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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章一節:揺らぎ消えゆく『御大地守』
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姉弟になっていく(3)

「いや〜しかし、まさか二人が同じ高校だったとは!」


 父さんはそう言って、またビールを一気に飲み干した。


 現在は夕食時、僕らは出前で取った料理をテーブルに並べ、家族三人水入らずの時間を過ごしていた。


 本当ならここに、母さんもいれば完璧だったんだろうけれど……。


「――いやね! 全然母さんと示し合わせたわけじゃあないのよ! 本当に偶然なのよ!」


 父さんはすっかり酔っ払って、さっきから一人で一方的に話しつづけている。父さんの悪いクセが、娘の前でもこれでもかとばかりに発揮されていた。


「お父さん、すごく酔っ払ってるね……」


 目の前の父さんに困惑しきっている姉は、隣の僕にそっと耳打ちした。


「酒が入るといつもこうなんだ、悪いな」


 僕はため息をついてから、「父さん、いい加減少しは黙ったら?」と窘めると、父さんは肩をガックリと落として、「……ごめんな」とようやく話が落ち着いた。


 父さんはビールをコップに注ぎながら、「それにしても」と、こう続ける。


「母さんから連絡がきたときはビックリしたよ。本当、今まで全然なかったからさ」

「母さんは、ここには来なかったんだね」


 僕は何気なくそう返すと、父さんはバツが悪そうな顔を浮かべた。


「……ごめんな。父さん、母さんには本気で嫌われてるから……。あのとき、仕事ばっかりしてたせいで、さ……」


 その後なにならごにょごにょと呟いており、正確に聞き取ることはできなかったが、わざわざ踏み込んで詮索しなくてもいいだろう。


 お姉ちゃんも同じ意見なようで、ただ困ったように肩を竦めていた。


「――ま、とにかく姉弟はこうして再会して仲良くやってるようでよかった!」


 ひととおり愚痴を吐き終わった父さんは明るい口調でそう言い、僕らを一瞥した。


「ま、こんな両親だけどさ、姉弟二人はこれからも仲良くやっていってくれよ」


 父さんは照れくさそうに頭を掻きながらそう話して、またビールを飲み干していく。


 ――姉弟仲良く、ね。


 父さんは、僕らの間に隠されている『(きもち)』のことなど、まったく知らないだろう。

 もし知っていたとしたら、ひたすら軽蔑するか、諦めさせようとするか――少なくとも、喜んで祝福するはずがない。


 僕自身だって、そうなのだから。


 僕は横目で姉を見た。

 姉は、一糸乱れぬ笑顔を父さんへ向けている。


「――はい。これからも、姉弟仲良くしていきたいなって思います」


 姉が――円樹(つぶらき)先輩がそう答えたとき、僕は胸が押し潰されそうだった。


 その当然の答えが。

 本来僕が望んでいた答えが。


 こんなにも……こんなにも、嫌悪感を抱くなんて。


(円樹先輩のほうが……ちゃんと『姉』を演じられてる、な……)


 もしかして、もう僕に『恋』など抱いていないのだろうか。


 ――『だからね、今日は全力でぶつかっていくつもりだから――よろしくね』


 最初に話していたあの言葉は、ただの建前だったのだろうか。


 否。そもそも、全力で『姉』になっていくという宣言だったのか。


「……ね、守」


 不意に(つぶら)――いや、姉からそう言われ、僕は我に返った。


「え、ああ……うん、そうだね、お姉ちゃん」


 かなりぎこちない言い方になってしまったけれど、酔っ払っている父さんは訝しむことなく、むしろうつらうつらとしていて、今にもその場で眠ってしまいそうだった。


「……まったく父さんは……。お姉ちゃんは気にせず、もうお風呂に入ってきていいですよ。ここは僕が片づけとくので」


 そう言って僕は席を立つと、お姉ちゃんに手を握られた。

 突然のことに戸惑う僕に、お姉ちゃんは優しく微笑んでこう言う。


「ダーメ。いっしょに片づけよ」


 たったそれだけの仕草が、僕にとってはたまらなくうれしくて。


「……はい」


 ――同時に、瑠璃(るり)の顔が脳裏に浮かんでしまって、自分のことがとても情けなくなった。

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