それでも、優子〈わたし〉は
(……ごめんね、円)
円に『恋』をしてから、わたしが何度心の内で、円に謝罪したのかわからない。
とにかくこれまでわたしは、何度も円を思い浮かべては、謝っていた。
円と過ごす時間の合間に、円と過ごした日の夜に、そして現在のように――円に会う前の朝にも。
でも、消えない。精算はされない。むしろ、どんどん罪は濃くなっていく。
せめてものできる償いはただひとつ。
わたしの想いを、最後まで隠し通すこと。
『それであなたはいいの?』
わたしの中にいるもう一人のわたしが、幾度とそう問いかける。
そのたびに、わたしの決意はユラユラと揺らぐ。
本当は、本音は、円のすべてを欲しいに決まってる。
――でも、世の中すべてが手に入るわけじゃない。
「……時には、諦めも肝心なのよ」
そう声に出して、自分を戒めて――わたしは今日も家を出た。
『このままじゃあ、いつか誰かに円を取られちゃうかもよ』
欲望に忠実なわたしが、耳元で囁いてくる。
『元々、わたしのものじゃないって? アンタってば健気よねー。でもさ、もしかしたらって考えない? 円とわたしが同じ気持ちだったら……って』
考えたことは――正直ある。でも、今ならハッキリ言える、同じ気持ちなわけないって。円の『恋』する相手は、もう別でいるんだから。
転校生が、いるんだから。
円の『恋』する相手は――やっぱり、頼もしい男の人なんだから。
『そんなことないかも。あなたが告白すれば、何か変わるかもよ?』
――そんな小さな確率に賭けられるほど、わたしはバカじゃないわ。
『本当にいいの? アイツにも言われてたじゃない、後悔ないようにって。気持ちを伝えられたなら、それでひとつ、わたしの想いは解消されるのよ』
――そう……かもしれないわね。
想いを伝えてしまえば、どれだけ気持ちが楽になるだろう。
今まで溜めてた想いをぶつけられたら、どんなにスッキリするだろう。
告白が成功してもしなくても、わたしの中にある錘がひとつなくなることは確かだと思う。
『伝えてみたら?』
――円に、長年隠してた想いを。
「……」
――……伝えてみるのも、アリなのかな。
「あ、優子おはよー!」
大好きな人の声が聞こえ、わたしの意識は外へと向いた。
気づけば、校門の前まで来ていたわたしは、偶然にも円と合流していた。
「……!」
円に笑顔を向けられて、告白に傾いていた気持ちは、一瞬にして正された。
「おはよう、円」
――そうよ、わたし決めたじゃない。この罪はずっと心の中に閉じ込めて、償っていくって。
危うく、間違いを起こすところだった。
わたしは円のこの笑顔が好き。円の優しさが好き。わたしのたったひと言で――それを曇らせるなんてこと、あってはならないのよ。
だからわたしは、いつもどおり変わらず、円の『親友』として生きていくの。
『……本当にそれでいいの?』
――それでもいい。わたしは、永遠に円の親友でいるわ。
『想いを吐き出せたら、楽になるのに?』
――わたしが楽になっても、今度は円を苦しめることになる。円は優しいから……絶対にわたしを傷つけないように、気を遣いつづけることになるかもしれない。そんなことになったらもう二度と……円と、『親友』でいられなくなる。
『後悔、しない?』
――……する後悔になっても、いい。
これはわたしが決めた、罪の精算の仕方よ。
(――それでもわたしは、円の『親友』で居続けるわ)
だから、改めて伝えさせて。
「円」
「……? 何、優子?」
――わたしの、この決意を。
「わたし、これからもずっと円の親友だからね」
円は「どうしたの、急に〜」と笑ってから、
「わたしもだよ! わたしも、優子のこと好きだもん!」
……って、言ってくれた。
(……。……これでいい。わたしがそう決めたんだもの)
わたしたちは、いつものように親友らしい雑談を交わしながら、教室へと歩んでいった。
――どうか、円の『恋』が成就しますように。
そう願うのが、親友の務めなの。




