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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章一節:揺らぎ消えゆく『御大地守』
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初めての朝

(まもる)、放課後はさ、二人でカラオケにでも行かない?』


 ――カラオケって……円樹(つぶらき)先輩、好きですね。


『守、次の休みはさ、ちょっと遠くまでデートしようよ。電車に乗ってさ、いつもは行かないようなとこ』


 ――急ですね、何かネットかなんかで、デートスポットでも見てたんですか。


『守、手を繋いで歩くのってさ……やっぱりなんか恋人同士って感じして、いいよね』


 ――そうですね。……あれ、恋人……?


『……守。守のおうちでデートなんて、初めてだよね。その……今ってさ、アタシたちだけ、なんだね』


 ――……僕ら、だけ……。


『……守。今だけ……はさ、アタシのこと、(まどか)って、呼んでよ』


 ――うん、まど……。


『――御大地(みおおじ)くん、そろそろ起きる時間じゃないですか』




 ◇




「――っ!」


 目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。

 それも当然、か。昨日、自分の部屋で眠ったんだから。


 ……それにしても、なんだかいけない夢を見たような気がする……。


 ぐーっと背を伸ばし、僕はベッドから降りようとしたときだった。

 身体を動かそうとして、温かい何かに触れ、気づく。


 僕の隣では、姉がスヤスヤと寝息を立てて眠っていたのだ。


「わぁっ!?」


 素っ頓狂な声を上げ、急いで姉から距離を取る僕。

 その声で目を覚ましたか、姉はゆっくりと目を開け、目を擦りながら身体を起こし、僕を見つめた。


 何事もないかのように微笑むと、姉は言う。


「おはよう、守」

「お……おはよう、ございます」


 ……あれ? 僕らって昨晩、それぞれの部屋で眠らなかったっけ……?


 それなのに、なぜ姉は僕の隣に?


 姉は僕の戸惑う顔を見てか、クスリと笑ってからこう話す。


「昨日、全然寝つけなくてさー。だから守の隣、こっそり侵入しちゃった」


 ……し、侵入って……。


「僕、変なことしてませんよね?」

「なあに、変なことって?」

「いや、その……」


 言葉を濁す僕を見てか、姉はこう言う。


「なんにもしてないよ。守、ぐっすり眠ってたから。アタシはただその隣で寝てただけ。守の隣来たら、なんだか安心してすぐ寝つけちゃった」

「そ……そうですか?」

「うん。やっぱり守は、アタシの弟なのかもね」

「……先輩」


 口をついてしまったのは、『お姉ちゃん』などではなかった。


「……守、()()()()()、でしょ?」


 そういえば、そうだったな。


「うん、お姉ちゃん」


 姉は「よし」というとカーテンを勢いよく開けた。朝日が一気に射し込んできて、その眩しさに目を細める。


 姉は朝日をバッグにこちらを見て、元気よくこう言い放つ。


「さて! 早速朝食作らないとね! 守、キッチン借りるよ!」

「うん、僕もすぐ行くよ」


 姉は笑って、そのまま部屋を出ていった。


(……円樹先輩は、僕のことどう思っているんだろうか)


 ふと、そんなことが頭に過ぎる。

 でも、こうしてひと晩過ごしてみて、僕が感じたことはひとつだけだ。


(初めから、こうして家族として過ごせていたら、きっと幸せだっただろうな)


 だけれど、そのことに後悔したり、親を恨むなんてことはない。


 そんなことをしたって、なんの解決にもならないのだから。


 ――さて、僕も準備して姉のところへ行かないと。


 僕は着替えて部屋を出た。いつもなら今日みたいな休日は、父さんまだ寝ていると思うけれど、せっかく姉が来ているわけだし、そうだったら起こさないと。


 僕は父さんの部屋の前まで来て、扉を開けようとしたが、そのとき扉越しに声が聞こえ、僕はその手を止めた。


「……大丈夫だよ。何を心配してるんだ?」


 ――父さん、起きているみたいだ。誰かと……話してる?


「二人とも姉弟らしく、仲良く過ごしてたよ。……え? そりゃ、ちゃんと見てたって。酔っ払って寝てたなんて……別に……」


 ――話し相手は誰だろう……この感じ、母さんか?


「とにかく、夜も何もなかった。それは本当さ。二人とも、別々の部屋で眠ってたよ」


 ――父さん、夜中様子を見に来てたのか……。父さんが見に来たときには、姉はまだ自分の部屋にいたんだな。


「……大丈夫。二人には何もないよ。いくら離れてたとはいえ、姉弟で付き合うなんて……ないだろう」


 ……。


「……だからさ、今度は一度、家族みんなで――って、もう切られてたか」


 ……。

 ……そりゃあそうだ。父さんだって、そう思うよな。


 僕らは、やっぱり姉弟なんだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 だいぶ、この事実を受け入れることができたような気がする。


 タッタッ……と扉越しに物音がし、僕は慌てて扉から離れた。


 バタン、と背後で扉の開く音。


 僕は振り向いて、何も知らぬ顔で「おはよう、珍しく早起きだね」といつもの調子で言った。


「……ま、今日は(まどか)ちゃん来てるもんな」


 と、父さんは作ったような笑みを浮かべた。


「お姉ちゃん、もう朝ごはん作ってくれてるよ。父さんもさっさと準備してきて」

「ああ、わかったよ」


 僕は階段を降り、キッチンへと向かう。


 近くへ来ると、初めて感じるような、香ばしい匂いが漂っていた。

 柄にもなく、胸が弾む。匂いに導かれるようにキッチンへ行くと、姉は目玉焼きを作っている最中だった。


「あ、守、やっと来た」


 こちらに気づき、笑いかけてくれる姉。


 朝からこんなに幸せな気分になったのは、初めてだった。

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