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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第三章二節:それでも隠す『葛城優子』
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一面だけじゃ語れない

 ――『というわけで。アタシ、卒業式の日に、もう一度守に告白しようと思ってるから、フラレたらちゃんと励ましてよね、優子(ゆうこ)!』。


 告白宣言をした(まどか)は、最後にそう話して、会話は終わった。


 現在は放課後。補習からやっと解放されたわたしは、ひとり廊下を歩いていた。


(さっさと帰って、録画した推しのライブ観なくっちゃ)


 そんなことを考えながら曲がり角を曲がったとき、ひとりの男子生徒が見えた。


 あれは――瑠璃(るり)の兄、貴志(たかし)だわ!


 円の美少女っぷりはもちろんすごいんだけど、負けず劣らず、貴志のイケメンっぷりもヤバいわね……。


 ……あ、そういえば貴志って、円のことが好き……疑惑があるのよね。


 学祭の準備のとき、円は貴志に呼び出されていたけど、結局あれはただの生徒会として用事があっただけらしいし……特になんにもないのかしら。


 ……ううん、もしかしたら本当は好きだけど隠してる可能性も……! ……くっ、思い出したら急に気になってきたわ。でも、わたしと貴志は元々交流もないし、いきなりそんなこと聞いたら、頭のおかしな先輩認定されちゃうわ。


 しょうがないわね。他人の気持ちなんてとやかく突っ込むものでもないし、ここはスルーしときますか。


「あの、俺に何か用ですか?」

「どぅわっ!?」


 ――と思っていた矢先、気づいたら目の前に貴志が立っていた。


 あまりに驚いて変な声を上げてしまうわたし。


「なっ、何よいきなり!」

「いや、だって先輩、ずっとこっち見てきてましたから……何か用があるのかと思って」

「……へっ」


 ……やだ。わたしったら、ずっと貴志のこと見ちゃってたんだ……。


「……悪かったわ。いやほら……さすが『学園の貴公子』っていわれてるだけあってカッコイイなぁって思っててね」

「学園の貴公子……?」

「ああ、いやなんでもない! 忘れて!」


 わたしはそう言って、さっさと立ち去ろうとしたけど、「あの、先輩」と貴志に後ろから呼び止められてしまった。


 なんで呼び止められるの……と、疑問に思いつつ振り返ると、貴志はこう話す。


「先輩って、『恋』してますか?」

「はぁ!? なっ……何よ、いきなり!」


 予想外の質問に、半歩距離を取るわたし。

 一方で、貴志は気にすることなく、話を続けてくる。


「俺、『恋』って何かよくわからなくて。先輩なら、何か知っているかなと思ったんですが」

「……何? アンタまさか……やっぱり円のことが気になってるわけ?」

「……。まあ、そうですね」

「え!? マジで!?」


 あんまりにも素直に告白されて、驚きを隠せなかったわ。


「そうだったのね……。ま、わたしは円の親友でもあるし、話なら聞いてあげなくもないけど、でも、円は――」

「円樹先輩は御大地(みおおじ)のことが好き、ですか?」

「そう! ……って、それ、アンタも知ってたのね……」

「瑠璃から、いろいろ話は聞いてますから」

「……なるほど」


 瑠璃ちゃんは、円の『恋』の相手も把握済みなのね。

 それでもって円の『恋』を応援するって……ううん、意図が全然見えないわね。


 ……にしても、『学園の貴公子』っていっても、結局は『学園一の美少女』に恋するもんなのね。


(世知辛いわー)


 なんて、うんうん唸っていると、貴志は「あの、何か……?」と聞いてきたので、わたしは我に返った。


「ううん、なんでもないわ。でも貴志、残酷なようだけど先に言っておくわ。アンタの『恋』は叶わない。円の想いは絶対よ。それを崩すのはなかなか……」

「……?」


 なぜか貴志はきょとんとした表情でこちらを見つめてきていたので、わたしも首を傾げて返した。すると貴志も首を傾げはじめ、お互いよくわからない状態が続く。


「……んと、貴志……アンタ、円のこと気になってるって」

「はい」

「好きなんでしょ、円のこと」

「……はい?」


 ……あ、ここからもう食い違ってたのね。


「じゃあなんなのよ、円のことが気になってるって」

「瑠璃の恋路を邪魔しかねないので、気になってるだけです」

「うわ、重っ! 何、アンタシスコンなの!?」


「シスコン……? よくわかりませんが、俺は瑠璃のことが一番好きです」と貴志は言っていた。……うん、なんでこんな顔のいい貴公子の恋愛話が耳に入ってこないかが、これでようやくわかったわ。


「……瑠璃も、そんな円樹先輩を応援するようなことを言うし……『恋』というのは、そういうものだと円樹先輩は話していましたが、理解できないんです」


 貴志はもどかしさを思わせる目つきで、こう話す。


「『恋』や『愛』は――その人を独占するためにあるんじゃないんですか?」


 独占、ねぇ……。


「それも一理あるかもね。でも、それだけじゃないわ。そういったものにはね、人によって様々な形があるのよ」

「様々な形……?」

「そうよ。受け入れること、突き放すこと、どんなときでも支えること……いろいろな表現があるっていうか。つまり、一面だけじゃ語れないってこと」


 例えば、とわたしはこう問う。


「瑠璃がもし、アンタが好きだって言ってきたらどうする? 瑠璃がアンタに本気で『恋』してるって言われたら、アンタは言われるがままに瑠璃を独占する?」


「はい」


「『はい』じゃないわよ! そこは断るって答えるとこ……まあいいわ、それもアンタなりの『愛』だもんね。……あのね、一般的には兄妹とは繋がらないもんなの。だってよくないでしょ、道徳的にというか倫理的に……」


「それは確かに、ですね」


「よかったわ、そこは納得してくれたようで……」


 胸を撫で下ろすわたし。貴志って、不思議な奴ね。


「まあほら、こんな感じで、相手に対してどうするか結果が変わるってわかったでしょ」

「……ええ。理屈はとりあえず」


 渋々といった感じだったけど、わたしの説明を受け入れてくれたみたい。


「お話に付き合ってくださり、ありがとうございます。では失礼します」

「はいよー、アンタもステキな『恋』ができるといいわね」


 なんて先輩らしい風を吹かせて、その場を去り、わたしは下駄箱で靴を履き替えながら、ふと思う。


(兄妹……)


 兄妹だからか、どことなく貴志と瑠璃は顔や雰囲気が似ている気がする。

 一方で、前から感じていたけど、円と転校生もなんとなく似ているのよね。


(まさか……ね)


 そんなありえないドラマみたいな話を想像するより、勉強がんばらないと。受験だって近いんだから。


(進路、どうしよっかなー)


 なんて思うだけで、未来の自分のことなんて、まったく想像できなかった。

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