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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章三節:それでも願う『北千種貴志』
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少し仲良くしすぎたみたい

 最近、妹の機嫌が悪い。


 常にどこか不機嫌で、俺に対しても素っ気ない。

 ……いや、態度が素っ気ないのは、不機嫌になる前からだったか。



 ――『――わたしはもう、兄さんの『愛』は必要ない』



 素っ気なくなったのは、この言葉を言われてからだ。


 今までずっと俺の隣に妹は――瑠璃(るり)はいた。

 両親を亡くしてから、俺は親以上の存在になろうと、片時も瑠璃のことを離さず見守ってきたつもりだ。瑠璃のことを考えなかったときはないくらい、俺は瑠璃を愛している。


 しかし、瑠璃はそんな俺を拒絶しはじめた。もういっしょに帰ることもないし、眠ることも、風呂に入ることもない。


「わたしだって十分大人だから。これからは一歩距離を置いて、兄妹らしくしていきたい」


 かつて、なぜ急に態度を改めたのかと聞いたとき、瑠璃はそう答えていた。


 自立、といえばそうなのかもしれない。

 でも俺は、別に瑠璃にそんなもの求めてなんかいなかった。


 俺はただ、ずっと兄妹二人で暮らしていけたらそれでよかった。


 だが、ある程度は覚悟していた。

 そのうち、瑠璃も『恋』して俺の元から離れていくことくらい、想定はしていた。


 瑠璃の取った選択なら、俺はすべて肯定して応援しようとも思っていた。


 ……でも、いざ蓋を開けてみれば、相手はあの男――御大地守(みおおじ まもる)だったなんて――俺は、とてもじゃないが素直に喜べない。


 瑠璃は間違っている。あの男は、どう見たって瑠璃のことをちゃんと見てはくれていない。


 あの男は明らかに、妥協して瑠璃と付き合っている。

 いや、妥協どころではない――本当の想いは、円樹円(つぶらき まどか)に向いているはずだ。


 なんで瑠璃は、そんな男を好きになってしまったんだ。


 最近不機嫌な理由も――きっとその男が原因なんだろう?


「……御大地め」


 俺は呟き、コンロの火をつけた。


 今日の晩御飯は瑠璃の好きなシチューだ。

 どんなときだって、瑠璃はこれを食べれば笑顔を取り戻してくれた。


 タンタンタン……と小刻みな音が聞こえてくる。台所に現れたのは、瑠璃だ。


「……今日はシチューなんだ」

「瑠璃、シチュー好きだろう?」

「ええ、すごく」


 瑠璃は言って、微笑んだ。

 俺はその笑みを見て――心底安堵する。


 この瞬間、俺らの間に張っていた緊張の糸は緩み出す。

 この機を逃すまいと、俺は瑠璃に尋ねることにした。


「……なあ、瑠璃」

「何?」

「何か、あったのか?」

「……」

「御大地のことだろう」

「……兄さんには、関係ない」


 ……またこれか。


「関係なくないだろ。俺は瑠璃の兄なんだから」

「兄だからって……妹の領域にどこまでも踏み込んでいいわけじゃない」

「……瑠璃」


 俺は瑠璃の手を掴み、肩を抱く。

 瑠璃の身体を引き寄せ、触れそうな距離まで顔を近づける。


「……っ」

「……瑠璃、なんで今更そんなこと言うんだ」

「……」

「互いの領域なんて、もうないに等しいだろう」

「……やめて」


 瑠璃に手を払われ、俺らの間に距離が生まれる。


「……兄さん。兄さんは、もうわたしばかり気にかけなくていい。兄さんも、兄さんだけの『恋』を見つけて、新しい『愛』に目を向けて」


 ――新しい『愛』って。俺は別に、そんなもの求めていないのに。


「わたしたち、少し仲良くしすぎたみたい」


 瑠璃は悲しげに笑う。


「御大地くんともう一度出会うまで、そんなことにも気づけなかった」


 瑠璃はそう呟いて、気持ちを切り替えるように手を叩くと、鍋の中を覗いた。


「兄さん、そろそろルーを入れてもいいんじゃないかしら。わたし、早くシチューが食べたくて待ちきれない」


 日常的な会話に戻していく瑠璃を見て、俺も無理矢理笑みを作って言葉を返す。


「もう少し待ってろ。できたらすぐによそってやるから」


 瑠璃はまた笑って、テーブルの席についた。


 しばらくの間、グツグツと鍋の煮える音だけが、この場を支配していた。

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