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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
第三章一節:覚悟を秘めた『円樹円』
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初めての『恋』は

「学祭、お疲れ様でしたー! さあさ、今日はパーッとテンションあげてくわよ!」


 優子(ゆうこ)は学祭の打ち上げを行うカラオケの一室にて、そう高らかに叫んだ。


 ワーッと盛り上がるクラスメイトたち。


 早速みんな順番に歌いはじめ、クラスのムードは学祭以上に高まっていた。


 一方で、アタシは気持ちが乗り切れず、そんなみんなを見守りながら、隅でジュースを飲んでいた。


(アタシ今、ちゃんと笑顔作れてるかな)


 ううん、今だけじゃない。ちゃんと閉会式もできていたかな。……みんなが楽しんでくれていたみたいだから、大丈夫だとは思うけれど。


(まどか)、どうしたの?」


 そう考えているところに、優子が声を掛けてきた。


「別になんもないよ」と、咄嗟にアタシは答えたけれど、優子はすぐにアタシの嘘を見抜いたようで、こう話す。


「円、あんなの気にしなくていいのよ、ただの演劇なんだから」


 ……ホント、優子はなんでもおみとおしだな。


 演劇でのこと、(まもる)瑠璃(るり)ちゃんにキスをした――あの光景が目に焼き付いて離れないでいた。


「……わかってる。でも……」


 演技だとしても……あれは本当に演技だったと思えない。


「でも……?」と、優子が続きを促してきたときだった。


円樹(つぶらき)さん! 次歌ってよ!」


 と、クラスメイトから誘われてしまい、話は一旦中断することにした。


 アタシはすぐに笑顔を取り繕い、「うん! 何歌おっかな〜?」とデンモクを受け取り、クラスメイトの輪の中に入っていった。


(今はみんなと打ち上げなんだから、これだけに集中して楽しまないと)


 アタシは強くマイクを握り、みんなの前で歌いはじめた。




 ◇




 打ち上げも終わり、アタシと優子は二人、帰り道を歩いていた。


 打ち上げの間は楽しい気持ちでいれたけれど、やっぱりそんな時間も終わると、再びあのときのショックがだんだんと蘇ってくる。


 煌びやかな街中を抜け、ところどころを照らす電灯があるだけの静かな住宅街の道に入ったところで、ふと優子に問いかけられる。


「ねぇ、円。さっきカラオケで言いかけてたことって何?」


 アタシは優子の言葉を受けて我に返り、「え、さっきのって?」と、聞き返した。優子は「ほら、わたしが演劇の話振ったときに言ってたじゃない『でも……』って」と、答えた。


「……あ〜……そう、だったね」と、アタシは言いつつ、優子に心配させまいと笑顔を作って、「でもね、本当に大したことじゃないの、だから……」と言葉を続けようとした。


「――円」


 ――だけれど、優子にそんなごまかしは通じなかったみたい。優子は足を止め、アタシをじっと見据えてきた。


 アタシもその場に止まりつつも、優子から目を逸らしてしまう。


 それがいけなかったのだろう、優子は一歩前に詰め寄り、口を開く。


「円、わたしに話してよ。話せば楽になることもさ、あると思うし……わたしは、ずっと円の味方よ」


 優子の言葉は嘘じゃない。

 本気でアタシに寄り添おうとしてくれている。


 優子はいつもそうだ。

 アタシが辛いとき、必ず声を掛けてくれる。


「……ありがとう、優子」


 ――優子になら、甘えてもいいかな。


 ここで話すのも……と思ったアタシは、近くの公園に移動した。夜ということもあって、ここは誰もおらず、二人ブランコに腰掛け、話をすることにした。


「……アタシがね、あのとき言いかけたのは、あれは演技じゃなかったんじゃないかってことだったの」


 優子は、一瞬眉を顰め、


「……転校生は演技抜きに瑠璃に……したってこと?」


 と相槌を挟んだ。


「もしかしたら、だけれどね」


 アタシは話しつつ、曇りがかった暗い空を見上げた。


「アタシね、一度だけ守の台本見たことあるんだ。ラストのシーン、覗いたことがあってね……そこには、最後は『王子様とシンデレラが幸せなキスをして終わる』とは書かれていたの。でもね、その横に『カーテン越しにしているフリをして影を見せる』って補足がメモされてた。だから、ああ、本当にするわけじゃないんだ、よかったって少し安心してたんだよね」


 優子を見れば何か言いたげに口を開きかけていたが、ぐっと言葉を飲み込んだようだったので、アタシは話を続ける。


「……でも、本番はあんなことがあって……アタシ、訳わかんなくなっちゃって。今、自分の中でぐちゃぐちゃしてて」


 ――ああ、ダメだ。なんか話してたら、喉の奥が震えてきてしまう。


「アタシね、正直守はアタシ以外をそう簡単に好きになるはずないって驕りがあったの。結ばれることはなくても、でも、守がほかの人のところに行っちゃうようなことはないって、思ってたの。でもさ……!」


 必死に抑えようとしているのに、歯止めが効かない。勝手に目に涙が浮かんでしまう。


 一回口を閉じようと思ったけれど、ここまで話してしまったら、アタシの気持ちも止まらなかった。


「――守は、瑠璃ちゃんを選んだんだよ。だからあんなことしたんだよ。いいことなのに、すごく悲しいの。喜んであげなきゃいけないのに、アタシ……!」


 不意に背中に温もりを感じた。優子は、後ろからアタシを抱き締めてくれていた。


「――円は優しくていい子だけどね、今は無理して喜んであげるとかしなくていいのよ。円は頑張ったわ。……今はわたしたちしかいないんだから、思い切り吐き出しなさい」


 アタシは優子の言葉を皮切りに、わんわんと大声で泣いた。これまで我慢していたものがとめどなく溢れてしまって、どうにもならなくて。


 優子はただただ無言で抱き締めつづけてくれて、アタシは子供みたいに優子の腕にしがみつきながら、ずっと、ずっと泣きつづけていた。


 ――人生初めての『恋』は、こうして『失恋』に終わった。

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