兄妹らしくあるために
次の日、目を覚まして、わたしはスマホを開いてみましたが、そこに誰からのメッセージもありませんでした。
深くため息を洩らすわたし。どこかで、御大地くんから何かしらの言い訳を言われるのを、期待していたからかもしれません。
でも、彼は何も言ってこなかった。
彼の家で過ごした二人は、何か上手くいくことがあったのでしょうか。だからもう、わたしのことはどうでもよくなったのかもしれません。
所詮、その程度の存在、だったわけです。
(こんなにも憂鬱になる日曜日なんて、初めて)
晴れているのが憎らしい。どうせなら、土砂降りにでもなってくれたらよかったのに。
わたしったら、天気にも見捨てられてしまったのでしょうか。
そんな自虐的なことを思っていると、コンコンと扉をノックする音が。
「瑠璃。入っていいか?」
――兄さんだ。
わたしは扉を開けると、そこにはやはり兄さんの姿がありました。
兄さんはわたしを見るなり、目を丸くして言います。
「ずいぶんと今日は髪がボサボサだな。それに……目も腫れてる」
兄さんの硬い親指が、わたしの下瞼をなぞりました。
何かまた事情を探ってくるのか……と内心ため息をついたわたしですが、そんな予想とは裏腹に、兄さんは優しい微笑みを浮かべました。
「おいで。俺がきれいに直してやる」
「…………」
もう兄さんの世話にならないと、宣言したばかりなのに――わたしは小さく、頷いてしまっていました。
髪をブローしてもらっている間、兄さんは何か話しかけてくることは一切ありませんでした。
兄というよりも、むしろまるで母親のように、ただただ優しく櫛で髪の毛を梳いて、きれいに整えてくれました。
わたしにとって、当たり前だった兄妹としての関係。
親子のようなやり取りはとても居心地がよくて、何も疑問に思わず、今まで、ただそれを享受してきました。
でも、本当はいけないこと、なのでしょう。
……いえ、ここまでのことなら、まだ許容範囲、でしょうか。でも、親子のような関係も踏み越えた、その先は?
そう考えた刹那、作業を終えた兄さんは後ろからわたしを抱き締めました。
それは熱く……堅く。
それに、嫌悪感を覚えることがくることはありませんでした。
それは、今だってそう。
わたしたちは少しずつ……兄妹の本来あるべき道を踏み外してきたんですから。
皮膚から感じる体温以上に、わたしたちは深く知り過ぎてしまった。
「……瑠璃。昨夜何かあったのか?」
「……」
押し黙るわたし。
答えられない――いえ、ここで答えてしまったら、いけない気がするのです。
それは、わたしと御大地くんの問題だから。
御大地くんだって、自身の姉との関係を守るために、自分の気持ちを押し殺してるんだから、わたしだって、兄さんに甘えてばかりではいけないはずです。
(……でも、そうだ。御大地くんは、昨日円樹先輩と……)
信じられない、信じたくない。
でも、でも……。
「……言いづらいことなら、今日はいいさ」
わたしの様子を見てなのか、兄さんはそう話した。
兄さんはわたしから身体を離すと、目の前の鏡に映るわたしを見つめて、こう話します。
「せっかく晴れているから、今日はどこかへ出かけようか」
……。
……お出かけくらいなら、兄妹としても不自然じゃない、ですよね。
「……うん。何か甘いもの、食べに行きたいかな」
わたしが言うと、兄さんはとてもうれしそうに笑った。




