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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章一節:揺らぎ消えゆく『御大地守』
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姉弟になっていく(4)

 父さんはソファに横になり、すっかりいびきを立てて眠っている。


 僕は寝室から持ってきた毛布を父さんに掛けてから、片づけをしてくれていた姉を見た。


 姉はゴミをまとめ終え、皿も洗い終えていた。


「おかえり(まもる)。こっちは片づけ完了してるよ」

「ありがとう。……ごめん、いろいろやらせちゃって」

「なんで謝るのよ。家族なんだから、アタシが家のことやるのだって、当然でしょ?」


 姉はそう話し、ニッコリと笑った。

 その純粋な気持ちをうれしく思うとともに、寂しさも感じてしまって……なんだか複雑な気分だ。


 一方、そんな僕の気持ちも露知らず、姉はぐーっと背伸びをしてから、こちらを見てきて言う。


「ひと段落ついたことだし、いっしょにお風呂でも入る?」

「……なっ! 何バカなこと言ってるんですか!」


「あ、敬語に戻ってるー」と、姉はケラケラと笑った。


「もう、ちょっとした冗談じゃない。顔真っ赤だよ、守」

「……そんな冗談いうなんて、嫌いだ」


 僕は言いつつ、姉を睨みつけた。


「ごめんってば。……って、なんか、こうして話してるのも久々だよね」


 不意に言われ、僕は「そうですね」と返した。


 学祭の日から、僕らはあんまり話すことはなくなってしまった。その理由はハッキリしている――僕が瑠璃(るり)を言い訳にし、避けていたから。


 瑠璃を利用し、姉へ向ける『恋』をなんとかしてしまいたかった。

 姉が僕へ向ける『恋』も、諦めてほしかった。


 でも、現実はそう簡単に上手くいかなくて。


「……アタシ、これからもずっと守と、こうして話していたいな」


 微笑みながらも、どこか寂しげに話すお姉ちゃん。


「守も、そう思うでしょ?」


 危うく頷きそうになって――ただ目を伏せた。


「……深く考えすぎだよ」


 お姉ちゃんは悲しげに笑い、お風呂先にいただくね、と言い残し、部屋を出ていった。


 部屋に一人取り残された僕は、椅子に座り、テーブルの上に置きっぱなしになっていた自分のスマホを何気なく手に取った。


 中を見てみると、メッセージアプリには一件の通知があった。


 もしや相手は……と思い確認すると、思ったとおり、瑠璃(るり)からだった。


 メッセージには、こう書かれていた。


『電話、してもいいですか?』


 僕は着時間を確認し、さらに現在の時刻へと目を移した――もう、メッセージが来てから30分も経ってしまっている。


 僕は自室に移動し、すぐに電話を掛け直した。


「……ダメか」


 10コール目が鳴るも、出る気配が一向に来ないため、僕は諦めて電話を切ろうとしたときだった。画面が通話中に切り替わり、僕は電話を切ろうとした手を止めた。


 慌てて耳元にスマホを近づけ、僕は「もしもし」と声を掛けると、数秒間を空けてから、「……遅いです」と、いかにも不機嫌な瑠璃の声が。


「……ごめん。ちょっとスマホ見れてなくてさ」

「残念です。せっかく勇気を出してメッセージを送ったっていうのに」

「……本当、ごめん」

「……別に構いませんよ。見れないときだって、ありますもんね」


 瑠璃はすぐに許してくれた。瑠璃のそういうところに好感を持つと同時に、少し寂しさもあった。


「……で、何か用か?」

「好きな人の声を聞きたかった。それだけですよ」


 真っ直ぐにそう伝えられ、少し恥ずかしくなる僕。


「……瑠璃は今、家?」

「ええ。家の用事も済んで、ひと段落ってところですね」

「そっか。お疲れ様」

「いえいえ。御大地(みおおじ)くんは、何をされてるんですか?」

「僕はその……さっき、夕飯を食べ終わったところだよ」


 円樹(つぶらき)先輩が家に来ている、なんて、素直に答えられなかった。

 別に伝えても構わないような気がするが、そんなことをすれば、瑠璃に飽きられてしまうような気がして。


 そのせいで僕の元から去ってしまうのは、嫌だ。


(……『嫌だ』?)


 なんで、嫌なのだろう。


「――そうだったんですか。わたしのところも、さきほど夕飯を済ませたところです。今日は兄さんが、オムライスを作ってくれて」

「そうなんだ。料理得意なんだ、お兄さん」

「ええ。親代わりによくしてくれる人ですから……。でも、わたしは正直、今は御大地くんの作る何かが食べたいです」

「……僕?」

「ええ。オムライスでもいい、焼きそばでもいい、お味噌汁でも、なんでも」

「……僕、料理の腕はまあまあだぞ?」

「それでも。わたしは、御大地くんの手作りがほしいです」


 瑠璃は笑って、続ける。


「いつか御大地くんのおうちにも、お邪魔してみた――」

「あ、ここにいたんだ。守、お風呂ありがとうね!」


 刹那、僕の背筋は凍った。

 姉の言葉を聞いて、そうなったのは初めてだった。


 僕はゆっくりと振り返り、姉を見る。


「ごめん。電話中だった? ……あ、もしかして」


 もしかして、と今更気づいたって遅い。


 僕は咄嗟に瑠璃に言い訳しようと思ったけれど、すでに電話は切られてしまっていた。


「…………」


 次に合わせる顔が……ない。


「……ご、ごめん。守、その……瑠璃ちゃんと電話してるの、知らなくて」

「……いえ、僕も言いませんでしたから」


 僕はスマホをベッドに上に投げ置き、「次、僕がお風呂行きますね」とお姉ちゃんに言い残して部屋を出ていった。


 心の中がグシャグシャに掻き回されているみたいで、落ち着かない。


(今ので、瑠璃に嫌われたらどうしよう)


 なんで僕は、そんなふうに思ってしまうんだろう。

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