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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章三節:それでも願う『北千種貴志』
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本当の愛情とは

 俺は生徒会室で、ある人物を待っている。


 今、ほかの人は誰もいない。生徒会長は今日はバイトがあるとかで早々に帰り、書記や会計も自分の仕事を終わらせて帰っていった。今日居残りなのは、俺一人だけだ。


 静かな一人だけの空間で、窓の外を見つめる。枯れ木の細い枝が風に揺られるのを見ながら、不意に、そろそろ卒業式も近くなってきたと感じた。


 ……卒業式といえば。送辞の役は、めんどうなことに俺がやることになっている。


 特に先輩に対して思い出はないんだが、生徒会長に言われてしまってはしょうがない。当日はテンプレートを述べて、機械的に終わらせるとしよう。


(別に、誰が卒業しようと、俺はあまり興味ないがな)


 ああ、でも。来年の卒業式は寂しいな……そのときは俺が卒業して、瑠璃(るり)と同じ学校に通えなくなってしまうし。


 ……ああ、そうそう。答辞の役は、来年の春には卒業してしまう生徒会長などではない。生徒会長は、生徒会長のクセにあまり表に立ちたがらないタイプだからな。それに今の三年生には、それよりも学園のみなが望む、最も適任な人物がいるし……な。


 コンコンと、ノック音が聞こえた。ひとつ間を開けてから、ガチャリと生徒会室の厚い木製の扉が開かれる。


「失礼します。……ああ、やっぱり貴志(たかし)くんがいた」


 生徒会室に入るなり、露骨にガッカリとした顔をして見せるのは、卒業式に答辞をお願いする円樹(つぶらき)先輩だ。


「生徒会から呼ばれてるよーってクラスの子に言われてから、なぁんかそんな気はしたんだよね。また貴志くん、アタシに何か頼む気だなって」

「その読みは正解です。今年度の卒業式は、ぜひ答辞を円樹先輩にとお願いするためにお呼び立てしましたから」


 俺は答辞の書かれた紙を円樹先輩に渡した。円樹先輩は受け取るや、「えー、答辞もアタシやるの〜」と文句を言ってきたが、「学園のみなさんがそれを望んでますので」と伝えると、円樹先輩は、だったらしかたないというような表情で、大人しく引き受けてくれた。


「基本の文言はそこに書かれてますから、あとはご自身のお言葉で、好きに変えてくださって結構ですから」

「はいよー。……ちなみに、送辞って誰がやるの?」

「俺ですが」

「そっか。当日はよろしくね」


 円樹先輩は言って、にっこりと笑った。

 俺はその笑みを見て、ふと思う。


「来年はもう卒業ですけど……やっぱり寂しいですか?」


 円樹先輩は首を傾げて、「えー、なんで?」と聞き返した。


「円樹先輩、学園のみんなから好かれてるじゃないですか。卒業して離れるとなると、寂しく感じるものなのかなと。特にほら、御大地(みおおじ)の奴とか」


 御大地の名前を出すと、円樹先輩は一瞬、ほんの少しだけ眉を寄せたのがわかった。


「……ま、寂しくなるかな。もう同じ学園で過ごせなくなるわけだし。まあでも、絶対に、二度と会えなくなるってわけじゃないから」

「それって、卒業しても御大地のことは諦めないってことですか」


 円樹先輩は「違うよ」とひと言言って――それだけだった。


「……あ。そういえば貴志くんさ、その……瑠璃ちゃんから(まもる)の話とかって、聞いたりする?」

「……どうしたんですか、急に?」

「いや、その……アタシ、もしかしたら瑠璃ちゃんに、変な勘違いさせちゃったかもで……」


 円樹先輩は何か言いづらそうに、もごもごと口を動かしていた。気にならないといえば嘘だが、ここは特に追求せず、ただ「いえ、特に何も」とだけ答えた。


「……瑠璃、御大地とのこと、俺には話してくれませんから」

「……そうなんだ」

「はい。『兄さんには関係ない』って……そればっかりです」

「……そっか」

「……急に、俺と瑠璃の間に線を引かれたような気分ですよ」


 言って、ため息をついた。


「あんなに瑠璃は、俺に甘えていたのに。二人でずっといっしょに過ごしていたのに。どんなときだって、ずっと……」


 ずっと、これからもいっしょに過ごしていくかと思っていた。俺が瑠璃を支え続けて、瑠璃はただ俺のそばにいてくれて。


「――兄妹だからって俺は構わない。ただ二人だけで愛し合って、永遠に過ごしていたかった」


 自然とついてしまった言葉が、あとから俺の本音なんだろうと気づいた。


「……『恋』なんて、邪魔だ」


 俺は言ってから、円樹先輩へ視線を向けた。


「……すみません。変なこと言ってしまって」


 円樹先輩は首を横に振るが、一方その顔は、今の言葉を重く受け止めているような、深刻な表情を浮かべていた。


「ううん……わたしも、気持ちはなんとなく、わかるから」


 円樹先輩は「ただね」と、こう続ける。


「『恋』が邪魔だなんて思わないで。そう思う貴志くんこそが、その『恋』を邪魔しちゃってるかもよ」


 言われてすぐに理解できず、何度か瞬きをしてしまうと、円樹先輩は慌てて「ああ、なんていうか!」と声を上げた。


「アタシは『恋』はすばらしいものだと思うの! 『恋』のおかげでアタシが知らなかったこと、いろいろ知ることもできたし、経験もできたし……。まずは受け入れてあげることが、やっぱり大事なんじゃないかなって。その上で、どう行動するかは貴志くん次第だと思うけれど……」


 円樹先輩は微笑みを向けて、優しく諭すかのようにこう告げる。


「本当に大切な人を想うなら、アタシはその人の選択を信じるかな」


 選択を信じる……か。


「……もし、その人の選択肢が間違っていたら?」


 そう聞くと、円樹先輩は「そんなの単純でしょ」と、こう答える。


「寄り添ってあげればいいだけだよ。本当の愛情って、そういうことじゃないかな」


 円樹先輩はそこまで話すと、ふと時計に視線を向け、「ああ、そろそろ帰らないとね」なんて言って、扉のほうへと足を向けた。


 ドアノブに手を掛けた円樹先輩は、最後に振り返り、俺に向けて手を振ると、


「じゃあね貴志くん。ちょっと早いけれど、よいお年を!」


 と言って、生徒会室をあとにした。


「……学園一人気だという人は、やっぱり器が広いな」


 でもきっと……俺が一番見習わなきゃいけないところだと思う。


 少しだけ物思いに耽ってから、俺は鞄を手に取って、生徒会室の電気を消した。俺は真っ暗になった生徒会室を一瞥してから、静かに帰路についた。

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