『恋』の再開
最悪のタイミングで告白を聞かれてしまい、この場には気まずい空気が流れていた。
しばらくアタシたち四人は硬直し、互いに目を合わせていたけれど、それを真っ先に打ち破ったのは、貴志くんだった。
「瑠璃、一体どこへ行ってたんだ?」
まるで何事もなかったかのようにそう尋ねる貴志くん。一体、貴志くんのメンタルはどうなっているんだろうとアタシは思ったけれど、口を挟むことなく、ただ今は静観することにした。
瑠璃ちゃんは一瞬戸惑いながらも、口を開く。
「き……今日は点検の日で、その業務も終わったので先生に報告をしに行ってたんです。御大地くんはそれをお手伝いしてくれてたから、いっしょにいるの」
説明し終えた瑠璃ちゃんは、チラリとアタシに視線を向け、またすぐに貴志くんへを戻す。
「兄さんはどうしてここに?」
「それはもちろん、瑠璃を――」
「邪魔してすみません。大事なときに」
貴志くんの言葉に被せるようにして守はそう言うと、瑠璃ちゃんの肩を引き寄せた。
瞬間、貴志くんの眉がピクリと跳ねるのがわかった。
「僕らは一旦失礼しますので、どうぞ」
そう話し、瑠璃ちゃんと出ていこうとする守。
アタシは慌てて「待って!」と呼び止めた。
「――守! これは誤解よ! 貴志くんのこれは告白とかじゃ……」
「何をそんなに否定することがあるんですか」
御大地くんは少しだけこちらを向いて話す。
「別にこれが告白だろうがそうじゃなかろうが、どちらでもいいことです。僕には関係ない」
「……っ!」
――『関係ない』って……。
守の嘘つき。絶対に動揺しているクセに、不安になっているクセに。
「……」
……でも、アタシは何もいうことができなかった。ただ、現状を受け入れるしか……。
「――御大地、俺はお前と円樹先輩が元々どんな関係だったか知らないが、なんだかそれは冷たすぎるんじゃないか? 瑠璃から話を聞いていた限り、少なくとも御大地は先輩に対してそんな態度じゃなかったはずだ」
「兄さん……!」と瑠璃ちゃんは呟き、ほんのり耳を赤くして目を伏せた。
守は貴志くんをじっと睨みつけた。
「この際だから聞くが御大地、お前の瑠璃への『愛』は本物か? お前は先輩に『恋情』を残しながら、瑠璃と付き合ってるんじゃないか?」
「そんなこと……ありませんよ」
俯きがちに答える守。瑠璃ちゃんは「兄さん、やめて」と守の前に立ち、貴志くんに抗議した。
守の答えに呆れるかのようにため息をつく貴志くん。
「そうか。なら、これでも問題ないな?」
次の瞬間、貴志くんはアタシの肩を抱き寄せ、身体を密着させた。突然のことにパニックになるアタシ。
「俺が先輩に何をしようと、お前は別にいいんだな?」
(はぁ!? アタシがダメに決まってるでしょ!)
勝手に話を進められ、口には出せずに内心そう叫ぶアタシ。
対して守は、明らかに貴志くんに向けて敵意を剥き出していた。
「……それは話が違いますよ。円樹先輩の気持ちも尊重されるべきですから」
「先輩が俺に靡けば問題ない」
「……そんなことあるはずない」
「なぜ言い切れる?」
睨み合う二人。
まさに一触即発の空気が場に流れはじめていた。
どうにかして二人を落ち着かせないと……と、考えていたとき、先に間に入ってくれたのは瑠璃ちゃんだった。
「兄さん、やめて」
瑠璃ちゃんは貴志くんの手を引き、アタシから離してくれた。
「わたしたちの関係に口を挟まないで。わたしへのお節介のために、円樹先輩を巻き込むようなこともしないで」
「瑠璃――」
「わたしはもう子供じゃない。自分のことは、自分で決着をつける」
「でも瑠璃、俺は……」
「兄さん」
瑠璃ちゃんは貴志くんの手を払い除け、こう言い放つ。
「――わたしはもう、兄さんの『愛』は必要ない」
瑠璃ちゃんはそのままアタシへと視線を移し、こう続ける。
「……円樹先輩。そういうわけですので、わたしはどんな事情があれ、御大地くんを手放す気はありません。けど……だからといって、邪魔をしてくるなとも言いません」
瑠璃ちゃんはアタシに微笑みかけ、言う。
「どうか全力でかかってきてください。わたし、それでも負けませんから」
瑠璃ちゃんは守の手を引き、図書室をあとにした。
残されたアタシと貴志くん。
貴志くんは下ろした両手を強く握り締め、最後まで瑠璃ちゃんの背中を見つめていた。
「……明らかに御大地の気持ちは瑠璃に向いていなかったのに。瑠璃はわかっていないんだ……」
悔しげに言葉を洩らす貴志くんに、アタシは言う。
「……ううん。きっと瑠璃ちゃんはわかってる。わかった上で、瑠璃ちゃんは守と向き合うと決めたんだよ」
「……わかっているなら、なんでまた」
「しょうがないよ。『恋』をするってそういうことだもん」
貴志くんは腑に落ちないといった感じだった。
「円樹先輩はどうするんですか? あのまま、御大地の奴を取られっぱなしでいいんですか」
「ううん。もうウジウジ立ち止まるのはやめた。だって瑠璃ちゃん、ああ言ってくれたんだもん」
アタシはすっかりいつもの気持ちを取り戻していた。
「――アタシは、アタシの『恋』を再開する」




