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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章一節:揺らぎ消えゆく『御大地守』
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『弟』を演じ切る覚悟

「え……えぇっ!?」


 円樹(つぶらき)先輩の答えを聞いた瞬間、僕は驚きの声を上げた。


 ――泊まりのことなんて、もちろん聞いていない。


「ほら、明日は土曜日だし、一泊するには持ってこいの日だよね」

「あ、あの……僕、初耳なんですけれど!」


 僕はそう言うと、円樹先輩は目を丸くした。


「えー、嘘! アタシのお母さん、(まもる)のお父さんに伝えとくって言ってたけどなぁ」

「…………」


 ――父さんに……? 僕はなんにも聞かされてないぞ。


 だが、父さんのことだ……伝えるのを忘れていたというのは、十分考えられる話だ。


「あのね、アタシ……実はこのあいだ、お母さんに相談したの」

「……相談?」

「お父さんの顔を見てみたい……って」


 円樹先輩は続けて、こう話す。


「それでね、守とも……弟とも一日家で過ごしてみたいって話したんだ。家族と過ごしたいって、そう話したの」

「そう……だったんですか」

「うん。お母さん、最初はアタシのこと疑ってたけれど……」


 僕はそこで「疑っていた?」と、引っかかりを口にすると、円樹先輩はなんでもないというふうに首を横に振ってから、再び話を続けた。


「アタシが『ただ弟とお父さんと……家族と、過ごしてみたい』って話したら、渋々だけれど納得してくれた。お母さん、あんまりお父さんと話したくなかったみたいだったけれど……アタシが頼み込んだら、伝えてくれたの。……それでね、お泊まりしておいでって話になったんだよ!」


 まさか円樹先輩のほうでそんな話があったなんて……。確かに円樹先輩、父さんのことはちょっと気になるって、前にも話していたけれど。


「なんか……急ですね」

「思い立ったらすぐ行動! ……が、アタシのモットーだから」


 それは初めて聞いたな……と思っていると、ちょうど僕の家に辿り着いていた――二人にしては少し広い一軒家の前に。


「わ! ここが守の家だね! 広いねー」


 円樹先輩は家を見上げて、もう楽しそうだ。


「もうお父さん、いるの?」

「いや、いつもどおりならまだ仕事……だから、いないと思います」

「そうなんだ」


 僕は玄関の前に立ち、扉の鍵を開けた。そこで一度振り返り、円樹先輩を一瞥する。


 流れに任せてここまで来ているけれど……本当に円樹先輩、僕の家に泊まる気なんだろうか。


「あの、円樹先輩……本気で(ウチ)に泊まる気、ですか?」

「そりゃあもちろん! アポは取ってるよ!」


 僕のアポは取れていないんだが……という小言はぐっと飲み込み、代わりにこう言う。


「ほら、僕一応……彼女がいる身、じゃないですか。それなのに女の人を泊めるなんて……ましてや、『学園一の美少女』である円樹先輩を……」


「何言ってるの! それよりもまず、アタシは守のお姉ちゃんじゃない! いっしょに家で過ごして何か変なことでもある?」


「いや……まあ……ないといえばないんですけれど、ほら、僕らってちょっと特殊というか……」


「聞こえないよ! アタシは守のお姉ちゃん! 守はアタシの弟! 問題なしじゃない!」


 ぐぬぬ……無理矢理丸め込まれてしまった。

 本当、都合のいいときだけ『お姉ちゃん』になるよな……。


「あ。言っとくけれど守、家にいる間は、全然アタシに敬語なんて使わなくていいからね」

「……え?」

「だってアタシたち姉弟だから! 姉弟同士なのに先輩呼びとか敬語とか……違和感? あるでしょ。だから、アタシのことは『(まどか)』って呼んで」

「……『お姉ちゃん』、とかじゃなくて?」


 僕がそう言うと、ギロリと円樹先輩から睨みつけられてしまった。……どうやら、下の名前で呼ばれることがご所望のようだ。


(やれやれ……めんどうなことになった)


 父さんが初めから僕に伝えてくれれば……こんなことにはならなかったのに。


 ここまで来てしまったらしかたない、と覚悟を決め、戸を開けた。


「じゃあどうぞ、上がってください」


 円樹先輩はパァっと顔を明るくさせ、ついに自宅へと上がった。


 玄関で靴を脱ぎ、きれいに揃えて家へと上がっていく円樹先輩。礼儀正しいその所作に、結局見蕩れてしまう僕。


「男所帯の家って、もっと荒れ狂ってるイメージあったけれど、守の家はすごくきれいだね」


 円樹先輩は家の中を見回しながらそう言った。


「これでも掃除はしていますから。……父さんの部屋はアレですけれど」


 僕は適当に答えながら、玄関の戸を閉め家へと上がった。


「へー。お父さんって掃除できないんだ」


 円樹先輩は言って、クルリと回って僕に向き直った。


「あのさ守、前に瑠璃(るり)ちゃん、『どうか全力でかかってきてください』って話してたじゃん?」


 その言葉は、確かに僕も聞いていた――あの日、図書室で瑠璃のお兄さんもいっしょにいたタイミングで、だ。


 それがどうかしたのかと思っていると、円樹先輩は言う。


「だからね、今日は全力でぶつかっていくつもりだから――よろしくね」


 イタズラじみた笑顔を浮かべる円樹先輩。この瞬間、彼女の狙いは家族に会うためではないと、ハッキリ確信した。


 彼女は――円樹先輩は、自分自身の『恋』のためにここに来ている。


 僕を完全に自分のほうへ振り向かせてやろうという気概が、垣間見えたのだ。


(ま……マズイな)


 僕は、円樹先輩の想いに応えるわけにはいかない。

 いくら円樹先輩の『恋』が本気だとしても、受け取るわけにはいかない。本気だからこそ、拒絶しなければならないのだ。


(……だけれど)


 このあと一日円樹先輩と過ごして……果たして僕は、ちゃんと理性を保てるだろうか。


(……何考えてるんだ、僕にはもう瑠璃がいる)


 ――僕は絶対に、『弟』を演じ切らなければならない。

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