独りよがりな本音
「優子、アタシ……目、真っ赤?」
円は目を真っ赤に腫らしながら、上目遣いにわたしにそう聞いてきた。
「そりゃあ、そんだけ泣いたらね」
「そっか」
正直、円がこんなに泣いた姿を見るのは初めてだった。
今まで円は全然弱音なんて吐いてこなかったから。
あまりのひどい泣き顔に、それだけ円の『恋』が本気だったんだって伝わってくる。
「……円、家に帰りづらいとかあったらさ、今日はウチに泊まる? ウチの親、夜勤とかでいないし。こっちは構わないけど」
円は悩んでいるような素振りを見せたけど、結局「ううん、大丈夫」と答えた。
「ありがとう、優子。お母さんにはなんとかごまかすから大丈夫。今日はちゃんと家に帰るよ」
すっかり円は笑みを浮かべていた。
わたしは「わかった、気をつけて帰るのよ」と言い、円をその場で見送り、わたしも帰路へついた。
(家に誘うって、何言ってるのよ、わたし)
自宅に着き、内心呟くわたし。
(そんな急に言われても、円が困るに決まってるでしょ。今後は気をつけないと……)
自戒しながら自室へ向かう。部屋に入った瞬間、早速制服を脱ぎ捨てていたときだ。
『円が失恋してよかったね』
と、声が聞こえた。
いや、声が聞こえたんじゃない――これは、わたしの中にいるもう一人の心の声。
『でもさー、あの転校生、今度は違う女と付き合い出したわよね?』
「……いいじゃない、それで」
『本当にそう思ってる? アンタは、それにも若干腹を立てているはず』
神経を逆撫でするような口調で、心の声は責め立ててくる。
『円とデートして、そのあとも思わせぶりな曖昧な態度を取りつづけて、学祭の出し物にまでちゃんと顔を出してきて――なのに、それなのに転校生は結局同じクラスメイトの女を選んだ!』
「……」
『ねぇ、なんでだと思う? アンタも薄々勘づいてたでしょう……円と転校生は両想いだって』
「……」
――円が自分の気持ちを吐露して泣いたあの日、『結ばれることはなくても』と発言していたことが、わたしの中でずっと引っかかっていた。
……どうして、結ばれることはないって言い切っていたのかしら。
転校生がずっと素っ気ない態度を取ってるから? 円はもう、転校生が瑠璃へ気持ちが向いていることに知っていたから?
なんか……どっちも違う気がする。
そうだったら、もっと前の段階から転校生のことを諦めていそうだし……また違う理由がありそうな感じがするのよ。
……そういえば、前にわたしが、円が転校生のことを呼び捨てにしている理由を聞いたときに、結局『いつかちゃんと優子に話す』……みたいな、変なはぐらかせを受けたんだっけ。
何か複雑な事情が円と転校生の間にある……?
……。
……それは、何?
『しっかし、転校生も円じゃなく瑠璃を選ぶとはねー。円のほうがかわいくていい子だっていうのに』
「……そうね。なんとなく、転校生は円のことが好きなんじゃないかって思ってたんだけどな……」
円からのデートの誘いも乗ってるし、普段のお昼休憩のときも円と会ってたし、学祭のときもウチのクラスに来てくれたし……ま、それは瑠璃と来やがったけど。
でも、わたしは気づいてる。
学祭のとき、転校生は瑠璃と来ていたっていうのに、円ばかりを目で追ってた。
それって、円が好きだからじゃないの?
素っ気ない態度も、好きだから緊張してそんな態度を取っちゃうとか、そんなんじゃないのかしら。
『――円の『恋』は必ず叶うって、アンタ信じきっていたわよね? 裏切られた気分はどう?』
心の声は、変わらず意地悪な物言いで語りかけてきた。
「……わたしが勝手に期待しただけの話に過ぎないわ。そんなことよりも、瑠璃の想いが実ってよかったじゃない」
そう言い切ると、心の声は止んだ。
――ああ、もう本当に気分最悪。
転校生の奴、何考えてるか本気で意味わかんないわ。
アンタが好きなのは、結局瑠璃だったの?
アンタにとって、円はなんだったの?
円は、転校生のことどう思ってたの?
円は、円の『恋』を諦めるの?
――わたしは、二人にどうなってほしいの?
「……本当は卒業まで、ただ三人で話せてるくらいがちょうどよかったのよ……」
そんな確かな本音は、完全にわたしの独りよがりで、誰にも言えるはずなかった。




