それでも、瑠璃〈わたし〉は
しばらくして、ようやく泣き止んだわたしに対し、御大地くんは寄り添いながら、微笑みかけてくれました。
「……なんで泣くんだよ」
「……だって、オッケーされるって誰が予想してたんですか」
御大地くんは「そうだよな」と言って、窓の外を見ます。
いつも間にか閉会式の準備も整っており、生徒たちも集まっていました。
「どうする? 今から行くか?」
「……目、赤い?」
「……ああ」
「……なら、やめます」
「じゃあ、僕らはここから見るか」
校庭の中央には、キャンプファイヤーの台座がありました。
その前に現れたのは、かわいらしいドレスのような衣装に身を包み、片手に松明を持った円樹先輩です。
遠くからでハッキリは見えませんが、円樹先輩の仕草や周囲の反応を見るに、とびきりの笑顔でみんなの前に立っているのだとわかります。
いよいよ台に火が灯されると、窓越しだというのに歓声が聞こえてきました。
「キャンプファイヤーなんて、大がかりなことをするもんだな」
「そうですね、変わった学校です」
わたしは横目で御大地くんを見ると、御大地くんは円樹先輩を見つめていました。
「……ねぇ、御大地くん」
「……ん?」
「どうして、わたしの告白にオッケーしてくれたんですか?」
「…………」
途端に押し黙ってしまう御大地くん。
……ああ、そっか。
御大地くんは結局、今も円樹先輩に『恋』してるんですね。
わたしの『恋』は叶ったわけじゃない。
叶ったのは、形だけ。
「……じゃあ、質問を変えます」
「……」
「御大地くんは、どうして円樹先輩に『恋』していることを認めないんですか」
御大地くんは一瞬下唇を噛み、悔しがる想いが垣間見えた気がしました。
答えようとしてくれない御大地くんに、わたしは詰め寄ります。
「御大地くん、教えてくれませんか。誰にも言い触らしたりだとか、絶対にしませんから」
「……」
問いかけても、目を伏せる御大地くん。
……ですが、もう引き下がりはしません。
「御大地くん。わたしはもう御大地くんの彼女……なんですよね? わたしは彼女として、どんな理由でもすべてを受け入れます。だから、答えてほしいです。……せめて、それだけは」
わたしが言うと、御大地くんは意を決したようで、「……そうだよな」と言い、わたしを見つめました。
「北千種さんは、なんでもおみとおしだな」
「……なんでもおみとおしなんてことありませんよ。わたしはただ御大地くんが好きだから……あなたの想いがどこに向いているのか、そのくらいわかります」
そう言うと、御大地くんは窓の外にいる円樹先輩を見下ろしつつ、ゆっくりと語りはじめてくれました。
「――実は、円樹先輩は僕の姉なんだ」
「……お姉さん?」と、思わずわたしは聞き返していました。
「……ああ。血の繋がった、本当の姉。訳あってずっと別々で暮らしていて……この高校で再会したんだ」
言われてみれば――二人の顔は、よく似ています。
「……姉だとわかっているのに、僕は彼女のことが好きでしかたない。でも、これは絶対叶えちゃいけない『恋』だと理解ってる。だから僕は、早くこの『恋』を諦めたくて……」
そっか……そうだったんですね。
やっとわたしの中で合点がつきました。
御大地くんが自分の気持ちを否定する理由、わたしの想いを受け入れてくれた真の理由も。
――やっぱり、御大地くんはずっと円樹先輩のことを見ていて、わたしのことなんて、ちっとも見てくれはしてなかったんですね。
ああ……なんだかむしろ、ちゃんとわかってスッキリしました。
「……打ち明けてくれて、ありがとうございます」
わたしは、そっと御大地くんの肩に寄りかかりました。
「……こんなこと言われて、嫌いにならないのか?」
「ちょっぴり嫌な気持ちになりましたけど、それ以上に、わたしは御大地くんのことが好きだから」
幼少期、あなたに守ってもらってから、ずっと好きで想いつづけていたから。今更この想いは、簡単に変わることはありません。
あなたがどんなにわたしじゃなくて、円樹先輩のことが好きだとしても、それでも、わたしは……わたしは、あなたを想いつづけます。
「――いつかわたし、御大地くんの『恋』を、わたしへの『愛』に上書きさせてやりますから」
御大地くんは目を見開き、それから瞳に影が落ちるのがわかりました。
それは罪悪感から……なのでしょうか。
(罪なんて感じることないのに。わたしは、あなたが隣にいてくれるだけで、それだけでいい)
ふと閉会式に視線をやると、こちらとは対照的に、外はみんなで歌ったり踊ったりしているようで、盛り上がっていました。
「……御大地くん」
「……何?」
「もう一回……シンデレラとしてじゃなくって、わたしとしてくれませんか?」
「……ああ」
キャンプファイヤーの明かりがかろうじて反射する薄暗い部屋の中、最後にわたしたちは、乾いた口づけを交わしました。




