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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第三章一節:覚悟を秘めた『円樹円』
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あなたはもうただの弟

 ひとしきり泣いたあと顔を上げると、目の前には優しく微笑んで見守ってくれていた優子(ゆうこ)が見えた。


「落ち着いた?」

「うん、もう大丈夫……ぐず」

「まだちょっと残ってんじゃん」


 優子は笑った。その笑い声に、アタシの心も少し軽くなる。


優子(ゆうこ)、アタシ……目、真っ赤?」

「そりゃあ、そんだけ泣いたらね」

「そっか」


 帰ったらお母さんなんていうかな……なんて考えていると、優子はこんなこと言う。


「……(まどか)、家に帰りづらいとかあったらさ、今日はウチに泊まる? ウチの親、夜勤とかでいないし。こっちは構わないけど」


 アタシは悩んだけれど、結局「ううん、大丈夫」と答えた。


「ありがとう、優子。お母さんにはなんとかごまかすから大丈夫。今日はちゃんと家に帰るよ」


 アタシはもう自然と笑えていた。


 優子は「わかった、気をつけて帰るのよ」と言って、今日はこの場で二人それぞれ帰路についた。




 ◇




「おかえり円――って、何その顔!」


 アタシが家に着くなり、お母さんは目を見開いてそう言ってきた。


「ああ……今年高校最後の学祭じゃん? それでなんか、感極まって泣いちゃって……」


 と、アタシは事前に考えていた言い訳をして、逃げるように自分の部屋へ行こうとしたけれど、「円」と、お母さんに呼び止められてしまった。


 アタシはお母さんに背を向けたまま、「……何?」と返事した。


「……学祭で、守と過ごしたの?」

「…………」


 ――またか、と思った。


 お母さんに守の話を聞かされてから、アタシは守の話を持ち出すことは一切しなくなっていた。お母さんから守の話をされても、ずっと避けてきていた。


 お母さんはきっと、アタシがきちんと守と距離を置いたことを確認したいのだと思う。でも、こっちからしたらいい迷惑でしかない。口出しも、干渉もしてほしくない。


「お母さんはあなたの気持ちを否定したくないわ。でもね、弟とは――ただ姉弟だけの関係でいてほしいの。いえ、できれば……」


『できれば、今後付き合ってほしくない』――と、お母さんが言いたいのは十分理解していた。


 言われずとも、もうアタシは守と付き合えないのはわかってる。


 何度も何度も守には断られてきたんだ。埋まらない溝にやきもきさせられてきたんだ。そしてついに今日――『恋』は実らないと突きつけられたんだ。


 ――守の『恋』は、アタシじゃなくなったんだ。


「お互いの出し物は見に行ったけれどね、ずっといっしょに過ごしたわけじゃないよ」


 アタシは振り返り、お母さんに言う。


「守はもう、ただの弟だもん」


 アタシはそう言い残して、自分の部屋へ向かった。



(――本当に?)


 扉を閉めて、部屋でひとりきりになった瞬間、アタシは自問していた。


(本当に、守はただの弟?)


 失恋したからって、そんな簡単に切り替えられる? ――ううん、そんなわけない。


 アタシはまだ守が好き。

 守はもうアタシのことなんて……。


(―― 見てない)


 守は次へ進もうとしてる。


(……きっと、そんな守のほうが正しい)


 守はちゃんと『姉弟』という事実と向き合ってるんだ。一方でアタシは、ただ現実から目を逸らして、自分の『恋』ばかり優先して。


 ――ねぇ、でもさ、守は本当にそれでいいの? それが守の……本当の気持ち?


「……ううん、ちゃんと今を受け入れなきゃ……」


 扉に寄りかかりながら、アタシは小さく蹲って、そう呟いた。

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