二度目の告白
学祭を機に、自然とアタシと守はやり取りを交わさなくなっていた。
せいぜい、校内ですれ違ったら挨拶するだけ……いや、その挨拶をするっていうのも、アタシからなんだけどね。
なんだかぽっかりと穴が空いたみたい。
学祭が終わったら、またいつもみたいに守と話せると思っていたのに。
待っていたのは、こんな結果だったなんて。
(守に会いに行きたいけど……それはそれで、瑠璃ちゃんにも迷惑かけちゃう……よね)
邪魔するようなこと……しちゃダメだ。
「はぁ〜……」
思わず深いため息を洩らしてしまったときだった。
「こんなところで会うなんて、奇遇ですね」
と、誰かから声を掛けられた。
男の人の声に、守を連想してしまったけれど――この声は守じゃない。
「……貴志くん」
「円樹先輩って、図書室に来るようなイメージはなかったんですが、本読まれるんですね」
貴志くんはアタシが広げていた本に目を落としながらそう話した。
「ううん、普段は全然本なんて読まないよ。なんていうか気分転換になるかなって……でも、文字を読んでも頭に入らないや」
「本を読むのにも、意外と体力が必要ですからね」
「貴志くんは、本でも借りに来たの?」
「いえ、そうではなく、俺は瑠璃を迎えに……」
貴志は話しつつ、カウンターのほうを見た。
カウンターには、今は誰もいない。
「……瑠璃を迎えに来たんですが、誰もいないですね」
「今日当番じゃないんじゃない?」
「いや、間違いなく今日は当番の日です。だから俺はここに来たんですから」
「……っていうか貴志くん、帰りも妹といっしょなの? もうそっとしてあげなよ、瑠璃ちゃんはもう……」
――彼氏がいるでしょ、と言おうとして、言葉に詰まってしまった。
だってその彼氏は、アタシが今も好きな人だから。自分の口で言うのはすごくはばかられてしまう。
貴志はアタシを一瞥し、「……ああ」と呟いたかと思えば、
「御大地の件は残念でしたね」
と、まったく気持ちのこもってない言葉をかけてきた。
「まあでも、俺としては瑠璃が選ばれてよかったなって思いますけど」
「……貴志くんって、デリカシーがホントにないよね……」
だけれど、変に気を遣われるよりはいいかも。
まさか、貴志くんの無神経さに救われるなんて思わなかったや。
アタシはそろそろ帰ろうと本を手にし席を立ったときだった。
「――でも、正直俺は納得いってないんです。二人が付き合いはじめたことに」
……と、貴志くんは話した。
「円樹先輩はどうですか?」
「……」
どうって……そんなの、嫌に決まってるよ。納得なんていかない。
でも、守が瑠璃ちゃんを選んだんだから、アタシはそれを受け入れなきゃ。
「…… 瑠璃ちゃんは守に『恋』してて……守はそんな瑠璃ちゃんの『恋』に応えた――それだけでしょ」
思わず吐き捨てるように言ってしまうアタシ。
貴志くんは「……そうですか」と呟き、こう続ける。
「でも先輩、気づいてました? 演劇が終わる最後まで、御大地は瑠璃なんか見ずに、円樹先輩のことを見ていたこと」
「……え?」
守が……アタシのことを?
「――なんだか未練があるようにも見えました。御大地は本当は円樹先輩のことが好きなんじゃないかって、俺思ってしまったんです……元々、瑠璃の話を聞いていて薄々そう感じていたんですけど。だから俺、前に先輩に『御大地から手を引いてほしい』なんてお願いをしたんです」
じゃあ、守のアタシへの『恋』は――まだ終わってないってこと?
「……でも、守は瑠璃ちゃんと――」
「そこが納得いかないんです」
貴志くんの目に、怒りの色が垣間見えた。
「もしかして、御大地の奴は妥協で瑠璃を選んだんじゃないかって……だとしたら俺は、御大地の奴が許せない」
――妥協、か。
そんな理由で、守が瑠璃ちゃんと付き合ってるとしたら……。
「……確かに、妥協なんて許せない」
アタシは自然と口をついていた。
「気持ちを押し殺した『恋』がいいとは思えない。瑠璃ちゃんにだって失礼だよ」
貴志くんはアタシが意見したことに一瞬驚きを見せたけれど、「同じように思ってくれたようでよかったです」と呟いた。
「なら、俺からひとつまた、お願いしていいですか?」
急にそう言われ、アタシは何か見当もつかなかったけれど、とりあえず頷いて答えた。
貴志くんはアタシの手を取るや、こう言う。
「俺と付き合ってください」
「……は?」
アタシが間抜けな返事をしたときだった。
がらりと扉は開き――見れば、その先には守と瑠璃ちゃんが立っていた。
ほんのり顔を赤らめる瑠璃ちゃんの隣で、守はただアタシを見つめていて。
――絶対に、今の聞かれてた。
アタシは貴志くんを睨みつけると、貴志は肩を竦めてこう話す。
「ほら、瑠璃は今日当番だったでしょう」




