姉弟になっていく(3)
「いや〜しかし、まさか二人が同じ高校だったとは!」
父さんはそう言って、またビールを一気に飲み干した。
現在は夕食時、僕らは出前で取った料理をテーブルに並べ、家族三人水入らずの時間を過ごしていた。
本当ならここに、母さんもいれば完璧だったんだろうけれど……。
「――いやね! 全然母さんと示し合わせたわけじゃあないのよ! 本当に偶然なのよ!」
父さんはすっかり酔っ払って、さっきから一人で一方的に話しつづけている。父さんの悪いクセが、娘の前でもこれでもかとばかりに発揮されていた。
「お父さん、すごく酔っ払ってるね……」
目の前の父さんに困惑しきっている姉は、隣の僕にそっと耳打ちした。
「酒が入るといつもこうなんだ、悪いな」
僕はため息をついてから、「父さん、いい加減少しは黙ったら?」と窘めると、父さんは肩をガックリと落として、「……ごめんな」とようやく話が落ち着いた。
父さんはビールをコップに注ぎながら、「それにしても」と、こう続ける。
「母さんから連絡がきたときはビックリしたよ。本当、今まで全然なかったからさ」
「母さんは、ここには来なかったんだね」
僕は何気なくそう返すと、父さんはバツが悪そうな顔を浮かべた。
「……ごめんな。父さん、母さんには本気で嫌われてるから……。あのとき、仕事ばっかりしてたせいで、さ……」
その後なにならごにょごにょと呟いており、正確に聞き取ることはできなかったが、わざわざ踏み込んで詮索しなくてもいいだろう。
お姉ちゃんも同じ意見なようで、ただ困ったように肩を竦めていた。
「――ま、とにかく姉弟はこうして再会して仲良くやってるようでよかった!」
ひととおり愚痴を吐き終わった父さんは明るい口調でそう言い、僕らを一瞥した。
「ま、こんな両親だけどさ、姉弟二人はこれからも仲良くやっていってくれよ」
父さんは照れくさそうに頭を掻きながらそう話して、またビールを飲み干していく。
――姉弟仲良く、ね。
父さんは、僕らの間に隠されている『恋』のことなど、まったく知らないだろう。
もし知っていたとしたら、ひたすら軽蔑するか、諦めさせようとするか――少なくとも、喜んで祝福するはずがない。
僕自身だって、そうなのだから。
僕は横目で姉を見た。
姉は、一糸乱れぬ笑顔を父さんへ向けている。
「――はい。これからも、姉弟仲良くしていきたいなって思います」
姉が――円樹先輩がそう答えたとき、僕は胸が押し潰されそうだった。
その当然の答えが。
本来僕が望んでいた答えが。
こんなにも……こんなにも、嫌悪感を抱くなんて。
(円樹先輩のほうが……ちゃんと『姉』を演じられてる、な……)
もしかして、もう僕に『恋』など抱いていないのだろうか。
――『だからね、今日は全力でぶつかっていくつもりだから――よろしくね』
最初に話していたあの言葉は、ただの建前だったのだろうか。
否。そもそも、全力で『姉』になっていくという宣言だったのか。
「……ね、守」
不意に円――いや、姉からそう言われ、僕は我に返った。
「え、ああ……うん、そうだね、お姉ちゃん」
かなりぎこちない言い方になってしまったけれど、酔っ払っている父さんは訝しむことなく、むしろうつらうつらとしていて、今にもその場で眠ってしまいそうだった。
「……まったく父さんは……。お姉ちゃんは気にせず、もうお風呂に入ってきていいですよ。ここは僕が片づけとくので」
そう言って僕は席を立つと、お姉ちゃんに手を握られた。
突然のことに戸惑う僕に、お姉ちゃんは優しく微笑んでこう言う。
「ダーメ。いっしょに片づけよ」
たったそれだけの仕草が、僕にとってはたまらなくうれしくて。
「……はい」
――同時に、瑠璃の顔が脳裏に浮かんでしまって、自分のことがとても情けなくなった。




