掛けた。

 瑠璃はハッとした様子で、「ううん、こっちの話」と言って、苦笑いを向けた。


「……結局瑠璃は、俺が何を言っても御大地のことを諦めてはくれないんだな」

「いくら兄さんのいうことでも、こればかりは譲れません。それに、どんな結果になろうとも、覚悟はできてますから」


 瑠璃は力強い眼差しを向け、こう続ける。


「結局最後にフラれてしまっても、わたしはそれを受け入れるつもりでいます。本当にそうなったら、立ち直るまでやっぱり時間はかかるかもしれませんけど……」


 最後に、瑠璃は言う。


「でも、きっとそうなったときは、兄さんが隣で慰めてくれますよね」


 そう言われた瞬間、御大地に対する溜飲が下がったのを感じた。

 そのとき、ようやく気づく――俺は結局、瑠璃に頼られなくなるのが嫌だっただけなんだと。


「……ああ」


 俺は答えて、今日の夕飯は何を作ろうかなどと瑠璃と話しながら、家の奥へと進んでいく。


 しかし、溜飲が下がった、といっても、まだ完全に瑠璃の『恋』を心の底から応援できるわけじゃない。


 瑠璃に気持ちを向けていない御大地はやはり信頼できないし、そんな御大地ばかりに夢中になる瑠璃も心配でしかたない。


 このままの状態で、本当に瑠璃が幸せになれるのかなんて……俺の立場から見る限り、明るい希望は見えない。


 ――それでも、俺は瑠璃の想いを尊重しよう。


 今はただ願おう。瑠璃がこの先、御大地とずっといれるように。

 いつか、心の底から、幸せな二人だと祝えるように。


「瑠璃。何かあったら、絶対に兄さんに言うんだぞ」

「……もちろん。兄さんはわたしの、たったひとりの家族ですから」


 瑠璃との間にあったわだかまりが解けていくのを、会話を通して感じていた。

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