だから、向き合えていたのに
家の用事も終わって、自分の部屋で一人一段落ついたとき、なんとなく、彼の声が聞きたくなった。
今思えば、それが間違いだったってハッキリ言えます。
いきなり電話を掛けるのも迷惑だろうから、まずはメッセージを送ったけど、彼の返事はすぐに返ってきませんでした。
きっと忙しいのでしょう、と思って待っている中、ようやく彼から電話が掛かってきたときは、胸が弾みました。
でも、すぐに出てあげません。わたしだって散々待ったんですから、御大地くんのことだって少し待たせてもいい……ですよね?
――ああ、でも早く出たい。
わたしはスマホを手に持ったまま、しばらく着信画面を見つめていました。
我ながら、何をやっているのだろうと思います。
10コール目。いい加減彼に電話を切られてしまいそうなので、わたしはやっとその電話を取りました。
「……遅いです」
電話を出て、思わず第一声が不満になってしまいました。
「……ごめん。ちょっとスマホ見れてなくてさ」
少し困ったようなトーンで返す御大地くん。
あまり困らせすぎてもいけないと思ったわたしは、その後もちょっとしたやり取りを交わして、御大地くんとお話をしました。
今日は放課後いっしょにいれなくて寂しかったですが……こうしてスマホを通じて言葉を交わせて、胸をくすぐるようなうれしさで心が満たされていました。
このまま、幸せな時間のまま終わるはずだったのに。
――『あ、ここにいたんだ。守、お風呂ありがとうね!』
最後、電話越しにいきなり飛び込んできたあの声。
あれは間違いありません――御大地くんのお姉さんである、円樹円先輩です。
そして、御大地くんが本当に『恋』している相手……。
なんで、彼女がここにいるんですか?
だって御大地くん、自分の家にいるって話されていたじゃないですか。
つまりそれって、今まさに――御大地くんと円樹先輩は、今同じ屋根の下で過ごしている、ということではないですか。
(『お泊まりデート』……って、ことですか)
プツン、とわたしの中で何かが切れる音がしました。
気づけば、わたしは自分の意識の外で電話を切っていて、ベッドに潜り込んでいました。
――わかっていました。御大地くんの心は円樹先輩に向いていることなんて。
それでも、わたしはそんな御大地くんと付き合うと決めたんです。
そしていつか、御大地くんを振り向かせてみせるって、決意したんです。
――それなのに。
(わたし……こんなにも動揺してる)
悲しい。怖い。辛い。痛い。苦しい。
どうして御大地くんは円樹先輩といっしょにいるの?
だって御大地くん、あんなにも話されていたじゃないですか。円樹先輩と――姉とは、決して付き合うわけにはいかないという覚悟を。
アレは、嘘だったんですか?
わたし……わたしは……。
「あなたの覚悟を知れたから、あなたと向き合えていたのに……」
――ダメだ、わたし。
しばらく、御大地くんとは話せないかもしれません。




