姉弟になっていく(2)
リビングのソファにて、僕と円樹先輩――いや、お姉ちゃんはくつろぎながら、父さんの帰りを待っていた。
「……父さん、今日は出前でも取ってみんなで食べようって。好きなの頼んでていいらしいから、僕らで先に頼んでいましょうか」
「えー。アタシ、全然料理作るのに」
「せっかく来てくれたお客さんですから。のんびりしてて」
「……お客さんっていうか、一応、家族なんだけどな……でも、好きなの頼んでいいっていうなら、思いっきり選んじゃお」
僕はタブレットを持ってきて、出前アプリを立ち上げた。支払い先はすでに父さんのカードが登録されているので、特に気にせず好きな食事を頼むことができる――なんていうと、父さん、たちまち冷や汗を流すだろうな。
二人で好きなメニューを選びながら、ふと僕は気になったことを持ちかけてみた。
「つぶ……いえ、お姉ちゃんは、緊張とか、してないの?」
「……ん? してるよ、めちゃくちゃしてる。だって初めて会うんだもん、お父さんに。……まあ、小さいころはいっしょに過ごしてるはずなんだけどさ、もう覚えてないし」
「そっか」
徐々に口調にも慣れつつ、続けてこう聞く。
「なんで急に、父さんに会おうって思ったの?」
「……」
「その……僕だったら、親に……母さんに会いたいとは、正直思ってない。僕はただ……」
ただ、円樹円のことが好きで、ずっといっしょにいたいと思っているだけだ。それは、今も昔も変わらない。
正直、今は変わらなくてはならないのだけれど。
「アタシ、守のことが……好きだから」
突然そう言われ、顔が熱くなる僕。
「守とは一度、ちゃんとした関係になりたいと思ったの」
「『ちゃんとした』……?」
「そうすれば守も、もう迷わずに済むかなって」
円樹先輩の意図が、僕にはよくわからなかった。
「それとね、もしかしたら、もう二度とお父さんの顔、見れなくなるかもしれないって思ったから。一度は見ておきたいものでしょ、お父さんって」
「そういうものなのか……?」
「少なくとも、アタシはそっち派」
そう言って、円樹先輩は何かを隠すように微笑んだ。
僕はそれがどうにも気になったが、その瞬間、玄関の戸が開く音が聞こえた。
どうやら、父さんが帰ってきたらしい。
途端に緊張の面持ちを浮かべたお姉ちゃん。ソファから立ち上がり、扉のほうに身体を向け直立している。
なんだか釣られて僕も緊張してきたとき、リビングの扉は開かれた。
「ただいまー! えっと、どうも父さんで……す……」
陽気に登場してきた父さんだったが、姉の顔を見るなり、父さんは一瞬にして瞳が潤んだのがわかった。
目を細め、懐かしむような父さんの態度に、ああ、本当に今僕の隣にいる女性は、やっぱり父さんの娘であり、僕の姉なのだと実感した。
「……久しぶり。すごい成長したな、円」
「お久しぶりです。……アタシ的には初めましてな気持ちに近いんですけれど……本日はひと晩お世話になります」
父さんは「ああ、ゆっくりしていってね」と言ってから、僕とお姉ちゃんをそれぞれ見つめて、また目を細めた。
「離れていても、やっぱり二人は姉弟だな、こうしてみると顔、そっくりだ」
隣でお姉ちゃんはうれしそうに笑っていたけれど、どうも僕は、まだ素直に心の底から喜ぶことはできなかった。




