めんどうなわたし
「すみません。腹が痛くて遅れました」
結局、御大地くんは一時限目の授業の途中で現れました。
腹痛を言い訳にしていたけど……絶対に、駅でわたしのことをずっと待っていたのだと思います。
「そういうことなら、事前に連絡するように」と先生に注意された御大地くんは、ただ静かに頭を下げて、自分の席へ――わたしの後ろの席へと座りました。
ぞわりと冷たい冷気を吹きつけられたような感覚が、背中を這う。
遅れてきた御大地くんにすぐ話しかけることはできなくて、授業が終わるまで、わたしはただ罪悪感に押し潰されそうになりながら、この時間を耐えるしかありませんでした。
ようやく迎えた授業の合間の休憩時間。
与えられたたった10分間の中で、なんとか御大地くんに謝らないと……と考えていると、ふいに頭上に影が落ちるのを感じました。
ゆっくりと顔を上げるわたし。
そこには、御大地くんがわたしのことを無表情で見下ろしていました。
「み……御大地、くん……」
謝らないと。メッセージに気づけなくてごめんなさいって。
わたしは意を決して、謝罪を口にしようとしました。
「あの、わたし……その、ごめ――」
「――ごめん、瑠璃。僕が悪かった」
謝罪を先に追い越されて、空いた口が塞がりません。
「あのときの電話のせいで……きっと瑠璃、この土日すごく悩ませてしまったかもと思って……」
「…………」
「でもあれは、その……突然だったんだ。事前に知っていたら、僕は瑠璃に伝えていた」
……そうでした。こちらの問題もあるんでした。
「……円樹先輩とのお泊まりは、それはそれは楽しかったですか」
「……瑠璃。僕は別に円樹先輩と、何かしたわけじゃないさ」
「何かって、なんですか」
「……いや、その……。でも、本当に何もない。僕らはただ、改めて姉弟として過ごしていただけさ。父さんと三人で、家族として過ごしたんだ」
「……なら、もう円樹先輩への『恋』は消えました?」
「……それは、まだ……よくわからない」
「ここは、ハッキリと答えてほしかったです」
御大地くんから目を逸らし、窓の外へと視線を移しました。
ガラスに反射してうっすらと映るわたしの顔は、ひどく不貞腐れていました。
「……わたしも、今朝は申し訳ありませんでした。何せ、スマホにまったく目を通していませんでしたから」
「……別に、僕が勝手にしたことだ。瑠璃が謝ることじゃない」
「……謝らせても、くれないんですか」
「……っ。そ、そういうわけじゃ……」
「……ごめんなさい、御大地くん」
目を背けたまま、わたしは告げます。
「……わたし、今日はひどくめんどうなことを言ってしまいそうだから、もう話しかけるのはやめてください」
彼の気配が静かに遠のいたのがわかった。
……自分で言ったくせに、なぜここまで悲しく、寂しく思うのでしょう。
「……めんどくさい」
その呟きはきっと誰にも聞かれずに、ただ空気に溶けていきました。




