あなたが『恋』をしてから(2)
週が明け、いつものように登校し教室へ赴くと、すでに円が着席していた。
「おはよう、円」
わたしがそう声を掛けると、円は笑顔で「おはよう、優子!」と挨拶を返した。
わたしが席につくなり、円は後ろからこう話しかける。
「優子、今日再テストでしょ? 大丈夫そう?」
「大丈夫よ。円に教えてもらって、土日もしっかり復習したんだから」
「そっか、がんばってね……!」
親指を立て、グッドポーズをしてみせる円。
――なんだか円、憑き物が落ちたみたいな顔してる。
先週までは失恋を引きずって、落ち込んでいた感じがしてたんだけど……今日はそれがない感じ。
「円……なんかちょっと元気になった?」
わたしは思い切って聞いてみると、円は「やっぱり優子、だね。なんでもおみとおしなんだもん」と笑ってから、こう言う。
「――アタシ、今度守に告白しようと思ってね」
思ってもみなかった円の言葉に、わたしは目を丸くした。
「円……この休みの間に、どんな心境の変化があったのよ……!?」
わたしは驚きのままにそう聞いた。
「えへへ、休みの間っていうかね、このあいださ、図書室にいたんだけれど、まあちょっといろいろあって、最終的に瑠璃ちゃんに背中を押してもらったの」
「る……瑠璃が? でも、瑠璃にとって円はライバルみたいなもんじゃない」
「それでも、だよ。お互い全力で想いを吐き出した結果を受け入れるって、あの場で通じあったの」
正直、訳がわからないわ。
瑠璃も瑠璃で、なんでそんなことを……。
「彼女の立場になれた、瑠璃なりの余裕……なのかしら?」
「それは違うよ。余裕なんてないはず……今の瑠璃ちゃんにとって、守の『信念』だけが頼りなんだもん」
「信念……?」
「うん。とにかくね、アタシは嘘偽りなく、正直な気持ちでお互いに納得したいの」
話がハッキリと見えてこない中、円は続けてこう話す。
「――アタシはちゃんと守に、守自身の気持ちを認めさせたいの」
小悪魔的に笑う円――今まで見たことない表情に、思わず目が釘付けになった。
わたしはすぐにハッとして、会話に戻る。
「認めさせる……?」
「……そそ。……まあなんというか、守もまだアタシのこと好きだと思うんだよね。だからね、守にはちゃんと気持ちを決めてほしいって思ってるの」
「転校生が円のことが好きって……でも、今は瑠璃とその……付き合っちゃってるわけじゃない?」
「そんなの関係ないよ。結局は守次第なんだから」
「……円、アンタまさか『略奪』しようなんてことを……」
わたしが恐る恐る言うと、円は曇りない笑みで答える。
「うん! そういうこともあるかもね!」
「円! アンタはいつからそんなと恐ろしい発想を……!」
わたしがオロオロしていると、円は慌てて両手を振りながら、「いや、そんな真に受けないでよ! 冗談だよ!」と弁明してきた。冗談だとしても、円がそんなこというようになるなんて……恋愛の与える影響って、冗談ならないわ。
「『略奪』する気はないけれど……アタシはきちんと守に向き合ってもらいたいんだ。今後のことも含めて……ね」
「……? ……あのさ、前から気になってるんだけど、円と転校生の間に何かあるの?」
そう聞くと、円は一瞬目を逸らした。それを見て、円は何か隠してると確信した。
「……いつか落ち着いたら、優子には話すね」
結局、円にそう返されてしまった。
前に言われたことと同じだ。
(わたしに隠さなきゃいけないことって、なんなのよ……)
今までずっといっしょに過ごしてきて、どんな悩み事も話し合ってきたのに。
(結局、わたしは……)
――ううん、円が話したくないなら、そっとしてあげなきゃ。
幼なじみだろうと、話したくないことだってあるわよ。
……幼なじみなら。
(……ああ、ほんと最悪だわ)
――円が『恋』をしてから、なんだか円が、遠く感じるから。




