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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第四章一節:揺らぎ消えゆく『御大地守』
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姉と付き合えない理由

「ふと思ったんですけど」


 昼休み。僕はいつものように瑠璃(るり)と教室で食事をとっていると、瑠璃はふとこんなことを言った。


御大地(みおおじ)くん、円樹(つぶらき)先輩とは、最近どうなんですか?」


 僕はなぜ急にそんなことを聞いてくるのか、意図が読めず怪訝そうにしていると、瑠璃は続けてこう話す。


「ほら、前までは円樹先輩とお昼、過ごしてたみたいじゃないですか。でも最近は、ずっとわたしといっしょにいますし」

「僕といるのが嫌なのか?」

「嫌なわけないです! ……ただ、御大地くんには無理、してほしくないんですよ」


 瑠璃は目を伏せ、その瞳は悲しげな色に変わる。


「……御大地くんは、円樹先輩への想いを忘れるためにわたしといるだけです。それは……わたし自身もわかっています。わたしはそれでもあなたといれるなら、それでいいと思っていますけど、でも、御大地くん自身はどうなんですか。辛く……ないんですか?」


「……ずいぶんお人好しだな」


「いいえ。わたし、一応あなたの彼女ですから」


 そう言って微笑む瑠璃は、少し無理しているように思えた。


「……円樹先輩と付き合えると思っているなら、僕は初めから円樹先輩の想いを受け入れていたと思う。でも、そんなことできないから。……だから」

「――告白してきたわたしの想いを受け入れた?」

「……ああ」


「最低だよな、僕」と言うと、「はい、そうですね」と、真っ直ぐに返事がきた。……うん、その気遣いのなさが、むしろ心地いい。


「御大地くん。改めて聞きたいんですけど、なんで頑なに、円樹先輩と付き合えないと思ってるんですか」

「……そりゃあ、円樹先輩と僕は、血の繋がった姉弟だから……」

「姉弟だと、やっぱりダメなんですか?」


 さらなる問いかけに、戸惑う。どうして、今になってまたそんなことを言ってくるのか。


「……ダメだろう。だって瑠璃も、もしお兄さんと付き合うってなったら……」

「付き合うくらいなら、問題はなさそうですけど」

「大アリだろ。だって付き合うってことは、ほら、やっぱり……」


 僕が言葉を濁していると、瑠璃は不意に「ごめんなさい」と口をついた。


「……変なこと聞いて。当たり前ですよね、兄妹が交わったら」


 ハッキリと言われ、なんだか急に羞恥心が身を包んだ。


「でも、それ自体は問題あるのでしょうか。倫理的にアウト……っていうのもあるかもしれませんけど、他人にバレなきゃ、別に問題ない話に思えませんか? 本人たちが了承しているのなら……」


 ――確かにそれはそうだ。


 だが、()()()()()()()()()()()()、という問題がある。


 きっと愛し合ううち、次の欲求が生まれてくるはずだ。例えば、そう――。


「……そうかもしれない。でも、この先何十年といっしょにいることを考えたら……結婚とか、そういうのもできないし。それに、子供がほしいってなったら――」


 なぜ姉弟は結ばれてはならないのか。それは禁忌とされていて、倫理的にいけないことだから――ではなぜ、それがいけないこととなったのか。


 一説によれば、遺伝的に近い者同士で子供を作ると、先天的リスクが高くなることがあるそうだ。だからこそ、家族内で()()()()()()を行うことは禁じられているらしい。


 だから姉を思えばこそ、僕は姉を拒絶しなければならない。自分の想いも、姉の想いも関係ない。これは、円樹先輩の――()()()()()()()()だから。


「……御大地くん、円樹先輩のこと、そこまで考えてるんですね」


 瑠璃に言われ、カッと顔が熱くなるのがわかった。たぶん今の僕の顔は赤くなってしまっているに違いない。


「いや、その別に僕は……!」

「何を否定するんですか。素敵じゃないですか、そんな先まで思いやれるのって」


 瑠璃は優しく笑ってくれた。


(こんなにいい人なのに、僕はまだ、円樹先輩が好きなままだ)


 距離を開けていたら、『恋』のほとぼりも冷めるかも思っていたんだけれど。


「……お話してくれてありがとうございます。これでようやく、ちゃんと御大地くんのことわかった気がします。中途半端に円樹先輩のことが好きとか言ってたら、ムカつくなって思ってたんですけど、それならひと安心です」


「ひと安心って……瑠璃はその、僕がこんなんでいいのか?」


「はい。わたし、十年も前の初恋をずっと引きずるような、重い女ですから。今更こんなこと、どうってことありません」


「…………」


 瑠璃は「なーんて」と最後にひと言付け加えてから、ふと真剣な表情を浮かべた。


「……御大地くんが話してくれたなら、わたしもちゃんと話さないとなりませんね」


「話す……?」と僕が疑問を向けると、瑠璃は頷いて、口を開く。


「……。……わたし……実は、兄さんと――」


 そのとき、チャイムが鳴った。昼休みの終わりを告げるチャイムだ。


「もうこんな時間か。次、移動教室だったよな、さっさと片付けないと」

「え、ええ、そうですね」


 僕らは慌てて机の上を片付けて、次の授業の準備を始めた。


 結局、その日はそのまま、瑠璃の話の続きを聞くことはなかった。

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