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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章一節:揺らぎ消えゆく『御大地守』
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姉弟になっていく(5)

(まもる)、まだ怒ってる?」


 風呂から上がるや、早々に姉に小言を吐かれた。


 ……ん、待って。()()()()()()()()


「――ちょっ! 何ナチュラルに覗きにきてるんですか!!」


 僕はすぐさま脱衣所から姉を追い出し、扉を閉めた。


 そう、風呂から上がったばかりの僕は、タオル一枚のあられもない姿だったのだ。

 それなのに、平然とこの姉は……!


「アハハっ! そんないいじゃない、アタシ、お姉ちゃんなんだし?」

「……今日はよくその言葉、使いますね……!」

「まあね。……あ、あと守、敬語になってるからね」


 扉越しの会話で互いの姿は見えないが、姉はからかい気味に笑っているであろうことは、容易に想像できた。


 僕はやれやれとため息をつきながら、着替えへと手を伸ばす。


「……。……あのさ守、さっきはごめんね」


 少し間を空けてから、姉はさきほどとは打って変わって、萎れたトーンでそう言ってきた。


「……別に、お姉ちゃんが謝ることじゃありませ……謝ることじゃない」

「でもなんか、守、不機嫌かも」

「それは、その……」

「守」


 名前を呼ばれ、僕は改めて意識を姉へ向ける。


「姉弟喧嘩って、きっとこんな感じなのかな」

「……なんですか、急に」

「お互い好きなはずなのに、ちょっとしたことで、今みたいに気持ちがすれ違っちゃうの」

「……まあ、そうなんじゃないですか」


 ちょうどそこでパジャマに着替え終え、僕は扉に手を掛けた。


「じゃあアタシたち、ちゃんと姉弟に近づけてるってわけだね」


 ――しかし、姉の発言を聞いて、僕の手は止まった。


「……守?」


 姉に呼ばれ、僕は扉を開けた。


 再び対面する僕ら。

 姉は、ほんのりと顔が赤く色づいていた。


「……姉弟同士の顔ですかね、これ」


 僕が言うと、姉は目を伏せ、「……どうかなぁ」と、恥ずかしそうに答えた。


「……守。守はさ、自分の『恋』に、答えは出せそう?」

「……円樹(つぶらき)先輩はどうなんですか」

「アタシは散々言ってるじゃない、守が好きって。それは家族としてとかじゃ、絶対ない。アタシは――」

「すみません、聞き返すような真似をして」


 僕が遮ると同時に、姉は固く口を結った。


「……もう遅いし、寝ようか」


 そう提案すると、姉はゆっくりと頷いた。


 僕らは静かに階段を登り、各々の部屋へと分かれて入る。


 そしてそのまま、僕は背を向けたまま扉を閉めようとしたのだが――。


「守」


 扉を閉めようとするその手を姉に掴まれ、止まる。


「……」


 無言のまま見つめてくる姉。その求めるような瞳は、僕の心を大きく揺らした。


 僕らはただ二人、しばらくその場で見つめあった。

 互いの小さな呼吸音と、触れた手から伝わる熱だけが、今の僕らを繋いでいた。


 ……。

 …………ダメだ、このままじゃ……。


 そのとき、姉はハッとし、廊下の先を見た。瞬間、僕の耳にも階段を上がってくる足音が耳に届いた――父さんだ。


 姉は寂しげに微笑み、その手を離し、自分の部屋へと戻って行った。


 扉を閉める直前、「おやすみなさい」と残して。


「う〜……」


 そこへ、お酒も残っていて気分でも悪いのだろう父さんが姿を見せた。父さんは僕に気づくと、「んあ、守、何してんだ?」と呑気に聞いてきた。


「何って、これから寝るところだよ。父さんももう静かにしててよね、お姉ちゃん、もう寝てるんだから」


 僕がそう言うと、父さんは「そうだった、そうだった……(まどか)ちゃん、来てるもんな」と言って、自分の部屋へと戻っていった。


 父さんの姿が完全に見えなくなってから、僕は再び向かいの姉の部屋へと視線を向ける。


 もう父さんは行ったよと、扉をノックしようとして――僕は手を引いた。


 何を当然のように姉に話しかけようとしているのだろう。もう一度話す必要など、僕にはないのだ。


 これ以上の関係は、姉弟らしくない。


「……おやすみなさい」


 僕は扉越しにそう言って、自分の部屋に戻った。

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